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0-れい-
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◇
フカフカのベッドの上で目を覚まして、私はグーンと伸びをした。
このベッドは以前、誰かが使っていたのだろうか?
使っていたとしたら、いちの元妻か、元恋人か……私とは全く無関係な女性。そのはずなのに、このベッドは何故か私の体によく馴染んで、私のにおいが染み付いているような気がして……とても安心して、熟睡することができた。
どうしてだろう?
私……この家に昨日、初めて来たはずなのに、何だかずっとここに住んでいるような気がする。
それに、あの人……いちも。顔を見た瞬間に懐かしくて切なくて、堪らない気持ちになったし、彼の作ってくれたカレーピラフ……舌がとろけるほどに美味しいそれも、初めて食べた気がしなかった。
私は着替えを済ませてキッチンに立った。
不思議だ……キッチン用品の場所を、私の体が覚えている。フライパンが上から二番目の棚にあることも、ヘラが一番左の引き出しにあることも、塩こしょうの場所さえも。まるで、毎日このキッチンでお料理していたかのように……。
「おはよう」
目玉焼きを焼いている時、後ろからかけられた挨拶に振り返った。
視線の先では少し寝惚け眼のいちが目を擦っていて、そんな彼を見ると私の顔も自然と綻んだ。
「おはよう、いち。今日は早いのね」
それは、自分の口から自然に出た言葉。しかし、ほどなく私はその違和感に気がついた。
(今日は早い……?)
私、何を言っているんだろう? 彼と朝を迎えるのは、今日が初めてのはずなのに。
だけれども彼はその違和感に気付かぬ様子でテーブルの席に着いて。私は作り上がったものから順に、朝食をテーブルに運んだ。
「うわぁ……朝からごちそうだなぁ」
「まぁ。ごちそうだなんて、大袈裟ね。ごく普通、定番の朝食じゃない」
私達はごく自然に、まるで恋人同士のような会話をする。
だけれども……考えてみたら、それも不思議なことだ。人間同士でも、打ち解けてスムーズに会話ができるようになるのにはある程度の時間がかかるものだと聞いたことがある。ましてやこれまでほとんど人間と関わりのなかった自分が、これほどすぐに彼と自然な会話ができるなんて……彼と会話をしながらも、私の中では次第に謎が深まっていった。
「ねぇ、いち」
私は彼をじっと見つめた。
「私が人型だってことは……気にならない?」
そう……私の手首には、私が人間ではない証。『刻印』のバーコードが刻まれている。しかし彼は、一度もそれを目で追ったことはなかったのだ。
すると彼は少し目を丸くしてキョトンとして……だけれども、すぐにその目を細めた。
「忘れてた」
「えっ?」
「れいが人型だってこと。だって、僕……れいと一緒にいると、楽しくて。他の誰といる時よりも幸せなんだから」
それは、彼の飾らない本当の気持ち……そのことは、彼の優しくて温かい目を見ると、伝わってきた。
だから私は何だか、体の中がくすぐったくて、いたたまれなくて……そっと、彼から目を逸らした。だけれども私の胸の中では鼓動が高鳴って、体が熱くて堪らなくなっていたのだ。
いちはそんな私の手を握った。その手は大きく、温かくって柔らかで……私の心を優しく包んでくれるようだった。
「なぁ、れい」
彼は私をじっと見つめた。
「今日、遊園地に行かない?」
「えっ?」
「だって、今日……日曜日で仕事、休みだし」
いちも照れているかのように、少し目を逸らした。
でも私はそんな彼の提案が嬉しくって幸せで。だから飛びっきりの笑顔で言った。
「うん! 遊園地、行きたい!」
それは、恋人同士のデートのお決まりのコース。そのことは知っていた。
私は彼が遊園地に誘ってくれたことが嬉しくて……今日のこれからが、楽しみでならなかったのだ。
フカフカのベッドの上で目を覚まして、私はグーンと伸びをした。
このベッドは以前、誰かが使っていたのだろうか?
使っていたとしたら、いちの元妻か、元恋人か……私とは全く無関係な女性。そのはずなのに、このベッドは何故か私の体によく馴染んで、私のにおいが染み付いているような気がして……とても安心して、熟睡することができた。
どうしてだろう?
私……この家に昨日、初めて来たはずなのに、何だかずっとここに住んでいるような気がする。
それに、あの人……いちも。顔を見た瞬間に懐かしくて切なくて、堪らない気持ちになったし、彼の作ってくれたカレーピラフ……舌がとろけるほどに美味しいそれも、初めて食べた気がしなかった。
私は着替えを済ませてキッチンに立った。
不思議だ……キッチン用品の場所を、私の体が覚えている。フライパンが上から二番目の棚にあることも、ヘラが一番左の引き出しにあることも、塩こしょうの場所さえも。まるで、毎日このキッチンでお料理していたかのように……。
「おはよう」
目玉焼きを焼いている時、後ろからかけられた挨拶に振り返った。
視線の先では少し寝惚け眼のいちが目を擦っていて、そんな彼を見ると私の顔も自然と綻んだ。
「おはよう、いち。今日は早いのね」
それは、自分の口から自然に出た言葉。しかし、ほどなく私はその違和感に気がついた。
(今日は早い……?)
私、何を言っているんだろう? 彼と朝を迎えるのは、今日が初めてのはずなのに。
だけれども彼はその違和感に気付かぬ様子でテーブルの席に着いて。私は作り上がったものから順に、朝食をテーブルに運んだ。
「うわぁ……朝からごちそうだなぁ」
「まぁ。ごちそうだなんて、大袈裟ね。ごく普通、定番の朝食じゃない」
私達はごく自然に、まるで恋人同士のような会話をする。
だけれども……考えてみたら、それも不思議なことだ。人間同士でも、打ち解けてスムーズに会話ができるようになるのにはある程度の時間がかかるものだと聞いたことがある。ましてやこれまでほとんど人間と関わりのなかった自分が、これほどすぐに彼と自然な会話ができるなんて……彼と会話をしながらも、私の中では次第に謎が深まっていった。
「ねぇ、いち」
私は彼をじっと見つめた。
「私が人型だってことは……気にならない?」
そう……私の手首には、私が人間ではない証。『刻印』のバーコードが刻まれている。しかし彼は、一度もそれを目で追ったことはなかったのだ。
すると彼は少し目を丸くしてキョトンとして……だけれども、すぐにその目を細めた。
「忘れてた」
「えっ?」
「れいが人型だってこと。だって、僕……れいと一緒にいると、楽しくて。他の誰といる時よりも幸せなんだから」
それは、彼の飾らない本当の気持ち……そのことは、彼の優しくて温かい目を見ると、伝わってきた。
だから私は何だか、体の中がくすぐったくて、いたたまれなくて……そっと、彼から目を逸らした。だけれども私の胸の中では鼓動が高鳴って、体が熱くて堪らなくなっていたのだ。
いちはそんな私の手を握った。その手は大きく、温かくって柔らかで……私の心を優しく包んでくれるようだった。
「なぁ、れい」
彼は私をじっと見つめた。
「今日、遊園地に行かない?」
「えっ?」
「だって、今日……日曜日で仕事、休みだし」
いちも照れているかのように、少し目を逸らした。
でも私はそんな彼の提案が嬉しくって幸せで。だから飛びっきりの笑顔で言った。
「うん! 遊園地、行きたい!」
それは、恋人同士のデートのお決まりのコース。そのことは知っていた。
私は彼が遊園地に誘ってくれたことが嬉しくて……今日のこれからが、楽しみでならなかったのだ。
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