四次元ロッカー

いっき

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研究室では千佳が一人、定規を使って机の上の紙に何か書いていた。

「相変わらず、設計図作りみたいなのに熱心だな」

俺が言うと、ハッと顔を上げた。

「あれ、祐飛……ライブの打ち上げとかあるんじゃないの? それに、ファンの子達とも喋ったりしないの?」

「ああ。俺、飲み会とか、ファンサービスとか苦手なんだ。もう、ダルいのなんのって」

「何それ。バンド仲間とかファンを大切にしなきゃ……」

千佳がいい終わらぬうちに、俺はあの設計図の紙を出して見せた。

「これ。ロッカーの中に置いたの、お前だろ?」

「さぁ。何、それ?」

千佳はとぼける。

「無重力装置の設計図。俺と違って勉強熱心で、成績オール『優』のお前なら、こんなのが設計できるんだな。この装置のお陰で、俺は今日のパフォーマンスができたんだ」

「さぁ、私には何のことか分からないわ。あんたのロッカー、『四次元ロッカー』だから、異世界から届いたんじゃない?」

千佳は自分で言いながら、その言葉にプッと吹き出した。
そんな千佳を見る俺の顔も綻ぶ。

「照れ屋なトコも、相変わらずだな。あの日……誕生日だったって覚えててくれて、ありがとな」

「さぁ、何のことかしら?」

千佳は澄まし顔で、紙に続きを書き始めた。

「ところで、お前。今度は何書いてんの?」

「んー、ヒミツ」

そんな千佳に、俺も思わず吹き出した。

「まぁ、無重力装置の設計まで達成できたお前なら、あるいは不可能じゃないかもな。ロッカーの中で超強力なエネルギーを衝突させて、時空間に歪みを発生させる」

しゃがんで、千佳と目線を合わせて微笑んだ。

「設計図完成したら、また俺に作らせてくれよ。だって、俺、どんなに人気ロッカーになって沢山のファンができても、やっぱり、将来はお前とじゃないと考えられな……」

言い終わらぬ俺の口に、千佳の唇が重なった。
俺と千佳は、そっと目を閉じる。


目を開けて顔を離した千佳は、少し頬を赤くした。

「今度は、結構難しいわよ。あんたに作れるかしら?」

「大丈夫だよ。だって、俺は泣く子も黙る『四次元ロッカー』なんだから」

『四次元ロッカー』の設計図の前でファーストキスをした俺達は、顔を赤らめて微笑み合った。
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