ミツバチの見た絵画

いっき

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そんな私も高校を卒業して就職し、三年目の春。
同僚の誠実な男性と婚約した。

「おじいちゃん、紹介するわ。康太
こうた
さんよ」

「はじめまして、沢村 康太と申します。この春から、詩音さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいています」

緊張でガチガチになっている婚約者の康太に、今でもピンピンに元気なおじいちゃんは、目を細めてハチミツ柚子茶を差し出した。

「詩音から聞いておる。とっても素敵な人だってな」

「いえ、そんな……」

私は照れ隠しに頭を掻く康太ににっこりと笑って、中学生の頃から毎年飾っていた額縁の絵を指差した。

「ねぇ、康太さん。見て、あの絵。全部、私の描いた絵なの」

「え、本当? すごい綺麗……」

「名付けて、『ミツバチの見た絵画』じゃ」

絵をうっとりと見つめる康太に、おじいちゃんが柔らかく言った。

「ミツバチの見た絵画?」

不思議そうな顔をする康太に、おじいちゃんは頷いた。

「これを飲むと分かるよ。目を閉じて、ゆっくりと味わってごらん」

康太はハチミツ柚子茶を口に含み、そっと目を閉じた。
そして……

「すごい。詩音さんの描いた絵がありありと浮かんでくる……」

感嘆の声を漏らす康太に、おじいちゃんは微笑んだ。

「このハチミツはな、ミツバチたちが詩音が描いた絵を見ながらせっせと集めたものなんだ。詩音の絵に励まされながら……じゃからな、詩音とその大切な人に、この素晴らしいハチミツをプレゼントしてくれるんじゃよ」

「ミツバチたちのプレゼント……」

康太は感激した面持ちで、ハチミツ柚子茶をまじまじと見た。
そして、おじいちゃんを真っ直ぐに見つめた。

「おじいさん……僕にも、ミツバチの飼い方を教えて下さい。僕、詩音さんとこれからもずっと……この素敵な絵とハチミツを産み出していきたいんです」

「やだもう、康太さんったら……」

真っ直ぐな想いを伝える康太に、私も照れて火照ってしまう。

庭から入ってきたミツバチたちが、幸せ溢れる私達を祝福するかのように私の描いた絵画の周りを舞い飛んだ。
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