虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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5 ~スイートモーメント~

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 きっと彼だ。
 教室のドアを開けると窓際一番奥に座る男子生徒に視線が吸い寄せられた。目が合った気がした。同時に彼の瞳が少し大きくなったように見え、まりあの心がトクンと跳ねる。
 理屈は分からないけどあの人に間違いない。彼も私を見て何かを感じたみたい。意識してくれてるのかな。そうだと、嬉しい。
「じゃあ川崎さんの席は窓側の一番奥。天崎君の隣よ」担任の先生がそう告げた。
「はい」と答えその場所へ向かう。
 天崎君。間違いなく彼が私の探していた人。何年も待ってようやくここまで来た。一歩近づく毎に心臓の鼓動が強くなっていく感覚を感じる。このドキドキが周りに聞こえてはいないだろうか。今自分はどんな顔をしているのだろう。頬を赤く染め、恋する乙女の表情になってはいないだろうか。…でも、それでも大丈夫。だって私はあなたと一緒になるためにここまで来たんだから。
 そう心の中で呟くと目の前に彼を捉えた。さっきと変わらず驚いたような表情のまま、まりあを見上げている。
「え、と…」
 来夢は目の前の美少女に対し何かを言おうと口を動かしてはいるものの肝心のワードが何一つ浮かんでこない。ただ目を見開いて口をパクパクくる動かすだけ。はたからみればかなり奇妙な動きに見えるだろう。だが、彼はこれ以上のことが何もできずにいた。それほどまでの魔力を彼女から感じている。
 ゼンマイの切れかかったブリキのようにギシギシと小刻みに動く来夢の姿を見て、少なくとも自分に対し意識しているという確信を持ったまりあ。その感覚が脳まで届き、心まで到達すると彼女の胸の鼓動は更に早くなった。彼に会う為に今までの彼女があって、彼といることでこれからの彼女の未来が生まれていく。これまでの日々と今この瞬間が運命の道として築かれているのならばきっと、カラフルで暖かい未来へと続いている筈。
 思わず笑顔が込み上げてくる。すかさず小さく深呼吸をし、クールダウンする。そして目の前の男の子に再度フォーカスを当てる。もう他のクラスメイトたちのことは考えない。たとえ、初日に変な女認定されようとも構わない。
 相変わらず彼は困惑したような表情でいる。ゆっくり息を吸うとこれまでの日々がフラッシュバックした。そしてすぐに現在と混じる。
 この瞬間の為に用意してきた言葉。伝えたかった思い。全てを込めた私の気持ちをようやく口にする事ができる。
 
 一ヶ月前まで私はこの学校から遠く離れた地方の病院にいた。ずっと昔に事故で命に関わる大怪我をして、手術の後、そこに引き取られたらしい。意識不明の状態が何年も続いて目が覚めた時、十五年の時が過ぎていた。ぼんやりしている私に泣きながら「よかった、よかった」と言っていたのは両親ではなかった。
 父も母もその事故で亡くなったそうだ。十年以上親代わりとして私の面倒を見てくれたのは、しがない占い師だった。詳しくは語ってくれなかったが、両親から私の世話を任されたらしい。
 その人は証拠として亡くなる寸前に録音した両親の肉声を聞かせてくれた。その中には私への愛と、共に生きられないことへの悲痛な想いも込められていた。メッセージの最後には遺言のようなものがあった。内容はこうだ。
「あなたには弟がいる。名前はライム。彼と一緒に幸せな人生を歩んでください」
 この言葉が無ければ私はリハビリに励むことなく人生も諦めていたと思う。
 ライム。私は毎日彼のことを思いながらいくつものリハビリに耐えてきた。衰えきった筋肉を戻すこともそうだけど、歩くという感覚も忘れていた為、より時間がかかった。勉強も0からスタートだった。それでも「私はお姉ちゃんなんだから、頑張らないと」と鼓舞し前へ進んだ。
 それからの約三年の中で顔も見た事のない彼への想いが徐々に大きくなっていくのを感じた。最初はこの感覚が理解できずにいた。少しして院内にいる歳の近い女の子に聞くと彼女は笑いながら言った。
「それ、恋だよ」と。
 その時ストンと気持ちに整理がついたような感じがした。胸の中のモヤモヤが消え去り、心に新しい風が流れんだ。
「そう、なんだ、私はライムくんのことが…」
 口にすれば途端に恥ずかしくなった。するとその女の子に指を指さされて。
「顔真っ赤だよー」と笑われた。

 あれから2年…。ようやくこの日が来た。
 苦しい過去を乗り越え、積み上げてきた想いを届ける。あの時抱いた感情の炎は変わらず強いエネルギーを発してまりあの中を駆け巡る。
 思いっきり叫びたい。この気持ちを溢れる激情のままぶつけたい。けど、それはダメ。だって私はお姉ちゃんなんだもん。
 頭を冷静モードに切り替え、優しく想いを紡ぐ。
「はじめまして、天崎来夢くん。実は私、あなたに会う為にここに来ました。私はあなたのことが…」
「好きだ」
 一瞬、突風が吹いたのかと思った。直後、教室内に静寂が訪れた。全クラスメイトや担任の三村先生がついさっきまでの来夢くんと同じ顔をしてこちらを見ている。私も皆んなと同じように動けなくなっていた。この数年間で立ててた計画なんてこの刹那で消えてしまった。なんで?どういうこと?好き?え?それは私の方なのに。来夢くんが私に…。これは、夢…?

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