紅~いつもの街灯の下で

いっき

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紅&克也編〜2〜

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 翌日……劇の最終リハーサルの後。

「ちょっと、紅! あんた達、一体、何があったの?」

 周りには気付かれぬように、精一杯に『普通』に演じたはずなのに……結奈だけは紅と克也の間に流れる不穏な空気を敏感に察知して、興味津々に尋ねて来た。

「別に……何もないわよ」

 紅のその返しに、結奈は思わず吹き出す。

「あんたのその返事! 『何かあった』って言ってるも同然よ」

「…………!」

 ふと冷静になると下手を打ってしまったことに気付いて……紅は黙りこんだ。

「やめてよね。本番の前日にケンカとか……ホントにもう、明日が思いやられるわ」

 結奈は腰に手を当てて、大きく溜息を吐いた。

「……とか言いながら、あんた。何だか妙に、楽しそうだけど?」

 紅は膨れ面で結奈を睨む。

「だって。どうせ克也の奴が、いらない心配でもしてあんたを苛立たせて。ついキツく言ってしまったとか、そんなんでしょ?」

「…………!」

「そんで、あんたは言い過ぎたことを後悔してるけど、自分からは謝ることができないとか……そういうオチ? 克也はめっちゃ萎縮してるし、あんたはずっと何か言いたげだったし。何となくそんなんかなぁって」

「…………」

 あまりに図星で、紅は何も言うことが出来なかった。結奈はこういうことに関しては、恐ろしく勘が鋭い。幼い頃から知る紅に対しては、尚更だ。

「でも、良いね~。何か、微笑ましい。私、あんたを傷つける奴は許せないけど。そういう愛に溢れたぶつかり合いは、大好物よ」

 結奈はそう言ってニヤニヤと笑う。

「いや……全然、良くないって。だってこっちはフツーにバイト仲間を文化祭に誘っただけなのにさ。あいつ、僕を笑い物にするだの何だの、訳の分からないことばっか言って、勝手にスネて……」

「ありゃ。そのバイト仲間って、男?」

「…………」

 紅が無言でこくりと頷くと、結奈は「あちゃー……」と言うように顔を手に当てた。

「それはちょい、マズかったかもね。いくら克也でも、プライドはあるだろうし……白雪の自分をそんなに無闇に晒されたくはなかったんじゃないの? 特に、あんたの知り合いの男子には」

「……あんなに綺麗な白雪でも?」

 そんなことを尋ねる紅に、結奈はプッと吹き出した。

「あんたって変なトコ、分かってないわよね。あんたが王子を演じるのは全然、抵抗ないでしょうけど。あいつも白雪を演じるのって、相当にストレスで……それでもあんたが楽しそうだから、かなり頑張ってくれてたんだと思うよ」

「分かってるわよ、そのくらい……」

 紅は目を瞑り、ブスッと頬を膨らませた。

「あいつがそういう、優しい奴だってこと……私とか、みんなが楽しむためには自分を犠牲にする奴だってこと。でも、あんなに不満を爆発させる前に……ちょっとくらい、私にぶつけてくれても良かったのに」

 瞼をそっと開けた紅の瞳は、微かに潤んで揺れていて……そんな彼女を見て、結奈はクスッと笑った。

「やっぱ……あんた達って、全然違うように見えて、実は似た者同士よね」

「えっ?」

「そうやって、本人に直接言わずにうじうじ悩むとこ。私だったらズバリと言うのに……何か、見てて焦れったいわ」

 そう言って、結奈は苦笑いする。

「そんなことないわよ。私も、昨日は言い過ぎたって謝ろうとしてるの。ただ、そのタイミングが掴めないだけで……」

「……って。あんたがタイミング云々、言ってる間に、もうすでに、克也いないじゃん」

「うん。あいつ、練習の後はすぐ塾だからね」

「いや、それが分かってるなら早く謝りなよ」

 結奈が呆れ顔で見つめると、紅は萎れて俯く。そんな親友の背を、結奈はポンと叩いた。

「あんたも克也も……変なトコでカッコつけたがるけど。ちょっとくらい、カッコ悪くてもいいんじゃないの?」

「カッコ悪くても……?」

「そ! 紅王子も! 劇の最中……公衆の面前で、白雪と殴り合いの大喧嘩するくらいの根性見せたれってことよ!」

「え、いや、意味分かんない。そんなことしたら、劇がぶち壊しでしょうが!」

 萎れながらもツッコむ紅に、結奈は「キャハハ!」といつもの笑い声を上げる。

 文化祭本番前日の放課後……不器用な紅王子は、ついに白雪姫と仲直りできなかったけれど。いつも通りの親友との戯れ合いで、幾分、心が和らいだのだった。
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