ジェミニ 〜魂の契約者達〜

えいりす

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第五章 アンダーグラウンド

162.守護騎士

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 アイトネとサフが緊急依頼を出すと瞬く間に情報が広がり、気付けば公園には人で溢れていた。

「よくこんなに集まったわね…」
「おれもここまでとは思ってなかった……」

アリスとエイシェルが呆気に取られているとアイトネが集団を連れて現れた。

「やっと見つけました。いや、こんなに集まるなんてすごい人気ですね」
「人気も何も、イノシシ料理に集まったんですよね?」

 アイトネが人混みをかき分けてエイシェル達のもとにたどり着くや否やよくわからないことを言ってきた。エイシェルが不思議に思い話しかけると、横からとんでもない内容が返ってきた。

「いや、集まったみんな噂の天使様目当てに来てると思うぜ」
「は?」
「え?」

 横から入ったサフの説明に目を丸くするエイシェルとアリス。何をどうしたらそうなるんだと頭の中は疑問でいっぱいになる。そこにすかさずアイトネから爆弾が投入される。

「いや、すぐに人を集めたかったので何かインパクトのあるキャッチコピーはないかなと思ったんですよ。そこで募集のタイトルに"天使様の施し ~イノシシ肉料理食べ放題~"としたところ皆さんの食いつきがすごくて。料理人は無償でも是非参加したいといい、他の住人も行けばご利益がありそうとかで……驚くほど早く広まりましたね。ちなみに、後ろにいる皆さんが料理人です」

 アイトネが後ろを見るとそこには100人はいそうな集団が出来上がっていた。

「なんてこと……」
「あはは……ちょっとアリスの気持ちが分かったかも……」

 アリスは手で顔を覆い涙し、エイシェルは乾いた笑いが溢れる。ただでさえアリスはカスースの町で涙食姫と呼ばれて人気を博していた。それが今や天使様である。あれだけ目立っておいてなんだが、もともと目立つ事が苦手で逃げてきた経緯もあるためアリスにとって事態は深刻であった。

「見ろ!天使様が嬉しさのあまり泣いているぞ!」
「早く料理を作らなくては!」
「このご恩、ここで返さねばいつ返す!」

 料理人達の士気がぐんと上がる。本人達の気も知らないでぐんぐん上がる。
 その様子は涙食姫ファンクラブなんて可愛く見えるほどである。それはもはや神格化され崇拝の対象となりつつあるのだった。





「いやー、涙食姫の時から凄かったけど比じゃないねー」
「人のこと言ってられないでしょ?これどうなのよ?」

 少し離れたところで魔物の解体をしているフラムとフルーム。フルームが他人事の様に感想を述べるとフラムが他人事ではないと辺りを見回す。

「わっ!守護騎士様がこっち見た!」
「手を振って下さーい!」
「きゃー!ドラゴン退治見てました!」
「この魔物も倒したんですかー!?」

 辺りを見回しただけでこれである。ドラゴン討伐直後でもある程度似た状態だったが、一晩経っただけで反応が全然変わっていた。

「涙食姫とか言ってごめんなさい……」
「それ、アリスに直接言いなさいよ……」
「こっちもこっちで人気じゃないの?」

 フルームとフラムが遠い目をしていると後ろからディアが近付いてきた。ディアはドラゴン討伐の際にはいなかったので、誰にも絡まれず自由に行動できていた。
 一応関係者なので関係者以外立ち入り禁止としている魔物の山付近にも立ち入れる。その為自由に歩いていたところに守護騎士だの声が聞こえたので様子を見にきたのだ。

「いいんじゃない?守護騎士なんて二つ名カッコいいと思うけど?私なんて役職に就いてからは役職でしか呼ばれたことないわよ」
「役職に就くって……」
「あれって役職なんだ……」

 ディアがそう話すとフルームが呟く。魔王が役職と言われてフラムも含めてあまり納得がいかない様子だった。

「あら、こっちでも同じでしょ?国王陛下ってあれ名前じゃないし。単なる役職よ。人が変わっても国王の役職は無くならないでしょ?」
「言われてみれば」
「確かにそうね……」

 スッと腑に落ちる2人。言われてみれば当然の事である。人の王でも魔族の王でも仕組みは同じ。どちらも王という役職なのだ。
 そして、王であるがために名前で呼ばれることはなくなる。

「というか……」
「ディアって実はものすごく偉い人……?」
「いままでなんだと思ってたのよ」

 アリスと言い争いをしている印象が強く、ディアがそんなに偉い人という印象が無い2人はディアの話を聞いて魔王という存在を改めて認識し直した。

「んー、ちょっと耳の長いお姉さんかしら?」
「喋る箱じゃない?」

 認識し直したところで扱いは変わらない。むしろ肉体を得てからのこの短期間で2人のディアに対する評価はダダ下がっていた。

「……あの娘に言われるならまだしも、あなた達にそう言われるなんて思わなかったわ……」

 軽くショックを受けるディアだったが問答無用で2人が思っていたことを話す。

「そういえば、アイトネさんもサフさんもディアの耳を見てもなんとも思ってなかったわよね?」
「あ、それ私も気になってた!こんなに目立つのにここの人もみんな気にして無いみたい」

 ディアを除く4人がそわそわしていた件だ。魔族を知ってる人などこの時代にそうそういるわけがない。そう考えるがアイトネとサフはギルドの役職持ちである。もしかすると魔族とバレるのでは?魔族と分からずともヒト族と違う事を疑われるのでは?と内心ヒヤヒヤしていたのである。
 フラムとフルームの質問を受けてディアは「あぁ」と何も特別なことはしていないとばかりに説明を始めた。

「あれ、認識阻害の魔法よ」
「「認識阻害?」」
「そうそう。今回の場合、私の事を魔族ってわかってる人には効かないんだけど、分かってない人には耳があなた達と同じように認識されるわ。……正確には尖った耳を見ているはずなんだけど、それに気付かないって感じ。……昔はこれを使って威厳のある姿に見せかけてたっけ」

 遠い記憶を思い出すディア。魔王になってから常時この魔法を使っていた為、ディアの本当の姿を知るものはほとんどいない。この場合、ディア=魔王と分かっている必要があるが、みんな魔王は"魔王"という存在と認識している為、それが誰かなんて考えもしなかった。ただ、みんなが魔王は誰か?を考えなかったのは認識阻害の魔法のせいかもしれない。

「へぇ……そうなると、ディアがその認識阻害の魔法を使えば私達もディアのことが分からなくなるんじゃないの?」
「んー……あなた達は私の素の姿を知ってるから、例え私がいくら姿を変えようとしても効果は無いかもしれないわね。"私が姿を変えるかもしれない"って思った時点でたぶんアウト。そんなに万能じゃないのよ」
「……それって、逆に言えば私達に認識阻害の魔法があるって教えなかったら分からなくなってたって事だよね?なんで教えてくれたの?」

 フラムの質問に答えたディアにフルームが突っ込む。フルームの言う通り、認識阻害の事を知らなければ誰にも知られずに他の誰かになりすましたりも出来る。やろうと思えば他の誰かになりすまし罪を犯し、その誰かに罪をなすりつける事も出来てしまうだろう。ただ、それは認識阻害の魔法を誰も知らなければという条件がつく。知られた人から情報が拡散して効果がなくなる事など容易に考えられる。それでもディアは少しも躊躇うこともなく2人に話したのだ。
 何故自分の不利になるような事をしたのか疑問に思ったフルームは思わず理由を聞いてしまったのだ。

「うーん、そうね……。理由としてはいくつかあるけど……まずは私の弱点を知っている事。転魂箱が壊されたら正直どうなるか分からないからね。あの娘の中に戻るかもしれないし、パスが切れてこの身体で自由になるかもしれない。もしかすると箱が壊されたら私の魂自体も壊されて死んじゃうかもしれない。自由になる分にはいいけど他2つは論外
。そんなリスクを負ってる事をあなた達は知っている。なら守ってもらった方がいいじゃない?その為には私の事を知ってもらわないとね。ねぇ?守護騎士様?」
「その呼び方はちょっと……でも、私達がディアを守るとは限らないじゃない?」
「そう、私達が裏切るかもしれないし」

 ディアは自分を守ってもらう為と主張するがフラムとフルームが反論する。
 それを聞いてディアは一瞬きょとんとしたかと思うと当然笑いだしそれを否定した。

「あはは。ないない、だってあなた達すごいお人好しだもん。それに私って人を見る目はある方だと思ってるし。その……あなた達なら信頼できるって思ったから、だから話した。それだけよ」

 ディアは笑った後に真面目な顔をして理由を話した。真面目な顔ではあったが、その顔は柔らかく温かみを感じた。ディアの顔が少し赤くなっているのは照れてるからだろうか。フラムとフルームもそれなら何も言う事はないという表情を浮かべている。
 そこで終わればよかったものをディアが余計な一言を付け加える。

「……まぁ、それで今回もダメなら、それこそ次に復活した時にでも世界を滅ぼすわ」
「……いい話でまとまったと思ったのに物騒な事言わないでよ……」
「お姉ちゃん……世界の命運は私達にかかってるみたい……」

 冗談とは思えないトーンで話すディアにフラムとフルームは顔を引き攣らせるのだった。
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