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紅&克也編〜2〜
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紅王子を『お姫様抱っこ』した白雪姫……もとい克也がそのまま体育館を出ると、紅はふと我に返った。
「ちょ……ちょっと、克也。何してんの? 降ろしてよ!」
今の自分の状態を認識した彼女の顔は、みるみる赤くなってゆく。
「ダメだよ、紅。ちゃんと、保健室行かないと……」
「はぁ、保健室!? やめてよ、そんなの。行かなくて大丈夫だって!」
だって、白雪姫が走る先々で、通り過ぎる人達はみんな、こちらを振り返り……奇異な眼差しで見てくるのを、抱っこされている彼女もビンビンと感じる。恥ずかしさのあまり、紅の体はどんどん火照っていった。
「ダメだ! だって紅、急に倒れたし……今だって、こんなに熱いじゃないか」
「い、いや、熱いのはそうじゃなくて……」
どうにか説明しようとするも、息を切らしながら保健室へと向かう白雪にはどうやっても伝わりそうになくて。
「もう……」
ついに観念した紅王子は真っ赤になりながらも、早とちりの白雪姫をギュッと抱きしめて……自らの身を任せたのだった。
*
「貧血、ですね。あなた、まともに朝食摂ってなかったんじゃない?」
呆れ顔の保健室の先生に指摘されて、紅はさらに真っ赤になった。
そうだ……考えてみたら。今朝の朝食どころか、克也と喧嘩して以降、全く食欲がなくて。三食もまともに食べていなかったんだ。
「そ……そうなの? ダメだよ、朝食はちゃんと食べないと」
自分が食欲をなくした原因……その張本人が心配そうな顔を見せると、紅は脱力して。そのお腹からは「グー」と大きな虫の音が鳴った。
「ほぉら、言わんこっちゃない。パンでも食べなさい、ほら」
「いえ……」
「食べなよ、紅。お願いだから……」
自分を見つめる克也の顔は本当に心配そうで……そんな彼を見た紅は思わずクスッと笑った。
「紅?」
「ああ、もう。分かったから! 食べる、食べる……食べて、さっさと戻らなきゃ」
「えっ?」
「だって。劇、めちゃくちゃにした上、ほっぽり出して来ちゃったし。きっとみんな、カンカンよ」
その言葉で、克也は今の状況を思い出して。その顔からはサァッと血の気が引いていった。
「そ……そうだ。大変……そう言えば、劇の途中だったんだ」
「はぁ? ちょっと待って……もしかして、あんた。劇を演じてる途中だってことすら忘れて、こんなめちゃくちゃなこと、やらかしたの?」
急いでパンを頬張る紅に、克也はただこくりと頷いた。
「うん。だって、紅が舞台から落ちた途端に頭の中が真っ白になって。何をしてたかなんて、すっかり抜けてた……」
紅は暫し、そんな克也を呆れ顔で見つめて……
「プッ……」
思わず吹き出した。
「あはは! あはははは!」
一度笑い始めると止まらなくなって、紅はお腹を抱えて大笑いし始めた。
「紅……?」
呆然として見つめる克也に、ひとしきり笑い終えた彼女はニッとウィンクした。
「ごめん、心配かけて! でも、これも元はと言えばあんたの所為でもあるんだし……おあいこってことね!」
「えっ、僕の所為って……何が?」
「一々、気にするな! もう食べ終わったし……さっさと戻るわよ。ほれ!」
せっかちな紅王子は、白雪に手を差し出して……御伽の国の美男美女は、仲睦まじく体育館の舞台へと戻ったのだった。
*
『白雪姫』の舞台はとうの昔に公演終了していたのだけれど……その意外な光景に、紅と克也は思わず目を丸くした。
「え、どゆこと? 王子……あんた、もしかして結奈!?」
そこには、テンションマックスでノリノリの王子と、限りなく不機嫌にムスッとしている白雪姫が待っていたのだ。
「……ということは、あそこにおられる可愛いお姫様は……ハルト先生!?」
「可愛いとか、言うな!」
紅と克也が指を差すと、克也白雪と遜色のないほどに美しく変身させられたハルト白雪が、メイクの上からでも分かるほどに真っ赤に顔を染めた。
「全く、誰の所為でこんなことに……」
腰に手を当ててプリプリと怒るハルト白雪とは対照的に、結奈王子は非常に上機嫌だ。
「いいじゃない、いいじゃない。一時はどうなることかと思ったけど……私の即席、天才的なメイクも上手くいったし! ちょっと中断したけど劇も最後まで上演できたし、結果オーライよ」
「いや、おかしいだろ……普通は僕が王子、結奈が白雪だろ?」
「あら、だって私、王子の台詞しか覚えてなかったんだもーん!」
自分達が暴走した後も、彼ら……『もう一組のカップル』が上手く演じ切ってくれたみたいで。
「何か……そんなに心配して焦ること、なかったみたいね」
「うん……何だかんだ、上手くいったみたいで」
紅王子と克也白雪は顔を見合わせて苦笑いしたのだった。
「みんな、みんな! 集合写真、撮るわよー!」
「はーい!」
劇の役者……王子に白雪姫、小人に動物達に招集がかけられた。結奈王子はまだブツブツ言っているハルト白雪を引きずって行き、克也白雪もみんなの元へ向かおうとする。
しかし……紅はそんな克也の袖をギュッと握った。
「紅……?」
「克也。文化祭が終わって、みんながハケた後……また、舞台に上がろ!」
「えっ?」
「だから! あの続き、演じるの。だって、あんなに練習したんだし、最後まで演じ切りたいじゃん!」
紅はニッと片目を瞑ってウィンクして……そんな彼女に、克也は頬を染めて頷いたのだった。
「ちょ……ちょっと、克也。何してんの? 降ろしてよ!」
今の自分の状態を認識した彼女の顔は、みるみる赤くなってゆく。
「ダメだよ、紅。ちゃんと、保健室行かないと……」
「はぁ、保健室!? やめてよ、そんなの。行かなくて大丈夫だって!」
だって、白雪姫が走る先々で、通り過ぎる人達はみんな、こちらを振り返り……奇異な眼差しで見てくるのを、抱っこされている彼女もビンビンと感じる。恥ずかしさのあまり、紅の体はどんどん火照っていった。
「ダメだ! だって紅、急に倒れたし……今だって、こんなに熱いじゃないか」
「い、いや、熱いのはそうじゃなくて……」
どうにか説明しようとするも、息を切らしながら保健室へと向かう白雪にはどうやっても伝わりそうになくて。
「もう……」
ついに観念した紅王子は真っ赤になりながらも、早とちりの白雪姫をギュッと抱きしめて……自らの身を任せたのだった。
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「貧血、ですね。あなた、まともに朝食摂ってなかったんじゃない?」
呆れ顔の保健室の先生に指摘されて、紅はさらに真っ赤になった。
そうだ……考えてみたら。今朝の朝食どころか、克也と喧嘩して以降、全く食欲がなくて。三食もまともに食べていなかったんだ。
「そ……そうなの? ダメだよ、朝食はちゃんと食べないと」
自分が食欲をなくした原因……その張本人が心配そうな顔を見せると、紅は脱力して。そのお腹からは「グー」と大きな虫の音が鳴った。
「ほぉら、言わんこっちゃない。パンでも食べなさい、ほら」
「いえ……」
「食べなよ、紅。お願いだから……」
自分を見つめる克也の顔は本当に心配そうで……そんな彼を見た紅は思わずクスッと笑った。
「紅?」
「ああ、もう。分かったから! 食べる、食べる……食べて、さっさと戻らなきゃ」
「えっ?」
「だって。劇、めちゃくちゃにした上、ほっぽり出して来ちゃったし。きっとみんな、カンカンよ」
その言葉で、克也は今の状況を思い出して。その顔からはサァッと血の気が引いていった。
「そ……そうだ。大変……そう言えば、劇の途中だったんだ」
「はぁ? ちょっと待って……もしかして、あんた。劇を演じてる途中だってことすら忘れて、こんなめちゃくちゃなこと、やらかしたの?」
急いでパンを頬張る紅に、克也はただこくりと頷いた。
「うん。だって、紅が舞台から落ちた途端に頭の中が真っ白になって。何をしてたかなんて、すっかり抜けてた……」
紅は暫し、そんな克也を呆れ顔で見つめて……
「プッ……」
思わず吹き出した。
「あはは! あはははは!」
一度笑い始めると止まらなくなって、紅はお腹を抱えて大笑いし始めた。
「紅……?」
呆然として見つめる克也に、ひとしきり笑い終えた彼女はニッとウィンクした。
「ごめん、心配かけて! でも、これも元はと言えばあんたの所為でもあるんだし……おあいこってことね!」
「えっ、僕の所為って……何が?」
「一々、気にするな! もう食べ終わったし……さっさと戻るわよ。ほれ!」
せっかちな紅王子は、白雪に手を差し出して……御伽の国の美男美女は、仲睦まじく体育館の舞台へと戻ったのだった。
*
『白雪姫』の舞台はとうの昔に公演終了していたのだけれど……その意外な光景に、紅と克也は思わず目を丸くした。
「え、どゆこと? 王子……あんた、もしかして結奈!?」
そこには、テンションマックスでノリノリの王子と、限りなく不機嫌にムスッとしている白雪姫が待っていたのだ。
「……ということは、あそこにおられる可愛いお姫様は……ハルト先生!?」
「可愛いとか、言うな!」
紅と克也が指を差すと、克也白雪と遜色のないほどに美しく変身させられたハルト白雪が、メイクの上からでも分かるほどに真っ赤に顔を染めた。
「全く、誰の所為でこんなことに……」
腰に手を当ててプリプリと怒るハルト白雪とは対照的に、結奈王子は非常に上機嫌だ。
「いいじゃない、いいじゃない。一時はどうなることかと思ったけど……私の即席、天才的なメイクも上手くいったし! ちょっと中断したけど劇も最後まで上演できたし、結果オーライよ」
「いや、おかしいだろ……普通は僕が王子、結奈が白雪だろ?」
「あら、だって私、王子の台詞しか覚えてなかったんだもーん!」
自分達が暴走した後も、彼ら……『もう一組のカップル』が上手く演じ切ってくれたみたいで。
「何か……そんなに心配して焦ること、なかったみたいね」
「うん……何だかんだ、上手くいったみたいで」
紅王子と克也白雪は顔を見合わせて苦笑いしたのだった。
「みんな、みんな! 集合写真、撮るわよー!」
「はーい!」
劇の役者……王子に白雪姫、小人に動物達に招集がかけられた。結奈王子はまだブツブツ言っているハルト白雪を引きずって行き、克也白雪もみんなの元へ向かおうとする。
しかし……紅はそんな克也の袖をギュッと握った。
「紅……?」
「克也。文化祭が終わって、みんながハケた後……また、舞台に上がろ!」
「えっ?」
「だから! あの続き、演じるの。だって、あんなに練習したんだし、最後まで演じ切りたいじゃん!」
紅はニッと片目を瞑ってウィンクして……そんな彼女に、克也は頬を染めて頷いたのだった。
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