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紅&克也編〜2〜
◇
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翌日……劇の最終リハーサルの後。
「ちょっと、紅! あんた達、一体、何があったの?」
周りには気付かれぬように、精一杯に『普通』に演じたはずなのに……結奈だけは紅と克也の間に流れる不穏な空気を敏感に察知して、興味津々に尋ねて来た。
「別に……何もないわよ」
紅のその返しに、結奈は思わず吹き出す。
「あんたのその返事! 『何かあった』って言ってるも同然よ」
「…………!」
ふと冷静になると下手を打ってしまったことに気付いて……紅は黙りこんだ。
「やめてよね。本番の前日にケンカとか……ホントにもう、明日が思いやられるわ」
結奈は腰に手を当てて、大きく溜息を吐いた。
「……とか言いながら、あんた。何だか妙に、楽しそうだけど?」
紅は膨れ面で結奈を睨む。
「だって。どうせ克也の奴が、いらない心配でもしてあんたを苛立たせて。ついキツく言ってしまったとか、そんなんでしょ?」
「…………!」
「そんで、あんたは言い過ぎたことを後悔してるけど、自分からは謝ることができないとか……そういうオチ? 克也はめっちゃ萎縮してるし、あんたはずっと何か言いたげだったし。何となくそんなんかなぁって」
「…………」
あまりに図星で、紅は何も言うことが出来なかった。結奈はこういうことに関しては、恐ろしく勘が鋭い。幼い頃から知る紅に対しては、尚更だ。
「でも、良いね~。何か、微笑ましい。私、あんたを傷つける奴は許せないけど。そういう愛に溢れたぶつかり合いは、大好物よ」
結奈はそう言ってニヤニヤと笑う。
「いや……全然、良くないって。だってこっちはフツーにバイト仲間を文化祭に誘っただけなのにさ。あいつ、僕を笑い物にするだの何だの、訳の分からないことばっか言って、勝手にスネて……」
「ありゃ。そのバイト仲間って、男?」
「…………」
紅が無言でこくりと頷くと、結奈は「あちゃー……」と言うように顔を手に当てた。
「それはちょい、マズかったかもね。いくら克也でも、プライドはあるだろうし……白雪の自分をそんなに無闇に晒されたくはなかったんじゃないの? 特に、あんたの知り合いの男子には」
「……あんなに綺麗な白雪でも?」
そんなことを尋ねる紅に、結奈はプッと吹き出した。
「あんたって変なトコ、分かってないわよね。あんたが王子を演じるのは全然、抵抗ないでしょうけど。あいつも白雪を演じるのって、相当にストレスで……それでもあんたが楽しそうだから、かなり頑張ってくれてたんだと思うよ」
「分かってるわよ、そのくらい……」
紅は目を瞑り、ブスッと頬を膨らませた。
「あいつがそういう、優しい奴だってこと……私とか、みんなが楽しむためには自分を犠牲にする奴だってこと。でも、あんなに不満を爆発させる前に……ちょっとくらい、私にぶつけてくれても良かったのに」
瞼をそっと開けた紅の瞳は、微かに潤んで揺れていて……そんな彼女を見て、結奈はクスッと笑った。
「やっぱ……あんた達って、全然違うように見えて、実は似た者同士よね」
「えっ?」
「そうやって、本人に直接言わずにうじうじ悩むとこ。私だったらズバリと言うのに……何か、見てて焦れったいわ」
そう言って、結奈は苦笑いする。
「そんなことないわよ。私も、昨日は言い過ぎたって謝ろうとしてるの。ただ、そのタイミングが掴めないだけで……」
「……って。あんたがタイミング云々、言ってる間に、もうすでに、克也いないじゃん」
「うん。あいつ、練習の後はすぐ塾だからね」
「いや、それが分かってるなら早く謝りなよ」
結奈が呆れ顔で見つめると、紅は萎れて俯く。そんな親友の背を、結奈はポンと叩いた。
「あんたも克也も……変なトコでカッコつけたがるけど。ちょっとくらい、カッコ悪くてもいいんじゃないの?」
「カッコ悪くても……?」
「そ! 紅王子も! 劇の最中……公衆の面前で、白雪と殴り合いの大喧嘩するくらいの根性見せたれってことよ!」
「え、いや、意味分かんない。そんなことしたら、劇がぶち壊しでしょうが!」
萎れながらもツッコむ紅に、結奈は「キャハハ!」といつもの笑い声を上げる。
文化祭本番前日の放課後……不器用な紅王子は、ついに白雪姫と仲直りできなかったけれど。いつも通りの親友との戯れ合いで、幾分、心が和らいだのだった。
「ちょっと、紅! あんた達、一体、何があったの?」
周りには気付かれぬように、精一杯に『普通』に演じたはずなのに……結奈だけは紅と克也の間に流れる不穏な空気を敏感に察知して、興味津々に尋ねて来た。
「別に……何もないわよ」
紅のその返しに、結奈は思わず吹き出す。
「あんたのその返事! 『何かあった』って言ってるも同然よ」
「…………!」
ふと冷静になると下手を打ってしまったことに気付いて……紅は黙りこんだ。
「やめてよね。本番の前日にケンカとか……ホントにもう、明日が思いやられるわ」
結奈は腰に手を当てて、大きく溜息を吐いた。
「……とか言いながら、あんた。何だか妙に、楽しそうだけど?」
紅は膨れ面で結奈を睨む。
「だって。どうせ克也の奴が、いらない心配でもしてあんたを苛立たせて。ついキツく言ってしまったとか、そんなんでしょ?」
「…………!」
「そんで、あんたは言い過ぎたことを後悔してるけど、自分からは謝ることができないとか……そういうオチ? 克也はめっちゃ萎縮してるし、あんたはずっと何か言いたげだったし。何となくそんなんかなぁって」
「…………」
あまりに図星で、紅は何も言うことが出来なかった。結奈はこういうことに関しては、恐ろしく勘が鋭い。幼い頃から知る紅に対しては、尚更だ。
「でも、良いね~。何か、微笑ましい。私、あんたを傷つける奴は許せないけど。そういう愛に溢れたぶつかり合いは、大好物よ」
結奈はそう言ってニヤニヤと笑う。
「いや……全然、良くないって。だってこっちはフツーにバイト仲間を文化祭に誘っただけなのにさ。あいつ、僕を笑い物にするだの何だの、訳の分からないことばっか言って、勝手にスネて……」
「ありゃ。そのバイト仲間って、男?」
「…………」
紅が無言でこくりと頷くと、結奈は「あちゃー……」と言うように顔を手に当てた。
「それはちょい、マズかったかもね。いくら克也でも、プライドはあるだろうし……白雪の自分をそんなに無闇に晒されたくはなかったんじゃないの? 特に、あんたの知り合いの男子には」
「……あんなに綺麗な白雪でも?」
そんなことを尋ねる紅に、結奈はプッと吹き出した。
「あんたって変なトコ、分かってないわよね。あんたが王子を演じるのは全然、抵抗ないでしょうけど。あいつも白雪を演じるのって、相当にストレスで……それでもあんたが楽しそうだから、かなり頑張ってくれてたんだと思うよ」
「分かってるわよ、そのくらい……」
紅は目を瞑り、ブスッと頬を膨らませた。
「あいつがそういう、優しい奴だってこと……私とか、みんなが楽しむためには自分を犠牲にする奴だってこと。でも、あんなに不満を爆発させる前に……ちょっとくらい、私にぶつけてくれても良かったのに」
瞼をそっと開けた紅の瞳は、微かに潤んで揺れていて……そんな彼女を見て、結奈はクスッと笑った。
「やっぱ……あんた達って、全然違うように見えて、実は似た者同士よね」
「えっ?」
「そうやって、本人に直接言わずにうじうじ悩むとこ。私だったらズバリと言うのに……何か、見てて焦れったいわ」
そう言って、結奈は苦笑いする。
「そんなことないわよ。私も、昨日は言い過ぎたって謝ろうとしてるの。ただ、そのタイミングが掴めないだけで……」
「……って。あんたがタイミング云々、言ってる間に、もうすでに、克也いないじゃん」
「うん。あいつ、練習の後はすぐ塾だからね」
「いや、それが分かってるなら早く謝りなよ」
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「あんたも克也も……変なトコでカッコつけたがるけど。ちょっとくらい、カッコ悪くてもいいんじゃないの?」
「カッコ悪くても……?」
「そ! 紅王子も! 劇の最中……公衆の面前で、白雪と殴り合いの大喧嘩するくらいの根性見せたれってことよ!」
「え、いや、意味分かんない。そんなことしたら、劇がぶち壊しでしょうが!」
萎れながらもツッコむ紅に、結奈は「キャハハ!」といつもの笑い声を上げる。
文化祭本番前日の放課後……不器用な紅王子は、ついに白雪姫と仲直りできなかったけれど。いつも通りの親友との戯れ合いで、幾分、心が和らいだのだった。
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