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Side 凛
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『面』を外して道場の床に寝っ転がると、冷んやりとしていて気持ちがいい。完敗した後なのに……まるで私の胸には爽やかな風が吹き抜けているかのように、清々しい気分だった。
それは、臆病者のこのライバルが、本気で私と戦ってくれたから。そして……こいつの強さを見抜いていた私の目は正しかった。そのことを確認できたから。
「凛! いつまで寝転がってるの?」
防具を全て外して道着姿になった菫が、私の顔を覗き込んでクスッと笑った。その白い歯は輝いていて……道着の隙間から覗かせる透き通るような肌が艶やかで、思わず私の顔は火照ってしまう。
「あれ、どうしたの? 凛……何か、顔赤いよ」
「あぁもう、大丈夫だから。顔、近いって」
二重瞼に長く美しい睫毛……まるで、人形みたい。こんなに綺麗な顔を近づけられると本当におかしくなりそうで、高まる鼓動を抑えながら私は顔を背けた。
「でも、良かった。これで絶交なんてしないで……今まで通り、友達でいられるんだね」
菫のそんな言葉に、思わず、にやけてしまいそうになる。
そう。私にとって、菫はずっと守ってやるべき存在だった。初めて会った時から、か弱くて儚くて……。
私と同じく剣道をやりたいと言い出してからもずっと、やっぱり妹みたいな存在で、飲み込みの遅い菫に教えてやることばかりだった。
なのに、いつからだろう。
私は、こいつに敵わない……そう、思うようになっていた。菫の剣道は『静』……冷静に相手の攻撃を読み、捌き、その隙を突いて確実に決める。それは、私の剣道とは対極のものだった。
だから……私は自分をさらに高めるためにも。こいつには、本気でぶつかってきて欲しかったんだ。
むくっと上半身を起こした。菫はそんな私を上目遣いでじっと見ていて……いちいち胸をキュンとさせてくる。そんな気持ちを落ち着かせようと、私はすっと目を瞑って密かに深呼吸をした。
「凛?」
「兎に角……菫が本気になってくれて良かったよ。私もあのまま、あんたと絶交することになったらどうしようかと思った」
「えっ、凛も絶交したくなかったの?」
「当たり前じゃん!」
澄んだその目をじっと見つめると、菫は愛らしい頬をプクッと膨らませた。
「じゃあ、どうしてあんなこと、言ったのよ。本当に、悲しかったんだからね」
涙目になる菫に、思わず吹き出しそうになる。
でも……
「そんなの、決まってるじゃない」
「えっ?」
私は片目を瞑り、ニッとウィンクした。
「あんたが、私のライバルだからだよ!」
そう言って……「ほれ!」とスポーツドリンクを投げると、菫は目を輝かせた。
「わぁ、ありがとう。すっごく、のど渇いてたんだ」
彼女はとても可愛らしく、幸せそうな顔をしてそれを飲み始めた。
そのペットボトルが開封されていたことなんて、気にも留めずに……。
(ついに……間接キス、しちゃったな)
その言葉は……私の胸に芽生え初めていたこの想いに気付かれないように。そっと胸の奥にしまっておいたのだった。
それは、臆病者のこのライバルが、本気で私と戦ってくれたから。そして……こいつの強さを見抜いていた私の目は正しかった。そのことを確認できたから。
「凛! いつまで寝転がってるの?」
防具を全て外して道着姿になった菫が、私の顔を覗き込んでクスッと笑った。その白い歯は輝いていて……道着の隙間から覗かせる透き通るような肌が艶やかで、思わず私の顔は火照ってしまう。
「あれ、どうしたの? 凛……何か、顔赤いよ」
「あぁもう、大丈夫だから。顔、近いって」
二重瞼に長く美しい睫毛……まるで、人形みたい。こんなに綺麗な顔を近づけられると本当におかしくなりそうで、高まる鼓動を抑えながら私は顔を背けた。
「でも、良かった。これで絶交なんてしないで……今まで通り、友達でいられるんだね」
菫のそんな言葉に、思わず、にやけてしまいそうになる。
そう。私にとって、菫はずっと守ってやるべき存在だった。初めて会った時から、か弱くて儚くて……。
私と同じく剣道をやりたいと言い出してからもずっと、やっぱり妹みたいな存在で、飲み込みの遅い菫に教えてやることばかりだった。
なのに、いつからだろう。
私は、こいつに敵わない……そう、思うようになっていた。菫の剣道は『静』……冷静に相手の攻撃を読み、捌き、その隙を突いて確実に決める。それは、私の剣道とは対極のものだった。
だから……私は自分をさらに高めるためにも。こいつには、本気でぶつかってきて欲しかったんだ。
むくっと上半身を起こした。菫はそんな私を上目遣いでじっと見ていて……いちいち胸をキュンとさせてくる。そんな気持ちを落ち着かせようと、私はすっと目を瞑って密かに深呼吸をした。
「凛?」
「兎に角……菫が本気になってくれて良かったよ。私もあのまま、あんたと絶交することになったらどうしようかと思った」
「えっ、凛も絶交したくなかったの?」
「当たり前じゃん!」
澄んだその目をじっと見つめると、菫は愛らしい頬をプクッと膨らませた。
「じゃあ、どうしてあんなこと、言ったのよ。本当に、悲しかったんだからね」
涙目になる菫に、思わず吹き出しそうになる。
でも……
「そんなの、決まってるじゃない」
「えっ?」
私は片目を瞑り、ニッとウィンクした。
「あんたが、私のライバルだからだよ!」
そう言って……「ほれ!」とスポーツドリンクを投げると、菫は目を輝かせた。
「わぁ、ありがとう。すっごく、のど渇いてたんだ」
彼女はとても可愛らしく、幸せそうな顔をしてそれを飲み始めた。
そのペットボトルが開封されていたことなんて、気にも留めずに……。
(ついに……間接キス、しちゃったな)
その言葉は……私の胸に芽生え初めていたこの想いに気付かれないように。そっと胸の奥にしまっておいたのだった。
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