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1-いち-
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◆
れいが時折、垣間見せる仕草や言葉……それは彼女が他ならぬ、僕の愛したれいだということを僕に確認させる。
『今日は早いのね』
彼女が今朝、僕に言った言葉。僕はそれを何の違和感もなく受け入れた。不自然なその言葉に違和感を覚える余裕もないくらいに、彼女が今、隣にいること……彼女と共に暮らしていることは自然なことになっていたのだ。
「ねぇ、いち!」
れいは僕に眩い笑顔を向けた。
「あれに乗ろう! ほら、あれ……メリーゴーランド!」
彼女の指差す先では、キラキラとはしゃぐ子供達を乗せたいくつもの馬が、上下に揺れながら回っていた。
「そうだね! 乗ろう、乗ろう」
僕も彼女ににっこりと笑った。
再生後のれいは、メリーゴーランドなんて初めて見るはずだった。だけれども、彼女がそれに乗りたがるのはあまりに自然なことに思えて。
同時に僕は、あの日……初めてメリーゴーランドに乗った彼女が見せた笑顔をもう一度見たい。そう、思ったんだ。
「れい。跨って、棒につかまって……」
僕がそう言うより前に、彼女の体はその乗り方を覚えているようだった。
「乗り方くらい、見てたら分かるわよ」
そう言って頬を膨らませる彼女はやはり、何処か玲奈にも重なって、僕はまたドキッとした。
「でも……私、いちのそういう、優しくって温かいところ、だぁい好き!」
彼女は屈託のない笑顔で僕にそう言ってくれた。その笑顔を見た僕は胸の中で鼓動が高鳴って、体の中がくすぐったくて堪らなくなった。
(れい。僕も大好きだよ)
そんな想いを口に出すのは余計にくすぐったくって、心の中に留めておいた。
その代わりに僕は、れいの笑顔がよく見えるように、隣の馬に跨ったのだ。
パイプオルガンから流れるようなメルヘンチックな音楽とともにメリーゴーランドが回り始めた。周りの子供達の楽しげにはしゃぐ笑い声が聞こえるとともに、僕の顔も自然に笑顔になった。
そして、僕の隣の馬……それに跨るれいは、ここにいる誰よりも楽しそうで。
「あはは! あははは!」
声を上げて笑う彼女は、この世の誰よりも美しく、見ている僕はこの世の誰よりも幸せに思えて。ずっと、彼女のこの笑顔を見ていたい。そう、思ったんだ。
「次、観覧車に乗らない?」
れいは、本当に初めて遊園地に来た時とは対照的に、終始、僕をリードしてくれた。どれも、優しくて穏やかなアトラクションで……彼女との初めてのデートで乗ったものをなぞっているかのようだった。
れいはまるで、自らの記憶を一つ一つ、手繰り寄せるかのようにそれをなぞっていた。
観覧車の中で向かい合う彼女は、とても楽しげに遊園地の全景を見渡していた。
だがしかし……ふと、不安げに眉を寄せて、僕の方を見た。
「ねぇ、いち」
「ん?」
「私とのデート、楽しい?」
それはまさに、僕が初めてのデートの時にれいに尋ねた質問で。だから僕は何だかおかしくなって、思わず吹き出した。
「いち?」
「うん、楽しいよ。楽しくって、幸せで、仕方がない」
僕は、あの日……れいが僕に言ってくれたのと寸分違わぬ答えを返した。
「そうかな……何だか、私が一人で楽しんでいるような気がして。だって、ここ……初めて来る気がしなくって。よく分からないんだけど、懐かしくって、楽しくって、仕方がないんだもの」
彼女はそう言って、うっとりと観覧車からの景色を眺めた。
「僕は……れいの笑顔を見ているだけで、楽しくって幸せで仕方がない」
「えっ……」
僕の言葉に……れいは頬を桃色に染めて、こちらを見た。
観覧車には夕陽が射し込んでいて、それはれいを眩く照らして……彼女は直視できないほどに美しく輝いていた。僕はそんな彼女の頬にそっと触れた。
「れい……綺麗だ。大好きだよ。初めて出会った時から……そして、これからもずっと……」
僕の唇は、まるで自然に彼女のものに重なった。
それは……彼女と過ごすその時間は夢のようだった。楽しくって、甘くて、幸せで……この時間に限りがあるだなんて考えたくない。これが夢ならば、ずっと冷めないで欲しい……僕はそう、願ったんだ。
れいが時折、垣間見せる仕草や言葉……それは彼女が他ならぬ、僕の愛したれいだということを僕に確認させる。
『今日は早いのね』
彼女が今朝、僕に言った言葉。僕はそれを何の違和感もなく受け入れた。不自然なその言葉に違和感を覚える余裕もないくらいに、彼女が今、隣にいること……彼女と共に暮らしていることは自然なことになっていたのだ。
「ねぇ、いち!」
れいは僕に眩い笑顔を向けた。
「あれに乗ろう! ほら、あれ……メリーゴーランド!」
彼女の指差す先では、キラキラとはしゃぐ子供達を乗せたいくつもの馬が、上下に揺れながら回っていた。
「そうだね! 乗ろう、乗ろう」
僕も彼女ににっこりと笑った。
再生後のれいは、メリーゴーランドなんて初めて見るはずだった。だけれども、彼女がそれに乗りたがるのはあまりに自然なことに思えて。
同時に僕は、あの日……初めてメリーゴーランドに乗った彼女が見せた笑顔をもう一度見たい。そう、思ったんだ。
「れい。跨って、棒につかまって……」
僕がそう言うより前に、彼女の体はその乗り方を覚えているようだった。
「乗り方くらい、見てたら分かるわよ」
そう言って頬を膨らませる彼女はやはり、何処か玲奈にも重なって、僕はまたドキッとした。
「でも……私、いちのそういう、優しくって温かいところ、だぁい好き!」
彼女は屈託のない笑顔で僕にそう言ってくれた。その笑顔を見た僕は胸の中で鼓動が高鳴って、体の中がくすぐったくて堪らなくなった。
(れい。僕も大好きだよ)
そんな想いを口に出すのは余計にくすぐったくって、心の中に留めておいた。
その代わりに僕は、れいの笑顔がよく見えるように、隣の馬に跨ったのだ。
パイプオルガンから流れるようなメルヘンチックな音楽とともにメリーゴーランドが回り始めた。周りの子供達の楽しげにはしゃぐ笑い声が聞こえるとともに、僕の顔も自然に笑顔になった。
そして、僕の隣の馬……それに跨るれいは、ここにいる誰よりも楽しそうで。
「あはは! あははは!」
声を上げて笑う彼女は、この世の誰よりも美しく、見ている僕はこの世の誰よりも幸せに思えて。ずっと、彼女のこの笑顔を見ていたい。そう、思ったんだ。
「次、観覧車に乗らない?」
れいは、本当に初めて遊園地に来た時とは対照的に、終始、僕をリードしてくれた。どれも、優しくて穏やかなアトラクションで……彼女との初めてのデートで乗ったものをなぞっているかのようだった。
れいはまるで、自らの記憶を一つ一つ、手繰り寄せるかのようにそれをなぞっていた。
観覧車の中で向かい合う彼女は、とても楽しげに遊園地の全景を見渡していた。
だがしかし……ふと、不安げに眉を寄せて、僕の方を見た。
「ねぇ、いち」
「ん?」
「私とのデート、楽しい?」
それはまさに、僕が初めてのデートの時にれいに尋ねた質問で。だから僕は何だかおかしくなって、思わず吹き出した。
「いち?」
「うん、楽しいよ。楽しくって、幸せで、仕方がない」
僕は、あの日……れいが僕に言ってくれたのと寸分違わぬ答えを返した。
「そうかな……何だか、私が一人で楽しんでいるような気がして。だって、ここ……初めて来る気がしなくって。よく分からないんだけど、懐かしくって、楽しくって、仕方がないんだもの」
彼女はそう言って、うっとりと観覧車からの景色を眺めた。
「僕は……れいの笑顔を見ているだけで、楽しくって幸せで仕方がない」
「えっ……」
僕の言葉に……れいは頬を桃色に染めて、こちらを見た。
観覧車には夕陽が射し込んでいて、それはれいを眩く照らして……彼女は直視できないほどに美しく輝いていた。僕はそんな彼女の頬にそっと触れた。
「れい……綺麗だ。大好きだよ。初めて出会った時から……そして、これからもずっと……」
僕の唇は、まるで自然に彼女のものに重なった。
それは……彼女と過ごすその時間は夢のようだった。楽しくって、甘くて、幸せで……この時間に限りがあるだなんて考えたくない。これが夢ならば、ずっと冷めないで欲しい……僕はそう、願ったんだ。
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