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結奈&晴人編
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「ついに……この本を売る日がくるんだ」
晴人と一緒に作り上げた本を見つめて、結奈は緊張のあまり溜息をついた。
早くももう、イベントの前日。翌日のために彼女はポスターイラストも描いたし、各作品についてのメッセージを書いたフリーペーパーなんかも作った。本のラッピングも済ませて、もう万全なはず……なんだけれど。
ドレッサーに映る自分を見て、彼女は不安げな顔をする。
「これじゃあ……やっぱり、文学少女には見えないなぁ」
それは、派手な金髪をした、チャラチャラした自分。こんなナリでは、翌日のイベントでは何気に浮きそうだ。
だって、小説の同人誌のイベントで集まるお客さんって、晴人のように大人しめの人ばかりだろう……そんな気がするから。
「色……戻すかな」
結奈はぼんやりと呟いた。
自分にとってその髪の色は、クラスの中心の派手なグループの中にいる……そのことを示す象徴のようなものだった。金髪でいると、自ずと周囲は自分のことをスクールカーストの上位の存在として見てくれる。その地位を保つために、結奈は今まで背伸びばかりしてきて、疲れることも沢山あった。
しかし、もう大輝にはフラれたし……どうせ、これまで通り元のグループにいることなんてできやしない。だったら、今まで自分を苦しませてきた、この髪を元に戻すのに何ら躊躇は要らない。
それに……
『結奈……もう、無理しなくていい』
晴人のその声を思い出した結奈の口元は、そっと緩んだ。
(あいつ……柄にもなくかっこつけちゃって)
でも、晴人が言ってくれたその言葉は、結奈の心にじんわりと染みこんで……彼女は『本当の自分』でいていいんだって、安心させてくれているのだった。
「よし! 髪、戻しに行こう」
そう。私はもう、背伸びなんてする必要はない。だって……『本当の私』を見ていてくれる人がいるんだから。
その決意とともに、結奈はすっと立ち上がった。
*
翌日。待ち合わせ場所の切符売場で、大きなスーツケースを片手に待ち呆ける晴人を見て、結奈は思わず吹き出した。
「すごい荷物! って言うか、あんた、いつから待ってんのよ」
すると彼は振り返って……結奈を見て、驚いたように目を見開いた。
「結奈……その髪!」
「へへっ、文学少女っぽくしてみた。どう? 変かな?」
彼女はチラッと舌を見せ、少し首を傾げて不安げに笑った。
「いや……すごく可愛い。その方がいいよ、絶対に」
「えっ……」
晴人が真剣な顔で言ったので、結奈の胸はトクンと鳴り、顔はほのかに火照り出した。
「やだもう! そんなに真面目な顔で言われると、照れるじゃない」
彼女は照れ隠しに、晴人の背中をパァンと叩いた。
「いてっ! ちょっと、結奈……」
頬を染めた結奈は、ニッと目を細めてスーツケースを指差した。
「その大荷物! ブースに配置しなきゃ……でしょ? 早く行くわよ!」
可愛いだなんて、誰かに面と向かってこんなに真剣に言ってもらえたことなんて、今までなかった。だから……イベントのワクワクも相まった結奈の胸では、鼓動が高鳴って。上機嫌で、イベント会場のブースへ向かったのだった。
*
「さて! これでもう、お客さんを待つのみね!」
「うん……」
本やポスター、フリーペーパーの配置は済んだけれど、隣に座る晴人は、そわそわと落ち着かない。そんな彼を見て、結奈はクスっと笑った。
「あんた、何をきょどってんの?」
「うん……いつも、一人でブースで売るのも緊張するけど。二人で並んでるのも、何だかちょっと緊張して」
「はぁ? どっちにしろ、緊張してんじゃん!」
結奈はさも可笑しそうにカラカラと笑い始めたが……晴人は自分達が、何気に注目を集めているのに気付いていた。
会場で出会った晴人の同人誌仲間達は、結奈を見ると一様に驚いて目を丸くしていたし、ブースで開場を待つ間も周囲の視線はチラチラとこちらに集まっている。結奈自身はそんなことは気に留めていない様子だったけれど、清楚に決めている明るい美少女は、そこにいるだけで周りの注意を引き付けるようだ。
高まる期待感とともに、晴人はにっこりと微笑んだ。
「今日は何だか、いつもとは比べ物にならないほどに売れそうな気がする」
「当たり前じゃん! いつもはムサい男が一人で売ってるところに、こんなに可愛い美少女が来てやったんだから。ガンガン、売りまくるわよ!」
「いや、美少女って……自分で言う?」
晴人は苦笑いした。毎日会っているうちに結奈とのやりとりにも慣れてきた彼は、一丁前にツッコむこともできるようになっていたのだ。
「あら。本当のこと言って、悪いかしら? あ! 見て見て、ドアが開いた。開場よ!」
ドアが開くとともに沢山の人が会場の各ブースへと向かい……結奈は途端に、売り子モードに切り替わった。
晴人と一緒に作り上げた本を見つめて、結奈は緊張のあまり溜息をついた。
早くももう、イベントの前日。翌日のために彼女はポスターイラストも描いたし、各作品についてのメッセージを書いたフリーペーパーなんかも作った。本のラッピングも済ませて、もう万全なはず……なんだけれど。
ドレッサーに映る自分を見て、彼女は不安げな顔をする。
「これじゃあ……やっぱり、文学少女には見えないなぁ」
それは、派手な金髪をした、チャラチャラした自分。こんなナリでは、翌日のイベントでは何気に浮きそうだ。
だって、小説の同人誌のイベントで集まるお客さんって、晴人のように大人しめの人ばかりだろう……そんな気がするから。
「色……戻すかな」
結奈はぼんやりと呟いた。
自分にとってその髪の色は、クラスの中心の派手なグループの中にいる……そのことを示す象徴のようなものだった。金髪でいると、自ずと周囲は自分のことをスクールカーストの上位の存在として見てくれる。その地位を保つために、結奈は今まで背伸びばかりしてきて、疲れることも沢山あった。
しかし、もう大輝にはフラれたし……どうせ、これまで通り元のグループにいることなんてできやしない。だったら、今まで自分を苦しませてきた、この髪を元に戻すのに何ら躊躇は要らない。
それに……
『結奈……もう、無理しなくていい』
晴人のその声を思い出した結奈の口元は、そっと緩んだ。
(あいつ……柄にもなくかっこつけちゃって)
でも、晴人が言ってくれたその言葉は、結奈の心にじんわりと染みこんで……彼女は『本当の自分』でいていいんだって、安心させてくれているのだった。
「よし! 髪、戻しに行こう」
そう。私はもう、背伸びなんてする必要はない。だって……『本当の私』を見ていてくれる人がいるんだから。
その決意とともに、結奈はすっと立ち上がった。
*
翌日。待ち合わせ場所の切符売場で、大きなスーツケースを片手に待ち呆ける晴人を見て、結奈は思わず吹き出した。
「すごい荷物! って言うか、あんた、いつから待ってんのよ」
すると彼は振り返って……結奈を見て、驚いたように目を見開いた。
「結奈……その髪!」
「へへっ、文学少女っぽくしてみた。どう? 変かな?」
彼女はチラッと舌を見せ、少し首を傾げて不安げに笑った。
「いや……すごく可愛い。その方がいいよ、絶対に」
「えっ……」
晴人が真剣な顔で言ったので、結奈の胸はトクンと鳴り、顔はほのかに火照り出した。
「やだもう! そんなに真面目な顔で言われると、照れるじゃない」
彼女は照れ隠しに、晴人の背中をパァンと叩いた。
「いてっ! ちょっと、結奈……」
頬を染めた結奈は、ニッと目を細めてスーツケースを指差した。
「その大荷物! ブースに配置しなきゃ……でしょ? 早く行くわよ!」
可愛いだなんて、誰かに面と向かってこんなに真剣に言ってもらえたことなんて、今までなかった。だから……イベントのワクワクも相まった結奈の胸では、鼓動が高鳴って。上機嫌で、イベント会場のブースへ向かったのだった。
*
「さて! これでもう、お客さんを待つのみね!」
「うん……」
本やポスター、フリーペーパーの配置は済んだけれど、隣に座る晴人は、そわそわと落ち着かない。そんな彼を見て、結奈はクスっと笑った。
「あんた、何をきょどってんの?」
「うん……いつも、一人でブースで売るのも緊張するけど。二人で並んでるのも、何だかちょっと緊張して」
「はぁ? どっちにしろ、緊張してんじゃん!」
結奈はさも可笑しそうにカラカラと笑い始めたが……晴人は自分達が、何気に注目を集めているのに気付いていた。
会場で出会った晴人の同人誌仲間達は、結奈を見ると一様に驚いて目を丸くしていたし、ブースで開場を待つ間も周囲の視線はチラチラとこちらに集まっている。結奈自身はそんなことは気に留めていない様子だったけれど、清楚に決めている明るい美少女は、そこにいるだけで周りの注意を引き付けるようだ。
高まる期待感とともに、晴人はにっこりと微笑んだ。
「今日は何だか、いつもとは比べ物にならないほどに売れそうな気がする」
「当たり前じゃん! いつもはムサい男が一人で売ってるところに、こんなに可愛い美少女が来てやったんだから。ガンガン、売りまくるわよ!」
「いや、美少女って……自分で言う?」
晴人は苦笑いした。毎日会っているうちに結奈とのやりとりにも慣れてきた彼は、一丁前にツッコむこともできるようになっていたのだ。
「あら。本当のこと言って、悪いかしら? あ! 見て見て、ドアが開いた。開場よ!」
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