ジェミニ 〜魂の契約者達〜

えいりす

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第三章 王都への旅

54.涙食姫

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エイシェルと別れたアリス、フラム、フルームの3人は今日泊まる宿を探していた。

「アリスはどこか希望ってある?……と言っても来たばかりで分からないんだっけ」

「特に希望がないのであれば私達の方で考えるけど?」

フルームとフラムがアリスにどこがよいか希望を聞く。
ただ、アリスとしてはどこがどういう特徴だとかとか分からないため、ざっくりとした希望を伝える。

「そうね、……強いて言えばごはんが美味しい宿がいいわね……」

「うーん、そうなるとあそこかな?コック帽の看板の宿屋」

「あー、あそこのご飯美味しいよね」

「コック帽の看板の宿?そんなのがあるの?」

「うん、なんでも、夫婦で切盛りしてる宿屋だったんだけど旦那さんが怪我をして、店を畳もうとしたらしいのね?そんで、元料理人の息子が帰ってきて宿を潰すのは嫌だって事で跡を継いだんだって。その時に看板のも変えたみたい」

「私達も聞いた話だけどね?」

「へぇー……それなら料理も美味しそうだし、安心できそうな宿ね!」

アリスの希望にフラムが答える。初日泊まった宿を出てから他の宿を探したが、コック帽の看板の宿は見た記憶がない。きっと見落としたのだろうと考えているとフルームから追加の説明が入る。

そうして泊まる宿を決めて3人は目的の宿へと向かった。




宿に到着するとアリスは驚いた。

「ここ……初めてこの町に来た時に泊まった宿だわ……。」

どうりで探した宿の中にコック帽の看板が無いわけである。泊まった宿とは別の宿を見て回っていたのだから見ているはずがなかった。
最初に着いた時も夜遅く、しかも疲れきっていたので看板など見ていなかったのだ。
……そしてちょっとトラウマがあるため近寄り難かった。

「そうなの?ここの宿の料理は美味しいって聞いてたけどまだ行ったことがなかったのよね」

「明日の朝ごはんが楽しみ!」

「ね、ねぇ……やっぱり別の……あぁ……」

アリスがトラウマに負けて別の店にしようと言おうとしたがフラムとフルームは店に突撃してしまった。仕方なくアリスも宿に入るのだった。

「すみませーん。3人部屋1泊空いてますかー?」

「はーい。今行きます」

フルームがカウンターに突撃する。
するとカウンターの奥から初日にアリスを受付したおばさんが現れた。

「3人部屋1泊朝食付きでお願いします!」

「はい、3人部屋1泊朝食付きですね?……はい、空いているので受け付けます」

フルームが受付で書類を記入していると周りからざわざわ聞こえてきた。





「おい、あれ"涙食姫"じゃねぇの?」

「あ、ほんとだ!姫さんここに帰ってきたか」

「あの娘って泣きながらシチュー食べてたわよね?」

「それだけ美味しかったってことだろ?あれを見て改めて食のありがたみを考えさせられたよ……」

「裏情報だが、3日でCランクになったらしいぞ」

「何が裏情報だよ。さっきギルドで"涙食姫"が喜んで話してる姿を見てたじゃねぇか」

「細かいことはいいんだよ!俺のアイドルが偉業を成し遂げてここに帰ってきたんだ。テンションも上がるわ」

「俺のとか言わないでよね?私もあの娘のファンなんだから。みんなのアイドルでしょ?あぁ……あの氷漬けのイノシシ……ものすごくキレイだったわ……。次は何を氷漬けにするのかしら?」





……聞こえない。ナニモキコエナイ。アリスは何も聞こえないかのように振る舞った。

(え、なに……?みんなわたしを見てない……?え?るいしょくき……?……泣いて、食べる、ひ、姫?……なにその恥ずかしい名前……。フラムとフルームに知られる前に早く部屋に上がらないと……!)

アリスがそんなことを考えていると無情にも受付からも声が上がる。

「……あれ?もしかして4日前にこちらを利用したアリスさんですか?また当宿を利用いただきありがとうございます!なんでも、うちの料理を食べると物事がうまく進むとか、今日新しく聞いた中には、出世するとか、噂になっており急にお客さんが増えたんですよ!」

「え、なになに!?アリスってば有名人なの!?」

「周りのざわざわはアリスに対してだったのね……なにしたらそうなるのよ……」

「わたしが教えてほしいわよ……!」

アリスは涙目で2人に叫ぶ。受付が完了したところで部屋へ向かうのであった。



部屋に着いた3人だったが、あまりにも気になったのでフラムから質問がくる。

「ねぇアリス?あれはどういうことなの?なんかアリスのファンとかいたんだけど」

「……ファンとか本当に知らないの……。ただ、ちょっと目立っちゃって……それが原因だと思うんだけど……それでなんでこんな事になってるのかが全然わからない……」

アリスは恥ずかしさで泣いていた。ただ泣きながらシチューを食べただけなのに、どうしてこうなったのか。そう思いながら2人にぼかして回答するも逃げられそうになかった。

「目立つ出来事ってなに?さっき泣いてシチューを食べてたとかるいひょくきとか聞こえてきたけど?」

「う……わかったわよ……。でも、なんであんな事になってるかは本当に知らないからね?……エイシェルと痛覚共有してるのは知ってるわよね?私がここでシチューを食べようとした時にちょうどエイシェルが激辛の何かを食べたらしいのよ。そして、辛さって痛みらしくて、わたしもシチュー食べて辛く感じたってわけ。」

「あー……辛すぎて泣いちゃったのね」

「いえ……辛さはヒールでどうにかなったの。問題はそのあとよ……。ひとくち食べたらものすごく美味しくて……。あぁ、美味しい食べ物ってこんなに素晴らしいものだったんだって。そう思ったら自然と涙が溢れてきたの。……しばらく泣きながら食べてたわね……。……めちゃくちゃ恥ずかしかったわ……」

アリスは思い出しながら震えていた。さまざまな感情が溢れ出てくるが恥ずかしさに勝るものはなかった。

「……なるほど、そこで目立っちゃってあのイノシシ狩りか……氷漬けだったものね……そりゃ話題になるわ……」

「でも、イノシシを討伐した時って誰にも見られてないんでしょ?ピンチだった時に他に人がいたら助けてくれそうだし」

フラムが、アリスが有名になる要因となり得る理由だと納得したが、フルームが気になることを確認する。

「たぶん、誰にも見られてないわね……あー……でも、フラターさんに出張買取依頼した時に何人か冒険者がついてきたとか言ってたっけ……?」

「あぁ、おじさんに買取頼んだのね」

「おじさんって……そんなに歳いってなさそうだけど……」

「うん?あぁ、違う違う。フラターさんって私たちの叔父なの」

「……へ?」

フラムが悪びれもせずフラターをおじさん呼ばわりする。フラターには色々よくしてもらっていたため、あまりに不憫だと思いアリスは少しフォローをいれたがまさかのカミングアウトだった。


「後で話すわね。しかし……それだけかしら?まだここまで有名になるには弱い気が……」

「……ねぇ、さっき辛さはヒールでどうにかなったって言ったけど……もしかしてお店の中でヒール使った……?」

「?……使ったけど……それがなにか……?」

「「それだ!」」

「え?」


この異常事態に陥るまでの理由が弱いと思ったフラム。考え込んでいるとフルームが核心に触れた。アリスにはまだことの大きさが分かっていない。


「いい?アリスも知ってると思うけど魔法の属性は基本的に火、水、風、土って言われてるでしょ?勘違いしている人もいるけど、それは程度はあれどその4種類はみんな使えるからなの……ファイアボール」

フラムはそういうと手のひらを差し出し、手のひら大の火球を生み出す。フラムが手を握ると火球も消える。

「でも、他の魔法は違う。特にヒールは魔力の種類が違うのか生命力からヒールを使うための魔力に変換する効率が悪いと言われているわ。だからヒールを使えるだけでかなりのアドバンテージがある」

フラムの説明を聞いていると自分がとんでもなくデタラメな存在に思えてくる。生命力の魔力変換効率がヒールもその他の魔法も変わらないように感じるのだ。
もともと高い変換効率に加えて、今はエイシェルとの生命力共有がある。そのため現在のアリスは常人とは比べものにならないほどに魔法に長けていた。

「……それなのに……アリス、あなたは辛いってだけでヒールを使ったでしょ。たぶん、周りからしたら熱くて火傷したからヒールを使ったと思っているわ。……そう、たかが火傷にヒールを使える。……で、どうせその後もピンピンしてたんでしょ?そんな存在見かけたら私だって気になるわよ」

魔法行使で生命力が急に減ると倦怠感や眩暈など体調に不調をきたす事が多い。それすらないとなるとヒールを使い慣れたものか、相当な実力者である。どちらにせよ注目の的になるのは間違いなかった。

「そ、そんなぁ……。……もうこの宿に泊まれないよぉ……」

「……"泣食姫"だもんね。そのうちこの町全体に広がりそう……」

「その名前はやめてぇーー!」

これ以上噂が広がるとこの町にいられなくなってしまう。そう思いアリスは切実に抗議の叫びをあげるのだった。
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