紅~いつもの街灯の下で

いっき

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結奈&晴人編

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 新学期。結奈は一学期とは打って変わり、黒髪ロングヘアの清楚な姿で登校した。

「えっ、結奈。あんた、どうしたの?」

「ヤバい……めっちゃ、可愛い」

 紅以外のクラスメイトには、この姿は初披露目で、今更だけれど、友人達の言葉が照れ臭い。黒髪ロングヘアの今の姿の方がいい……それは、夏休み終盤に紅からも言われていたし、クラスの男子達も自分を見て、心なしか色めき立っているように見えた。

 しかし結奈は、前の席の克也に新学期の挨拶をしている様子の晴人の方に歩を進めた。

「晴人! おはよう!」

 その瞬間、教室内には騒つきが広がる。

 そう……クラスの中心のグループにいた結奈が地味な晴人に自分から声をかけるなんて、一学期には考えられないことだったのだ。

「お……おはよう」

 しどろもどろになっている彼に、結奈はプッと吹き出した。

「なぁにを、新学期早々、きょどってんの! もっと、しゃんとなさい!」

「うん……」

 彼の親友だけれども休み中に連絡を取っていなかった克也が「どういうこと?」と言いたげな表情を晴人に向ける。そんな彼らを見てクスッと笑い、彼女は自分の席に向かった。

「ヤバい……めっちゃ、可愛い」

「藤岡って、あんな綺麗だったっけ……」

 クラスの所々から、男子のひそひそ声が聞こえた。しかし、彼女はそんな声は気にも留めずに鞄を机の横に掛ける。


「すごいね、結奈。大人気じゃん」

 先程、教室に入って来たばかりの紅が、結奈にそっと微笑みかけた。

「うん……まぁ、本来の自分に戻ったってだけなんだけどね」

 彼女はそう返して、苦笑いする。

 そう……自分はもう、背伸びも無理もする必要はない。馬鹿でどうしようもない、ありのままの自分を好きでいてくれる人がいるんだから。

 そんなことを想って、結奈の顔はそっと綻んだ。

 しかし、次の瞬間。掛けられたその声に、彼女は顔をしかめた。

「おぅ、結奈。久しぶりじゃん」

 聞くのは、あの日以来……一番聞きたくなかったその声に、彼女の胸は騒ついた。

「大輝……」

 自分の席の前に来て、いやらしい笑みを浮かべるそいつを睨む。そう……そこには夏休みのあの日、非情にも自分を捨てた元彼がいたのだ。

「斎藤……あんた、どの面下げて……」

 紅が今にも掴みかかろうとした、その時だった。

「ヨリを戻してやってもいいぜ!」

「はぁ?」

 酷い勘違い野郎の放つその言葉に、結奈と紅は耳を疑った。

「お前、夏休み終わっていい感じにイメチェンしたじゃんかよ。まだ、俺に惚れてんだろ? 浅倉とはちょうど、別れたトコだし、やり直してやっても……」

「はぁ? あんた、フザけ……」

 紅がそいつをひっぱたこうとした、その瞬間! 後ろの席からやって来た彼は突如、大輝の胸倉を掴んで……

『ダガーン!』

そんな音が出るほどに殴り飛ばして、彼は前にあった机と思い切り衝突した。


「晴人……」

 彼を殴り飛ばした主を確認して……結奈の目頭は熱くなり、感嘆の声を漏らした。

「てめぇ……」

 そいつは殴られた頬をさすりながら、晴人を刺すように睨む。しかし、今度は紅が彼らの間に割って入った。

「斎藤、あんた……フザけんなよ」

 クラス一の美少女の放つその言葉は底知れぬほどの冷徹さをその奥に含んでいて……瞬間、クラス全体が凍りついた。

「ろくでもないあんたのせいで、どれだけ結奈が傷ついたか……分かってんの?」

「何だよ、お前には関係な……」

「私も殴ってやりたい所だけど、遠藤が代わりに殴ってくれたから我慢しとく。だから、あんた。結奈に謝りなさい」

 その言葉に大輝は「はぁ?」と言って顔をしかめた。

「何だよ。どうして俺が謝らなければならない? こいつは俺に惚れてんだよ、なぁ……」

 大輝は馬鹿みたいに喚き始める。しかし、クラスメイトは誰も、そいつを蔑んだ目で見始めた。


「大輝……結奈に謝れよ」

「は?」

 お調子者でヘタレの河田の放った言葉に、大輝は顔をしかめる。まさか、同じグループだった彼にまで諫められるとは思っていなかった……そんな様子だ。

「お前、本当に酷いぞ。クラスメイトとして、見てられない」

「んだぞ、大輝。謝れよ」

「謝れ」

 クラスメイト達は皆、河田に同調して……大輝はみるみる、真っ赤になって。

「くそっ!」

 完全に立場を失った彼は、逃げるように教室から出て行ったのだった。





 校庭の大きな桜の木は、まだ青々とした葉を付けている。その下のベンチで、晴人は震える右手を押さえていた。


「あー! こんなところにいたんだ。あいつを殴った後、あんたもいつの間にかいなくなるから。探したわよ」

 彼が振り向くと、白い歯を見せてキラキラと輝く結奈の笑顔がそこにあった。

「もうすぐ、始まるわよ。始業式」

 そう言って、晴人の隣に座る。しかし、彼女は彼を急かすつもりはないらしく、ぼんやりと桜の葉を眺め始めた。


「……初めてだったんだ」

「えっ?」

「人を殴ったの……」

 晴人はまだ震える右手を左手で押さえていて……結奈はその右手に、そっと自分の手を重ねた。晴人はドキッとして、彼女の方を向く。

「私は嬉しかったよ。あいつを殴ってくれて……」

「えっ……」

 その瞬間。彼はその唇に、柔らかな感触を覚えた。それは、愛しくて……好きで堪らない人との、初恋の感触。


 見つめ合う二人の顔は、みるみる赤くなって……結奈はそっと下を向き、呟くように言った。

「ねぇ、晴人……紅達のお話、書いてたじゃん?」

「う……うん……」

「次はさ、書いてくれないかな? 私達のお話も……」

 結奈はそう言うと、そっと晴人の肩を抱き寄せて……青く茂る桜の葉が風にそよそよと揺れる下。彼のその可愛らしい唇と、二度目のキスを交わしたのだった。
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