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~第七章 手話コーラス合宿~
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親交祭二週間前。
金曜の五コマ後から日曜にかけて、手話コーラス本番に向けた合宿が行われる。
大学の体育館で練習し、最終日には舞台で本番さながらにコーラスを披露するのだ。
本番さながら、ということから、本番が近いことを改めて実感し、僕の緊張は高まる。それに、自分以外の曲の発表を見ることができるのも、何より楽しみだった。
空きコマも使ってのチェリーとの自主練の甲斐あって、『恋唄』の手話とタイミングは一通り覚えられた。
あと必要なのは、口話、表情、体の動き。
それらが全て一致することで、聾者は視覚的に『音楽』を感じることができるのだ。
体育館で恋唄班四人が向かい合い、手話コーラスを奏でる。
「たっくん、表情が素に戻ってる!」
また、沙羅からダメ出しを受けた。
僕はどうも、表情が苦手だ。
口角の上げ下げ、眉間の皺、目を細めたり、色々な工夫をして歌詞に込められた『気持ち』を顔に出し、表現する。
聾者にとっては相手の表情が非常に重要、コミュニケーションをとる上での鍵となる。
しかし、僕は基本的に無表情、気持ちを顔に出したりはしない。歌の間は頑張って表情を作ろうとするのだが、少し気を抜いたり手話の方に気を取られたりすると、すぐに素の無表情に戻ってしまうのだ。
「『恋唄』は、男が女に自分の気持ちを伝える曲よ。そんなに無表情で気持ちを言われても、誰の心にも響かない。手話はちょっとくらい間違えてもいいから、兎に角、表情。自分の大切な人に伝える気持ちを顔で表現することが、この合宿でのあなたの課題よ」
『自分の大切な人』という言葉で、僕の脳裏に里菜の顔が浮かび、慌てて頭を振って掻き消した。
僕は里菜の心を揺さぶる『音楽』を伝えたい、とは思っているけれど、そんな感情ではない……筈だ。
また最初から曲を流し、手話をしながら表情をつくる。しかし、何だかぎこちない……。
「心がこもってない、怖い!」
顔の筋肉を使って笑顔を作っているつもりなのだが、目が笑ってなかったみたいだ。
「もっとこう、好きな人を思い浮かべてその人に向けてのとびきりの笑顔をする!」
「でも、僕、好きな人に笑顔を向けたことなんてない……」
そう言うと、沙羅は溜息を吐いた。
「たっくんは、まず、そこからみたいね。今は加わらなくていいから、私達の表情に注目してコーラスを見てみなさい」
手話コーラスに加わらず、三人を見学した。音楽が始まった途端、顔を上げた三人とも、瑞々しく弾けんばかりの笑顔。
そこから、恥ずかしそうな顔、怒り、悲しみ、そして感動……表情を見ているだけで、曲の主人公の気持ちが僕の心に伝わってきて、泣きそうになる……。
「分かった?」
曲の終了後、沙羅は言う。
「あなたのコーラスには、一番重要な『魂』がこもってないの。ただ、口と手を動かしているだけ。そんなのじゃ、誰の心も揺さぶることはできない。だから……あなたはこの合宿中、誰かに『恋』しなさい!」
「えー!?」
僕は仰天した。
「恋なんて、しようと思ってするもんじゃないですよ!」
「勿論、そのままの意味じゃないわよ。このサークルの誰かをあなたの好きな人だと思って、コーラスしている間、その人にあなたの恋心をぶつけるの。そんなこともできないようじゃ、あなたの好きな人にも、あなたの手話コーラス、伝わらないわよ」
沙羅は、悪戯にニーっと笑う。
何だか、滅茶苦茶な課題を与えられてしまったようだ。
金曜の五コマ後から日曜にかけて、手話コーラス本番に向けた合宿が行われる。
大学の体育館で練習し、最終日には舞台で本番さながらにコーラスを披露するのだ。
本番さながら、ということから、本番が近いことを改めて実感し、僕の緊張は高まる。それに、自分以外の曲の発表を見ることができるのも、何より楽しみだった。
空きコマも使ってのチェリーとの自主練の甲斐あって、『恋唄』の手話とタイミングは一通り覚えられた。
あと必要なのは、口話、表情、体の動き。
それらが全て一致することで、聾者は視覚的に『音楽』を感じることができるのだ。
体育館で恋唄班四人が向かい合い、手話コーラスを奏でる。
「たっくん、表情が素に戻ってる!」
また、沙羅からダメ出しを受けた。
僕はどうも、表情が苦手だ。
口角の上げ下げ、眉間の皺、目を細めたり、色々な工夫をして歌詞に込められた『気持ち』を顔に出し、表現する。
聾者にとっては相手の表情が非常に重要、コミュニケーションをとる上での鍵となる。
しかし、僕は基本的に無表情、気持ちを顔に出したりはしない。歌の間は頑張って表情を作ろうとするのだが、少し気を抜いたり手話の方に気を取られたりすると、すぐに素の無表情に戻ってしまうのだ。
「『恋唄』は、男が女に自分の気持ちを伝える曲よ。そんなに無表情で気持ちを言われても、誰の心にも響かない。手話はちょっとくらい間違えてもいいから、兎に角、表情。自分の大切な人に伝える気持ちを顔で表現することが、この合宿でのあなたの課題よ」
『自分の大切な人』という言葉で、僕の脳裏に里菜の顔が浮かび、慌てて頭を振って掻き消した。
僕は里菜の心を揺さぶる『音楽』を伝えたい、とは思っているけれど、そんな感情ではない……筈だ。
また最初から曲を流し、手話をしながら表情をつくる。しかし、何だかぎこちない……。
「心がこもってない、怖い!」
顔の筋肉を使って笑顔を作っているつもりなのだが、目が笑ってなかったみたいだ。
「もっとこう、好きな人を思い浮かべてその人に向けてのとびきりの笑顔をする!」
「でも、僕、好きな人に笑顔を向けたことなんてない……」
そう言うと、沙羅は溜息を吐いた。
「たっくんは、まず、そこからみたいね。今は加わらなくていいから、私達の表情に注目してコーラスを見てみなさい」
手話コーラスに加わらず、三人を見学した。音楽が始まった途端、顔を上げた三人とも、瑞々しく弾けんばかりの笑顔。
そこから、恥ずかしそうな顔、怒り、悲しみ、そして感動……表情を見ているだけで、曲の主人公の気持ちが僕の心に伝わってきて、泣きそうになる……。
「分かった?」
曲の終了後、沙羅は言う。
「あなたのコーラスには、一番重要な『魂』がこもってないの。ただ、口と手を動かしているだけ。そんなのじゃ、誰の心も揺さぶることはできない。だから……あなたはこの合宿中、誰かに『恋』しなさい!」
「えー!?」
僕は仰天した。
「恋なんて、しようと思ってするもんじゃないですよ!」
「勿論、そのままの意味じゃないわよ。このサークルの誰かをあなたの好きな人だと思って、コーラスしている間、その人にあなたの恋心をぶつけるの。そんなこともできないようじゃ、あなたの好きな人にも、あなたの手話コーラス、伝わらないわよ」
沙羅は、悪戯にニーっと笑う。
何だか、滅茶苦茶な課題を与えられてしまったようだ。
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