千万ドルの笑顔

いっき

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 掬星台からはその名のごとく、まるで手で光輝く無数の星を掬えるかのように千万ドルの夜景を眺められる。僕達は隣り合って、そこからの遥かな夜景を眺めた。
 夕焼け空が紺色に覆い尽くされるにつれて、その場所から見えるライトはその存在を主張し始める。その輝きは標高六百九十九米という空間を超えて、神戸に住む全ての人々の生活……その営みを見る者に語りかけて。徐々に溢れ返るライトの洪水は、その輝きを以って視界を占有し、永遠ども思える美しさを以って僕達を感動させる。
 空が紺で覆い尽くされ、C字形となったライトの洪水が海にその輝きを反射させた瞬間。
「時間よ、止まれ」
 僕達はそう願う……それほどまでに、六甲千万ドルの夜景は、見る者を魅了するのだ。

「綺麗……」
 小百合の口からは嘆息とともに、ただその一言が漏れて。
 夜景から隣の彼女に目を移した瞬間、夜景の輝きを反射した小百合の横顔の美しさに、僕は心を奪われた。
「小百合の方が……綺麗」
 僕の口からは意図することなく、そんな言葉が漏れた。
「えっ……」
 耳に入った言葉を聞き返そうとこちらを向いた彼女の唇と、僕の唇がそっと重なった。
「ん……」
 お互いに目を瞑り……僕達の時間は本当に止まった。この瞬間も付き合い始めてからまだ数えるほどしかない。だけれども、僕の心はもうすでに、全て彼女に奪われている。
「もう……達也ったら」
 唇を離して……照れ隠しにはにかむ小百合の笑顔に僕の意識は吸い込まれた。それは『美しい』なんて月並みな言葉では表現できない。この世界で一番愛しくて。彼女の笑顔があれば、僕はいつまでだって頑張ることができる。

「この夜景は千万ドルだけれど……」
 僕らの前に果てしなく広がるネオンの洪水に目を移して、そっと呟いた。
「小百合の笑顔も千万ドルだ」
「えっ?何、それ?何、それ?」
 小百合は興味深そうに僕の言葉の意味を尋ねた。
 改めて尋ねられると照れ臭くて、僕の顔は火照り出して。だから、つい口を噤んだ。
 小百合はそんな僕ににっこりと微笑んで、また千万ドルの夜景に目を移した。
 それはまるで、夜空に輝く星達が溢れ出すほどに瞳を照らすようで、僕達は時の許す限りいつまでも眺めていた。
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