ジェミニ 〜魂の契約者達〜

えいりす

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第四章 王都防衛戦

151.忘れられるということ

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 ドラゴンとの戦いの後に負傷者の治療に当たっていたアリスは治療を終えた後に戦死者の安置所に来ていた。

『あなたのせいじゃないわよ。もともと助かる見込みなんてなかったし』

「…………この人もさっきまでは生きてたんだよね」

 アリスが治療した人の中で助けられなかった人がいたのだ。自分は万能じゃない。そんな事は分かっていたがいざ死の瞬間を目の当たりにすると悔しく思う。

『それよりも助けられた人のことを考えましょう?手足バンバン生やして白衣の天使様なんて言われてたわよ?』

「……誰よそんな呼び方した人」

 アリスは魔王の励ましにジト目で返す。励ましてくれるのは嬉しいが寂しく感じたのだ。

「確かに助けられた人の事を考えると助けられて良かったって思うわ。……でも……死んでしまった人の事を思うと……忘れてしまうのはかわいそうだなって」

 人はいつか死んでしまう。それでも家族や恋人がいたのならその人達の思い出の中に残る。……もし、誰も覚えている人がいなくなったとしたら?それは無と同じだ。最初からいなかったまのと変わらない。その存在すら誰も知らないのだから……。
 アリスはそれがとても寂しく思えた。見ず知らずの人だけど、確かにここにいた。ここで死んだんだ。それだけは忘れないでいようと思ったのだった。



「……ここだ」

 アリスが黙祷していると誰かが安置所に来たようだ。きっと誰かを探しにきたのだろう。見つけた人は悲しむだろうが見つけられた人はその人の記憶の中に生き続ける。それだけでもその誰かは救われるだろう。そう割り切るしかなかった。
 とはいえ、誰かが悲しむ姿を見るのはあまり気分のいいものではない為アリスはその場から立ち去ろうとする。すると聞き覚えのある声がアリスの名を呼ぶ。

「アリス?」

「え?フルーム?フラムも…………それと」

 そこにいた少年は見覚えがあった。確かクレープ屋で例の宝石を落としていた少年だ。

「あなたは……!?」

 アリスはあからさまに警戒するそぶりを見せる。もしあの宝石を、転移紋が書かれた宝石を意図的に持ち込んだのならそばにいるフラムとフルームが危険である。
 アリスが険しい表情を浮かべ警戒しているとフルームが慌てて間に入る。

「ちょ、ちょっと!アリスどうしたの?」

「アリス、落ち着いて」

 フラムもフルーム同様に目の前の少年を庇うような発言をする。このふたりが庇うのなら何かしら理由があるはず。アリスはそう考えて少しだけ冷静になった。

「……あの宝石。あれは何?」

 アリスが真剣な顔でディルに問いかける。ディルは一瞬なんのことか分からなかったが、すぐにあの時宝石を拾おうとした女の子だと気づいた。

「あなたはあの時の……。そう……か。本当にごめんなさい……本当に……ごめん……なさい……」

 クレープ屋でアリスとエイシェルがいたことを思い出し、アリスがひとりでこの場にいるということはディルから見れば理由はひとつだった。だからこそ謝った。謝って許されることではないが謝ることしかできない。だから誠心誠意謝ったのだ。

 その様子を見たアリスは驚く。少なくともあの宝石が引き起こした事態は少年の意図したものではなさそうだと分かり警戒を解いた。

「……説明してくれるかしら?」

 アリスができるだけ優しく問いかけるとディルは先程フラムとフルームにした説明をするのだった。






「魔物の中にあの宝石が……」

「だから、ディルは悪くないんだよ」

 アリスはドラゴンと戦いに向かう途中の会話を思い出していた。祖龍にこの惨事を依頼した黒幕がいる。憶測の域を出ないその考えであったが何故かそう思えてならない。
 その黒幕のせいで王都にいる人が、目の前にいる少年の大切な人の命が奪われたのだ。許されることではなかった。

 アリスは険しい顔で黒幕の事を考えているとディルは勘違いをし再び謝る。

「彼氏さんのことは……本当にごめんなさい」

「…………ん?」

「謝って済む話じゃないのは分かってる……でも今の俺にはただ謝ることしかできなくて……」

「ち、ちょっと?彼氏ってなんのこと?」

 アリスはディルが何か勘違いをしていることに気付き確認する。

「あれ……?あのクレープ屋にいた男の人、彼氏さんじゃないのか?」

 そこでアリスは気付いた。デートしてるところを見られて、こんなところにひとりだけ立ってたら勘違いされても仕方がない。だからこんなにも謝っていたのかと納得するアリス。ただ、その勘違いはあまりにも心苦しいので慌てて訂正するのだった。

「待って待って!彼は無事だから!……私がここにいるのは治療しても救えなかった人がいたの。……救えなかった人がいたこと。それを忘れないようにと思ってここにきたの。だからそんなに謝らなくていいのよ。……それに、さっきの話を聞くと仕方のないところもあるし」

 アリスは訂正するとディルを励ます言葉をかける。こんなにも謝っているのだ。
 仮に自分のせいで彼氏を亡くした彼女が目の前にいたとする。本当なら逃げ出したいはずだ。それなのにも関わらずきちんと向き合って謝っている。それはなかなかできることではない。相当覚悟し勇気を出さなければ出来ないことだった。

 アリスの言葉を聞いたディルの目に再び涙が溢れた。

「良かった……無事でよかった……」

 ただそう繰り返し言いディルは再び泣くのだった。
 ディルは自身とアニスの事を考えていたのだ。目の前の女の子に自分と同じ思いをさせてしまったのではないかと不安になっていたところであったが、そんな事はないようだ。それが分かるとディルは少しだけ救われた気がしたのだった。
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