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標高六百九十九米は、日本三大夜景を見渡せる場所の中でも一番高い位置らしい。生まれた街のこの輝きは、かつては当たり前のものとして捉えていたが、一人暮らしをして故郷を離れた今となってはとても尊いものになっていた。
だからこそ、僕は一番大事な女性にこの夜景を見せたくて、京都から車を走らせてきた。
「達也(たつや)、少しくらい休まなくて大丈夫?やっぱり無理しないで、ケーブルとロープウェイで行く方が良かったんじゃ……」
「大丈夫だって。僕なら全然、疲れていないし。それに、ロープウェイとかを使ったら、帰りの時間を気にしないといけないから」
心配顔の小百合(さゆり)にそう答えながらも、僕は若干、後悔していた。
京都の大学に通う僕は、免許取り立ての新米ドライバー。だけれども、バイトでコツコツと貯めたお金で、中古のこの車を買った。
そしてマイカーを使っての初めての遠出が、僕の故郷であるこの神戸巡りだったのだ。
小百合には見栄を張ったものの、僕自身も無事に着くことができるかどうか、不安でたまらず……彼女も横から僕の運転をサポートしてくれる。そんな、情けない旅行になってしまっていたのだ。
神戸に着くまでも一苦労だったけど、表六甲ドライブウェイから西六甲ドライブウェイ、奥摩耶ドライブウェイを通って摩耶山の掬星台にまで行くまでの山道はさらに厳しく、僕は少し涙目になっていた。
そんな僕を見て、助手席の小百合はクスッと笑った。
「ねぇ、そんなにすごいの?その夜景って」
「そりゃあ、すごいよ。まるで、色とりどりの星が集まって瞬いているかのようで……吸い込まれそうになるよ」
「そっか。千万ドルの夜景って言われるほどだもんね。何だか、ロマンチック」
オレンジ色から仄かに紺色に染まり始めた夕焼け空を窓から見上げて、小百合はうっとりとした。
「まぁ……千万ドルってのは、電気代のことなんだけどね」
「えっ、電気代?」
小百合は不思議そうに首を傾げた。
「そう。掬星台から見える、神戸の街の電灯……それを一ヶ月灯すのに必要な電気代が大体、千万ドル。だから、千万ドルの夜景って言うんだ」
慣れない車を運転する僕は、ひたすらに前を向きながら自分の知識の及ぶ限りのことを話した。すると、助手席からやや尖った声が向けられた。
「ちょっと、達也ぁ」
僕には分かる……こういう時、彼女はプクッと頬を膨らませている。
「折角、ロマンチックな響きに浸ってるのにわざわざそれを壊さなくてもよくない?電気代って……何か、現金だし」
彼女のその言葉に、真っ直ぐ前を向きつつも思わず苦笑いしてしまった。
「でも、本当のことだからなぁ……」
「本当のことだからって、別に敢えて言わなくてもいいじゃない。全くもう、野暮なんだから」
「ははっ、そうだったな。ごめん、ごめん……あ、よしっ!着いた」
掬星台の駐車場に着いて、僕は内心、ガッツポーズをした。着いてしまえばこちらのもの。生まれた街の輝きを彼女とともに見ることができる。それは、僕の故郷の一番の自慢で……小百合に出会ってからずっと一緒に見たいと思っていた夜景なんだ。
だからこそ、僕は一番大事な女性にこの夜景を見せたくて、京都から車を走らせてきた。
「達也(たつや)、少しくらい休まなくて大丈夫?やっぱり無理しないで、ケーブルとロープウェイで行く方が良かったんじゃ……」
「大丈夫だって。僕なら全然、疲れていないし。それに、ロープウェイとかを使ったら、帰りの時間を気にしないといけないから」
心配顔の小百合(さゆり)にそう答えながらも、僕は若干、後悔していた。
京都の大学に通う僕は、免許取り立ての新米ドライバー。だけれども、バイトでコツコツと貯めたお金で、中古のこの車を買った。
そしてマイカーを使っての初めての遠出が、僕の故郷であるこの神戸巡りだったのだ。
小百合には見栄を張ったものの、僕自身も無事に着くことができるかどうか、不安でたまらず……彼女も横から僕の運転をサポートしてくれる。そんな、情けない旅行になってしまっていたのだ。
神戸に着くまでも一苦労だったけど、表六甲ドライブウェイから西六甲ドライブウェイ、奥摩耶ドライブウェイを通って摩耶山の掬星台にまで行くまでの山道はさらに厳しく、僕は少し涙目になっていた。
そんな僕を見て、助手席の小百合はクスッと笑った。
「ねぇ、そんなにすごいの?その夜景って」
「そりゃあ、すごいよ。まるで、色とりどりの星が集まって瞬いているかのようで……吸い込まれそうになるよ」
「そっか。千万ドルの夜景って言われるほどだもんね。何だか、ロマンチック」
オレンジ色から仄かに紺色に染まり始めた夕焼け空を窓から見上げて、小百合はうっとりとした。
「まぁ……千万ドルってのは、電気代のことなんだけどね」
「えっ、電気代?」
小百合は不思議そうに首を傾げた。
「そう。掬星台から見える、神戸の街の電灯……それを一ヶ月灯すのに必要な電気代が大体、千万ドル。だから、千万ドルの夜景って言うんだ」
慣れない車を運転する僕は、ひたすらに前を向きながら自分の知識の及ぶ限りのことを話した。すると、助手席からやや尖った声が向けられた。
「ちょっと、達也ぁ」
僕には分かる……こういう時、彼女はプクッと頬を膨らませている。
「折角、ロマンチックな響きに浸ってるのにわざわざそれを壊さなくてもよくない?電気代って……何か、現金だし」
彼女のその言葉に、真っ直ぐ前を向きつつも思わず苦笑いしてしまった。
「でも、本当のことだからなぁ……」
「本当のことだからって、別に敢えて言わなくてもいいじゃない。全くもう、野暮なんだから」
「ははっ、そうだったな。ごめん、ごめん……あ、よしっ!着いた」
掬星台の駐車場に着いて、僕は内心、ガッツポーズをした。着いてしまえばこちらのもの。生まれた街の輝きを彼女とともに見ることができる。それは、僕の故郷の一番の自慢で……小百合に出会ってからずっと一緒に見たいと思っていた夜景なんだ。
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