虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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9 ~チープな駆け引き~

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 ピピピピピ……。
 思わず体がビクンと震える。手を伸ばし、音の主をこちらへ寄せる。右手でスイッチをオフにしため息を吐く。
「こんな日がくるとはな…」
 目覚まし時計より早く起きるなんて何年ぶりだろうか。昨日の思いに耽っている内にだいぶ時間が過ぎたようだがまだまだ余裕のある朝だ。
 この時間ならいつも通り支度をすればいつも通りの時間に出られる。昨日だけで人生が180°変わったような気もするが細部はやはり変わらずだ。朝の過ごし方もさして変わることはないだろう。
 時計を置きなおし布団から出る。すると携帯が光った。来夢の携帯が鳴ることはかなりのイレギュラーなことだ。少し驚いたような表情になりそれを手に取る。画面を開くと思わず顔がにやけていた。
「まりあ」
 彼女も早めに起きたそうだ。自分と共に生活ができることへの喜びでどうやら昨日からあまり眠れていないらしい。その純真な愛情が来夢の心を暖かくし、より彼女を愛おしくさせる。ひと呼吸して感情に浸る。そして一つ気がかりなことが…。彼女の体調だ。いくらクラスで穏やかに振る舞おうと寝不足が続くと心身に問題が生じる。そんな彼女を気遣い、メッセージを返す。
 返信はすぐにきた。心配はいらないとのことだ。がやはり…。と思っていたら次いで写真が送られてきた。
「っ!」
 思わず笑顔になっていた。送られてきた写真は、笑顔でピースサイン。そして。
「来夢くんの方こそ今日も私に会えるからってドキドキして寝られなかったんじゃない?」と。
 全く、この人はどこまでも僕を元気付けてくれる。その通りだ。まりあと過ごす学園生活が楽しみで仕方がない。キミに一秒でも早く会いたい。
 思い立つとそのまま文字を打っていた。送信し、祈るように目を閉じた。またしてもすぐに返信がくるかと思っていたが、中々こない。
朝の準備で手が離せないのだろか。それなら良いが、もし、もし引かれたりしてたら…。唐突な登校の誘い。昨日の今日で早過ぎたか?
 携帯を両手で掲げながら膝をつく。胸の中にジワッと汗をかいて心がキュッと縮むような感覚がした。こんなにもメンタルの弱い人間だったのだと引き攣った笑みを浮かべ立ち上がると。
 ジリリリリッ!!
 突然の着信に驚き携帯が少しの間宙を舞う。光と音を部屋中に響かせながら落ちてくる端末を両手を受け皿のようにして救助した。そのまま画面をみると発信者はやはりまりあ。胸の鼓動が感じ取れるほど強くなる。そっとボタンを押し、耳に当てる。
 ここは男から何か言った方がいいのか?いや掛けてきたのはまりあの方だ。ならまずは彼女からの言葉を待つべきなのか?しかし、もしさっきのメッセージに気分を害され、俺からの謝罪を求めていたのであれば、その沈黙は即ち死に直結する筈…!
「お、おはよう」
迷いに迷って出てきたものは、ありふれた朝の挨拶だった。それに対するまりあの反応は。
「お、おはよう」
 思わずフッと笑っていた。声質は違えど声色もテンポもモノマネしたかの如く全くの同じ。突然吹き出したことに対しまりあが少しむくれた感じで詰る。だがそれもまた愛おしく感じてしまい、また笑ってしまう。
「な、何がそんなにおかしいの?」
 電話越しでもどんな表情か分かる。そんな彼女の反応が可愛いすぎて来夢もにやけてしまう。なんでもないよ。とだけ伝えて話を本題へ戻す。学園生活始まって以来の大イベント。彼女と登校。それが今日叶うのか、そうでないのか。全ては彼女の答え次第。左耳に全神経を集中させる。
 まだ来ない。まだ来ない。沈黙が続く。諦めようと息を吸った瞬間、その時は訪れた。
「はい」
 左耳から全身へ一気に熱が走った。OKだ!右手をギュッと握りしめ喜びを噛み締める。
 それから待ち合わせ場所と時間。決め、電話を切った。切った瞬間から来夢は動き出した。向かう先は朝には基本行かない場所。
「シャワー浴びてかなきゃ!」
 いつもより早く起きた筈なのに最終的にはドタバタで家を出ていた。鍵を掛けると小走りで向かう。まだ時間はあるのだが、気持ちがそうさせるのだ。
 昨日と変わらない道だが今日はイルミネーションでも付けられたかのように華やかな世界に見えてくる。彼女がくれた彩り。
 すぐに行くから待っていてね。
 無意識のうちに心の中で何度も呟いていた。



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