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第四章 王都防衛戦
152.戦いの爪痕
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再び落ち着きを取り戻したディルはフルーム達を連れて目的の場所へ移動した。失って初めて気付いた最愛の人の前へ。
「アニス……」
到着するや否やディルが呟く。他の人同様に体には布が掛けられており傷は見えなかった。しかし、その布に血が滲んでいることからかなり大きな傷があることが分かる。
「この人がアニスさんなのね……」
「…………綺麗な顔してるけど……亡くなってるんだよね……」
「あぁ……。なんで……なんでこんな安らかな顔してるんだろうな……まだやりたいこともあったのに……」
戦いが終わって改めてアニスと対面するディル。アニスの顔は別れた時と変わらず微笑っているように見えた。フラムもフルームもその顔を見て心が痛んだ。
その様子を後ろから見ていたアリスの心も痛む。もし、ジェミニの魔法が解け、エイシェルだけが死んでしまったらと考えてしまい、またあの恐怖が押し寄せてきたのだ。そして、ディルはその恐怖が現実となってしまった。どれだけ悲しいか、どれだけ悔しいか。考えれば考えるほど心が痛み底知れぬ闇に沈んでいくような錯覚に陥る。
それでも、アリスはエイシェルの言葉を思い出し、信じることで踏みとどまることができた。
最愛の人を失う。それがどれほど辛いことか。アリスは少しだけ分かる気がした。
「…………着いてきてもらって言うことじゃないけど……少しだけ、ふたりにさせてくれないか?」
ディルはフルーム達にそう告げるとアニスの前に座る。フルーム達3人はただ黙ってその場を後にするのだった。
安置所を出たフルームは魔王に問いかける。
「ねぇ、魔王さん?死んだ人を蘇らせる魔法とかないの?」
『少なくとも私は知らないわね』
「ふーん……ない。とは言わないんだ」
魔王はフルームの質問に正直に答える。その答えにフルームが突っ込んだ質問をした。
『あるがないかって言われたら分からないって答えるしかないのよ。……あなたみたいに魔法で剣を作るとか想像も出来なかったし……もしかすると何か方法があるのかもって思ってしまうわね』
魔王は半ば呆れたような声で話す。フルームの魔法の剣は魔王が想像もできなかったものの最たるものである。
日々剣の鍛錬をし、剣と共に成長してきたフルームだからこそ出来たのだろう。
「そっか……。うーん、そうなると難しいのかー」
「アリスがヒールでセルロさんの足を生やした時みたいに、この人を助けたい!って強く思って魔法を使ってもダメなの?」
魔王の話を聞いたフルームが諦めると、フラムがアリスに無茶振りをする。前にアリスがやった魔法で足を生やす事自体奇跡である。アリスならもしかしたらと期待してしまったのだ。
しかし、アリスの回答は至極真っ当な答えだった。
「うーん、魔法って生み出すものを正確にイメージしないといけないでしょ?漠然と死んだ人を蘇らせたい!だけだとうまくいかないと思う。……もしやるんだったら人の生死って何かを具体的に正しく理解する必要があるんじゃないかな。生きてるって状態がどういう事なのか、死ぬってどういう事か。単純な身体の生死だけじゃなくて魂の繋がり方とか、どうやって魂と肉体を繋ぎ止めるのか。とか。……何もわからないし、そもそも答えなんてあるのかもわからない。全てが手探り状態だから出来ないってなるのかも。……実際、できる気がしないけど。……いや、転魂箱の例もあるから応用すればいける……?でも、一度繋がりが切れた魂って繋ぐことできるの?そもそもどこか行っちゃうんじゃ……」
アリスなりに考えてみたもののやはり難しい。魔王が今いる事から魂は間違いなくあるとわかる。転魂箱の事も考えると肉体と魂を繋ぎとめる何かがあるはずだ。恐らくステラはそれが何かを理解しているのだろう。そうでなければ転魂箱なんて作れるわけがないのだから。
だが、もし魂を身体に繋ぎとめるものが分かったとして、果たして一度離れた魂を繋ぐことなんてできるのか。そもそも魂自体どういうものなのかわからない。全てを理解した上でないと死者の蘇生なんて夢のまた夢なのである。それでもアリスは色々と考えてしまいぶつぶつ言っている。
「そ、そうなのね……」
久しぶりに自分の世界に入ったアリスを見たフラムは苦笑いをしとりあえず合いの手を入れる。自分から聞いた手前そのまま放り投げておくのも気が引けたからだ。
もっとも、今のアリスはそんな事気にもしないわけだが。
アリスがぶつぶつ言っているとフルームが話し始める。
「ねぇ、あのドラゴンってどこにあるの?」
「ん?東門の近くだけど……なんで?」
「ちょっとみてみたいなーって」
「いいけど……。アリスもいい?」
「……そもそも天国と地獄って……ん?なにか言った?」
考えすぎてよく分からない事を言い始めたアリスをフラムの声が現実に戻す。
フルームの提案に断る理由もないため3人は東門のドラゴンの所へ向かうのだった。
「…………終わったんだよな」
その頃エイシェルはドラゴンの死体の前にいた。瓦礫に埋もれた人の救助作業が完了し自然と足が向いたのだ。
救助作業も命が助かった者は一握りでほとんど見るも無惨な状況だった為、エイシェルは少し気が滅入ってしまったのだ。この悪夢は終わった。もう続くことはない。そう考えるもエイシェルの頭に不安が付き纏う。その不安から悪夢の終わりを確認しようと無意識にエイシェルの足を動かしたのである。
(今回のはこれで終わったけど……祖龍をどうにかしないとまた同じことが起きるんだよな……?あんなんどうすりゃいいんだよ……)
騒動の根本原因を考えた時にどうしても祖龍を避けることは出来ない。あれだけ圧倒的な力の差である。その巨体に似合わず動きも早い。ルミナレクイエムを放ったところで避けられる恐れがある。そうなってしまうと今度はエイシェル達が生命力不足で動けなくなってしまう為迂闊に使えないのだ。
そして、エイシェルにはもう一つ気になることがあった。
(あの槍から聞こえた声。おっちゃんだったよな……。なにがどうなってんだよ……。魔王や祖龍もおっちゃんのこと知ってたみたいだし……)
親を亡くしてからの2年間。実の親のように慕っていたオージンがとても遠いものに感じた。自分が知らないオージンがいて、それが魔王や祖龍となにかしら関係がありそうなのだ。
(……神、なのか?)
転移紋が描かれた石に向かって必死に走っていた時に聞こえてきた会話。その会話から察するにオージンは祖龍がいうところの神と考えられる。そうなるとさらに疑問が生まれる。今まで一緒にいたのはエイシェルが勇者だからなのか?どうしてなにも教えてくれなかったのか?今回のことも含めいままでの全てがオージンの手のひらで踊っているだけだったのか?
エイシェルの頭の中は疑問でいっぱいだった。どんどんと溢れ出る疑問で頭がいっぱいになり情報を整理出来ずにいる。そんな時、とあるオージンとの会話が頭に流れてきた。
『なぁエイシェル。12星座って知ってるか?』
『星座くらい知ってるよ。それがどうかしたの?』
『実は12星座といいつつも13個あるんだぜ?』
『はぁ?12個だから12星座じゃないのか?』
『12星座の定義があってだな…………』
夜の星空を見上げながらした他愛もない会話。一緒にいたのが女の子であればロマンチックなシーンに映るだろうが、現実はガチムチのオッサンとの会話だ。ロマンチックもくそもない。その時はなぜ唐突にそんな話をしたのだろうと思ったが気にも止めていなかった。
だが、今思えば何か意味があったのではないかと思ってしまう。勇者の魔法。12星座の名を冠する魔法。どうしても無関係とは思えなかった。
(……13個目の星座。もしかすると13個目の勇者の魔法があるのか……?)
エイシェルは疑問に思い思わず魔力を込めてその言葉を口にしてしまった。
「……へびつかい座……オフィウクス……!」
その瞬間エイシェルの頭の中に膨大なイメージが流れ込んできた。
「アニス……」
到着するや否やディルが呟く。他の人同様に体には布が掛けられており傷は見えなかった。しかし、その布に血が滲んでいることからかなり大きな傷があることが分かる。
「この人がアニスさんなのね……」
「…………綺麗な顔してるけど……亡くなってるんだよね……」
「あぁ……。なんで……なんでこんな安らかな顔してるんだろうな……まだやりたいこともあったのに……」
戦いが終わって改めてアニスと対面するディル。アニスの顔は別れた時と変わらず微笑っているように見えた。フラムもフルームもその顔を見て心が痛んだ。
その様子を後ろから見ていたアリスの心も痛む。もし、ジェミニの魔法が解け、エイシェルだけが死んでしまったらと考えてしまい、またあの恐怖が押し寄せてきたのだ。そして、ディルはその恐怖が現実となってしまった。どれだけ悲しいか、どれだけ悔しいか。考えれば考えるほど心が痛み底知れぬ闇に沈んでいくような錯覚に陥る。
それでも、アリスはエイシェルの言葉を思い出し、信じることで踏みとどまることができた。
最愛の人を失う。それがどれほど辛いことか。アリスは少しだけ分かる気がした。
「…………着いてきてもらって言うことじゃないけど……少しだけ、ふたりにさせてくれないか?」
ディルはフルーム達にそう告げるとアニスの前に座る。フルーム達3人はただ黙ってその場を後にするのだった。
安置所を出たフルームは魔王に問いかける。
「ねぇ、魔王さん?死んだ人を蘇らせる魔法とかないの?」
『少なくとも私は知らないわね』
「ふーん……ない。とは言わないんだ」
魔王はフルームの質問に正直に答える。その答えにフルームが突っ込んだ質問をした。
『あるがないかって言われたら分からないって答えるしかないのよ。……あなたみたいに魔法で剣を作るとか想像も出来なかったし……もしかすると何か方法があるのかもって思ってしまうわね』
魔王は半ば呆れたような声で話す。フルームの魔法の剣は魔王が想像もできなかったものの最たるものである。
日々剣の鍛錬をし、剣と共に成長してきたフルームだからこそ出来たのだろう。
「そっか……。うーん、そうなると難しいのかー」
「アリスがヒールでセルロさんの足を生やした時みたいに、この人を助けたい!って強く思って魔法を使ってもダメなの?」
魔王の話を聞いたフルームが諦めると、フラムがアリスに無茶振りをする。前にアリスがやった魔法で足を生やす事自体奇跡である。アリスならもしかしたらと期待してしまったのだ。
しかし、アリスの回答は至極真っ当な答えだった。
「うーん、魔法って生み出すものを正確にイメージしないといけないでしょ?漠然と死んだ人を蘇らせたい!だけだとうまくいかないと思う。……もしやるんだったら人の生死って何かを具体的に正しく理解する必要があるんじゃないかな。生きてるって状態がどういう事なのか、死ぬってどういう事か。単純な身体の生死だけじゃなくて魂の繋がり方とか、どうやって魂と肉体を繋ぎ止めるのか。とか。……何もわからないし、そもそも答えなんてあるのかもわからない。全てが手探り状態だから出来ないってなるのかも。……実際、できる気がしないけど。……いや、転魂箱の例もあるから応用すればいける……?でも、一度繋がりが切れた魂って繋ぐことできるの?そもそもどこか行っちゃうんじゃ……」
アリスなりに考えてみたもののやはり難しい。魔王が今いる事から魂は間違いなくあるとわかる。転魂箱の事も考えると肉体と魂を繋ぎとめる何かがあるはずだ。恐らくステラはそれが何かを理解しているのだろう。そうでなければ転魂箱なんて作れるわけがないのだから。
だが、もし魂を身体に繋ぎとめるものが分かったとして、果たして一度離れた魂を繋ぐことなんてできるのか。そもそも魂自体どういうものなのかわからない。全てを理解した上でないと死者の蘇生なんて夢のまた夢なのである。それでもアリスは色々と考えてしまいぶつぶつ言っている。
「そ、そうなのね……」
久しぶりに自分の世界に入ったアリスを見たフラムは苦笑いをしとりあえず合いの手を入れる。自分から聞いた手前そのまま放り投げておくのも気が引けたからだ。
もっとも、今のアリスはそんな事気にもしないわけだが。
アリスがぶつぶつ言っているとフルームが話し始める。
「ねぇ、あのドラゴンってどこにあるの?」
「ん?東門の近くだけど……なんで?」
「ちょっとみてみたいなーって」
「いいけど……。アリスもいい?」
「……そもそも天国と地獄って……ん?なにか言った?」
考えすぎてよく分からない事を言い始めたアリスをフラムの声が現実に戻す。
フルームの提案に断る理由もないため3人は東門のドラゴンの所へ向かうのだった。
「…………終わったんだよな」
その頃エイシェルはドラゴンの死体の前にいた。瓦礫に埋もれた人の救助作業が完了し自然と足が向いたのだ。
救助作業も命が助かった者は一握りでほとんど見るも無惨な状況だった為、エイシェルは少し気が滅入ってしまったのだ。この悪夢は終わった。もう続くことはない。そう考えるもエイシェルの頭に不安が付き纏う。その不安から悪夢の終わりを確認しようと無意識にエイシェルの足を動かしたのである。
(今回のはこれで終わったけど……祖龍をどうにかしないとまた同じことが起きるんだよな……?あんなんどうすりゃいいんだよ……)
騒動の根本原因を考えた時にどうしても祖龍を避けることは出来ない。あれだけ圧倒的な力の差である。その巨体に似合わず動きも早い。ルミナレクイエムを放ったところで避けられる恐れがある。そうなってしまうと今度はエイシェル達が生命力不足で動けなくなってしまう為迂闊に使えないのだ。
そして、エイシェルにはもう一つ気になることがあった。
(あの槍から聞こえた声。おっちゃんだったよな……。なにがどうなってんだよ……。魔王や祖龍もおっちゃんのこと知ってたみたいだし……)
親を亡くしてからの2年間。実の親のように慕っていたオージンがとても遠いものに感じた。自分が知らないオージンがいて、それが魔王や祖龍となにかしら関係がありそうなのだ。
(……神、なのか?)
転移紋が描かれた石に向かって必死に走っていた時に聞こえてきた会話。その会話から察するにオージンは祖龍がいうところの神と考えられる。そうなるとさらに疑問が生まれる。今まで一緒にいたのはエイシェルが勇者だからなのか?どうしてなにも教えてくれなかったのか?今回のことも含めいままでの全てがオージンの手のひらで踊っているだけだったのか?
エイシェルの頭の中は疑問でいっぱいだった。どんどんと溢れ出る疑問で頭がいっぱいになり情報を整理出来ずにいる。そんな時、とあるオージンとの会話が頭に流れてきた。
『なぁエイシェル。12星座って知ってるか?』
『星座くらい知ってるよ。それがどうかしたの?』
『実は12星座といいつつも13個あるんだぜ?』
『はぁ?12個だから12星座じゃないのか?』
『12星座の定義があってだな…………』
夜の星空を見上げながらした他愛もない会話。一緒にいたのが女の子であればロマンチックなシーンに映るだろうが、現実はガチムチのオッサンとの会話だ。ロマンチックもくそもない。その時はなぜ唐突にそんな話をしたのだろうと思ったが気にも止めていなかった。
だが、今思えば何か意味があったのではないかと思ってしまう。勇者の魔法。12星座の名を冠する魔法。どうしても無関係とは思えなかった。
(……13個目の星座。もしかすると13個目の勇者の魔法があるのか……?)
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