29 / 57
結奈&晴人編
◇
しおりを挟む
新学期。結奈は一学期とは打って変わり、黒髪ロングヘアの清楚な姿で登校した。
「えっ、結奈。あんた、どうしたの?」
「ヤバい……めっちゃ、可愛い」
紅以外のクラスメイトには、この姿は初披露目で、今更だけれど、友人達の言葉が照れ臭い。黒髪ロングヘアの今の姿の方がいい……それは、夏休み終盤に紅からも言われていたし、クラスの男子達も自分を見て、心なしか色めき立っているように見えた。
しかし結奈は、前の席の克也に新学期の挨拶をしている様子の晴人の方に歩を進めた。
「晴人! おはよう!」
その瞬間、教室内には騒つきが広がる。
そう……クラスの中心のグループにいた結奈が地味な晴人に自分から声をかけるなんて、一学期には考えられないことだったのだ。
「お……おはよう」
しどろもどろになっている彼に、結奈はプッと吹き出した。
「なぁにを、新学期早々、きょどってんの! もっと、しゃんとなさい!」
「うん……」
彼の親友だけれども休み中に連絡を取っていなかった克也が「どういうこと?」と言いたげな表情を晴人に向ける。そんな彼らを見てクスッと笑い、彼女は自分の席に向かった。
「ヤバい……めっちゃ、可愛い」
「藤岡って、あんな綺麗だったっけ……」
クラスの所々から、男子のひそひそ声が聞こえた。しかし、彼女はそんな声は気にも留めずに鞄を机の横に掛ける。
「すごいね、結奈。大人気じゃん」
先程、教室に入って来たばかりの紅が、結奈にそっと微笑みかけた。
「うん……まぁ、本来の自分に戻ったってだけなんだけどね」
彼女はそう返して、苦笑いする。
そう……自分はもう、背伸びも無理もする必要はない。馬鹿でどうしようもない、ありのままの自分を好きでいてくれる人がいるんだから。
そんなことを想って、結奈の顔はそっと綻んだ。
しかし、次の瞬間。掛けられたその声に、彼女は顔をしかめた。
「おぅ、結奈。久しぶりじゃん」
聞くのは、あの日以来……一番聞きたくなかったその声に、彼女の胸は騒ついた。
「大輝……」
自分の席の前に来て、いやらしい笑みを浮かべるそいつを睨む。そう……そこには夏休みのあの日、非情にも自分を捨てた元彼がいたのだ。
「斎藤……あんた、どの面下げて……」
紅が今にも掴みかかろうとした、その時だった。
「ヨリを戻してやってもいいぜ!」
「はぁ?」
酷い勘違い野郎の放つその言葉に、結奈と紅は耳を疑った。
「お前、夏休み終わっていい感じにイメチェンしたじゃんかよ。まだ、俺に惚れてんだろ? 浅倉とはちょうど、別れたトコだし、やり直してやっても……」
「はぁ? あんた、フザけ……」
紅がそいつをひっぱたこうとした、その瞬間! 後ろの席からやって来た彼は突如、大輝の胸倉を掴んで……
『ダガーン!』
そんな音が出るほどに殴り飛ばして、彼は前にあった机と思い切り衝突した。
「晴人……」
彼を殴り飛ばした主を確認して……結奈の目頭は熱くなり、感嘆の声を漏らした。
「てめぇ……」
そいつは殴られた頬をさすりながら、晴人を刺すように睨む。しかし、今度は紅が彼らの間に割って入った。
「斎藤、あんた……フザけんなよ」
クラス一の美少女の放つその言葉は底知れぬほどの冷徹さをその奥に含んでいて……瞬間、クラス全体が凍りついた。
「ろくでもないあんたのせいで、どれだけ結奈が傷ついたか……分かってんの?」
「何だよ、お前には関係な……」
「私も殴ってやりたい所だけど、遠藤が代わりに殴ってくれたから我慢しとく。だから、あんた。結奈に謝りなさい」
その言葉に大輝は「はぁ?」と言って顔をしかめた。
「何だよ。どうして俺が謝らなければならない? こいつは俺に惚れてんだよ、なぁ……」
大輝は馬鹿みたいに喚き始める。しかし、クラスメイトは誰も、そいつを蔑んだ目で見始めた。
「大輝……結奈に謝れよ」
「は?」
お調子者でヘタレの河田の放った言葉に、大輝は顔をしかめる。まさか、同じグループだった彼にまで諫められるとは思っていなかった……そんな様子だ。
「お前、本当に酷いぞ。クラスメイトとして、見てられない」
「んだぞ、大輝。謝れよ」
「謝れ」
クラスメイト達は皆、河田に同調して……大輝はみるみる、真っ赤になって。
「くそっ!」
完全に立場を失った彼は、逃げるように教室から出て行ったのだった。
*
校庭の大きな桜の木は、まだ青々とした葉を付けている。その下のベンチで、晴人は震える右手を押さえていた。
「あー! こんなところにいたんだ。あいつを殴った後、あんたもいつの間にかいなくなるから。探したわよ」
彼が振り向くと、白い歯を見せてキラキラと輝く結奈の笑顔がそこにあった。
「もうすぐ、始まるわよ。始業式」
そう言って、晴人の隣に座る。しかし、彼女は彼を急かすつもりはないらしく、ぼんやりと桜の葉を眺め始めた。
「……初めてだったんだ」
「えっ?」
「人を殴ったの……」
晴人はまだ震える右手を左手で押さえていて……結奈はその右手に、そっと自分の手を重ねた。晴人はドキッとして、彼女の方を向く。
「私は嬉しかったよ。あいつを殴ってくれて……」
「えっ……」
その瞬間。彼はその唇に、柔らかな感触を覚えた。それは、愛しくて……好きで堪らない人との、初恋の感触。
見つめ合う二人の顔は、みるみる赤くなって……結奈はそっと下を向き、呟くように言った。
「ねぇ、晴人……紅達のお話、書いてたじゃん?」
「う……うん……」
「次はさ、書いてくれないかな? 私達のお話も……」
結奈はそう言うと、そっと晴人の肩を抱き寄せて……青く茂る桜の葉が風にそよそよと揺れる下。彼のその可愛らしい唇と、二度目のキスを交わしたのだった。
「えっ、結奈。あんた、どうしたの?」
「ヤバい……めっちゃ、可愛い」
紅以外のクラスメイトには、この姿は初披露目で、今更だけれど、友人達の言葉が照れ臭い。黒髪ロングヘアの今の姿の方がいい……それは、夏休み終盤に紅からも言われていたし、クラスの男子達も自分を見て、心なしか色めき立っているように見えた。
しかし結奈は、前の席の克也に新学期の挨拶をしている様子の晴人の方に歩を進めた。
「晴人! おはよう!」
その瞬間、教室内には騒つきが広がる。
そう……クラスの中心のグループにいた結奈が地味な晴人に自分から声をかけるなんて、一学期には考えられないことだったのだ。
「お……おはよう」
しどろもどろになっている彼に、結奈はプッと吹き出した。
「なぁにを、新学期早々、きょどってんの! もっと、しゃんとなさい!」
「うん……」
彼の親友だけれども休み中に連絡を取っていなかった克也が「どういうこと?」と言いたげな表情を晴人に向ける。そんな彼らを見てクスッと笑い、彼女は自分の席に向かった。
「ヤバい……めっちゃ、可愛い」
「藤岡って、あんな綺麗だったっけ……」
クラスの所々から、男子のひそひそ声が聞こえた。しかし、彼女はそんな声は気にも留めずに鞄を机の横に掛ける。
「すごいね、結奈。大人気じゃん」
先程、教室に入って来たばかりの紅が、結奈にそっと微笑みかけた。
「うん……まぁ、本来の自分に戻ったってだけなんだけどね」
彼女はそう返して、苦笑いする。
そう……自分はもう、背伸びも無理もする必要はない。馬鹿でどうしようもない、ありのままの自分を好きでいてくれる人がいるんだから。
そんなことを想って、結奈の顔はそっと綻んだ。
しかし、次の瞬間。掛けられたその声に、彼女は顔をしかめた。
「おぅ、結奈。久しぶりじゃん」
聞くのは、あの日以来……一番聞きたくなかったその声に、彼女の胸は騒ついた。
「大輝……」
自分の席の前に来て、いやらしい笑みを浮かべるそいつを睨む。そう……そこには夏休みのあの日、非情にも自分を捨てた元彼がいたのだ。
「斎藤……あんた、どの面下げて……」
紅が今にも掴みかかろうとした、その時だった。
「ヨリを戻してやってもいいぜ!」
「はぁ?」
酷い勘違い野郎の放つその言葉に、結奈と紅は耳を疑った。
「お前、夏休み終わっていい感じにイメチェンしたじゃんかよ。まだ、俺に惚れてんだろ? 浅倉とはちょうど、別れたトコだし、やり直してやっても……」
「はぁ? あんた、フザけ……」
紅がそいつをひっぱたこうとした、その瞬間! 後ろの席からやって来た彼は突如、大輝の胸倉を掴んで……
『ダガーン!』
そんな音が出るほどに殴り飛ばして、彼は前にあった机と思い切り衝突した。
「晴人……」
彼を殴り飛ばした主を確認して……結奈の目頭は熱くなり、感嘆の声を漏らした。
「てめぇ……」
そいつは殴られた頬をさすりながら、晴人を刺すように睨む。しかし、今度は紅が彼らの間に割って入った。
「斎藤、あんた……フザけんなよ」
クラス一の美少女の放つその言葉は底知れぬほどの冷徹さをその奥に含んでいて……瞬間、クラス全体が凍りついた。
「ろくでもないあんたのせいで、どれだけ結奈が傷ついたか……分かってんの?」
「何だよ、お前には関係な……」
「私も殴ってやりたい所だけど、遠藤が代わりに殴ってくれたから我慢しとく。だから、あんた。結奈に謝りなさい」
その言葉に大輝は「はぁ?」と言って顔をしかめた。
「何だよ。どうして俺が謝らなければならない? こいつは俺に惚れてんだよ、なぁ……」
大輝は馬鹿みたいに喚き始める。しかし、クラスメイトは誰も、そいつを蔑んだ目で見始めた。
「大輝……結奈に謝れよ」
「は?」
お調子者でヘタレの河田の放った言葉に、大輝は顔をしかめる。まさか、同じグループだった彼にまで諫められるとは思っていなかった……そんな様子だ。
「お前、本当に酷いぞ。クラスメイトとして、見てられない」
「んだぞ、大輝。謝れよ」
「謝れ」
クラスメイト達は皆、河田に同調して……大輝はみるみる、真っ赤になって。
「くそっ!」
完全に立場を失った彼は、逃げるように教室から出て行ったのだった。
*
校庭の大きな桜の木は、まだ青々とした葉を付けている。その下のベンチで、晴人は震える右手を押さえていた。
「あー! こんなところにいたんだ。あいつを殴った後、あんたもいつの間にかいなくなるから。探したわよ」
彼が振り向くと、白い歯を見せてキラキラと輝く結奈の笑顔がそこにあった。
「もうすぐ、始まるわよ。始業式」
そう言って、晴人の隣に座る。しかし、彼女は彼を急かすつもりはないらしく、ぼんやりと桜の葉を眺め始めた。
「……初めてだったんだ」
「えっ?」
「人を殴ったの……」
晴人はまだ震える右手を左手で押さえていて……結奈はその右手に、そっと自分の手を重ねた。晴人はドキッとして、彼女の方を向く。
「私は嬉しかったよ。あいつを殴ってくれて……」
「えっ……」
その瞬間。彼はその唇に、柔らかな感触を覚えた。それは、愛しくて……好きで堪らない人との、初恋の感触。
見つめ合う二人の顔は、みるみる赤くなって……結奈はそっと下を向き、呟くように言った。
「ねぇ、晴人……紅達のお話、書いてたじゃん?」
「う……うん……」
「次はさ、書いてくれないかな? 私達のお話も……」
結奈はそう言うと、そっと晴人の肩を抱き寄せて……青く茂る桜の葉が風にそよそよと揺れる下。彼のその可愛らしい唇と、二度目のキスを交わしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる