紅~いつもの街灯の下で

いっき

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紅&克也編〜2〜

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 記念撮影も含めた『白雪姫』の舞台は終了し、他のクラスメイト達はみんな、胸を踊らせながら後夜祭の準備に向かった。それはグラウンドでのキャンプファイヤーで、誰もが楽しみにしていたものだったけれど……克也にはそれよりもずっと、大事なことがあった。


「王子!」

 誰も見ていない舞台の上で『白雪』である克也が話しかけて……しかし、紅王子はふと立ち止まるも、首を傾げながら先へ進もうとした。

「もう……王子! 王子~!」

「し……白雪姫さま!」

 紅王子は振り返り、そっと頬を染める。役だとは知りながらも、そんな王子に克也はときめいた。

(か……可愛い!)

 普段はクールな紅のおどおどとした役。練習ではいつも見ていたけれど、二人きりの舞台ではより新鮮に感じて。まるで、二人で違う世界をデートしているかのような気分になるのだった。

「一緒にお花畑、回りましょう」

「う……うん」

 紅王子はおずおずと頷いた。

(何だか、初めて話した頃の僕達みたい……)

 克也は思う。

 そう……初めて二人で話した時って、こんな感じだった。タジタジになっている克也に紅が気さくに話しかけて、間をもたせてくれた。

 だから、役柄的に立場が逆転したこの舞台でも克也は白雪姫に感情移入することができて。紅王子をリードする姫を演じるにつれて、誰よりも可愛い王子のことが、愛しくてたまらなくなるのだった。


「王子! あなたは本当はカッコいいんだから。もっと、シャキッとなさい!」

「う、うん……」

「返事が頼りない! もっとしっかり!」

「うんっ!」

 こんなやりとりも、いつもの紅と自分そのものだな……なんて、克也は思う。頼りない王子がじれったくて、もどかしくて、けれども愛しくて。紅も自分のことを、そんな風に思ってくれているのだとしたら、嬉しくてたまらない。

(でも……紅に頼ってばかりじゃなくて、僕もしっかりしなくちゃ)

 白雪……もとい、克也はそんなことを思い苦笑いした。

 役で立場が逆転している今だからこそ、よく分かる。自分を想ってくれている、紅の気持ち。

 世話が焼ける頼りない王子のことが可愛くて、誰よりも大切で……でも、だからこそ、もっともっとカッコよくなって欲しいと思ってしまう。もっとはきはき、シャキッとしてくれたら誰よりもカッコいい。そのことを知っているから、普段の王子のことがじれったくて、もどかしくて仕方がないんだ。


 お互いの想いを確かめ合いながら演じる。そんな二人きりの舞台も、終盤に差し掛かった。

 白雪姫は魔女からもらった林檎を食べてしまい、永遠の眠りについてしまう。

「白雪! 白雪姫……!」

 必死で自分に呼びかける紅王子の声が響く。誰よりも大切な者を失いそうな……そんな王子の声は、悲しげに体育館の中に木霊して。

(まるで、今日の僕みたい……)

 横たわる克也は思う。

 舞台から紅が落ちた途端、顔からは一気に血の気が引いて、頭は真っ白になった。誰よりも大切な彼女が突然に倒れて……舞台の上演中だということも忘れて。気が付けば、紅を抱いてなりふり構わず駆け出していたんだ。

「白雪姫……目を覚ましてよぉ」

 紅王子の必死の叫び声が、心に染み込んでゆく……そして、克也の唇に柔らかなその感触が伝わった。それは温かくって、甘くって、とろけそうなくらいに幸せな味がして。克也の頬には涙が伝った。

「姫……白雪姫!」

「紅……」

 目を開けた克也はもう役が解けてしまって、つい彼女の名前を口にしたのだけれど……すっかり役に没入してしまっていた紅王子の美しい瞳からも、大粒の涙が溢れ出した。

「克也……」

 紅はギュッと克也を抱きしめる。そして、克也も……

「好き……好きだよ。紅……」

 自らの面倒な性分の所為で、愛しい彼女を怒らせてしまうこともある。

 だけれど、分かってる。それは紅も、自分のことも大切に想ってくれているからなんだって。

 克也は白雪の役を通して、そのことをもう一度確認できて……その唇をもう一度、彼女に重ねようとした。


 その時だった。

『パチパチパチ……!』

 誰もいないはずの観客席から突然に沸いた拍手と歓声に、二人は驚いて振り返った。

「え、うそ! みんな……」

「どうして……」

 目を丸くした紅と克也は、観客席にクラスメイト達の姿を認めた。

 いつの間にみんな、入って来てたのだろう……ひらすらに役に入り込んでいた二人は、全く気づかなかった。

「もう……あんた達! どこで何やってるのかと思えば……ホント、青春してるわね」

 結奈は「実に良いものを見せて貰った」とでも言わんばかりのニヤけ顔だ。

「いや……みんな、いつからいたの?」

 頬をみるみる紅色に染める紅に、結奈はニヤけ顔のまま事情を説明する。

「後夜祭でさ、この文化祭でのベストカップルの発表があったの。それで、全校生徒が認めるベストカップルは、なんと! 紅王子をお姫様抱っこして駆け出した白雪姫。まさに、あんた達だったのよ!」

「えっ!」

「ええ~~!」

 克也と紅は目を丸くして、驚きの声を上げた。

「それで、校庭も校舎の中も隈なく探したんだけど、どこにもいなくてさ。だからもしかして……と思って体育館に戻って来てみたら、二人きりで白雪、上演してるんだもん。これは観なきゃって思って、こっそりとみんなで忍び込んだってわけ」

 晴人が引き続き説明すると、克也の顔もみるみると火照り出した。

「ウソだろ……全く、気付かなかった」

 そんな克也に、晴人もニヤッと笑う。

「まぁ、それだけ、お前達が僕の脚本を真剣に演じてくれたってことで! 嬉しいよ」

「それより! 後夜祭のステージでは、みんながお待ちかねよ。今日の主役の登場!」

 結奈が悪戯っぽくウィンクすると、クラスメイト達の中からも歓声が沸き出した。


 しかし、この期に及んで白雪は、真っ赤な顔で愚図愚図する。

「えっ、いや……主役って。恥ずかしいよ……」

 そんな白雪を見て、もうすっかり開き直っていた紅王子は思わず吹き出した。愛しいその手を握って、ニッと片目を瞑りウィンクする。

「恥ずかしいって、今さらじゃん。行くよ、白雪姫!」

「えっ、いや。でも……」

 その瞬間! 

 その場はクラスメイト達の歓声で沸いた。それは、劇中のハプニングとは正反対……紅王子が白雪姫を『お姫様抱っこ』したのだった。

「ええっ! 紅……」

「へへっ、お返しよ。克也!」

 突然の出来事に目を丸くする白雪に、力持ちの王子はニッと白い歯を見せて。その日一番の歓声が沸き上がる中、キャンプファイヤーの映し出す後夜祭の舞台まで駆けて行って……

 ベストカップルの二人は、全校生徒の拍手と歓声の中。その甘くて熱い唇を重ねたのだった。
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