虚ろな光と揺るがぬ輝き

新宮シロ

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27 ~手の内~

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 鉄と血の匂いがする。
 闘技場のゲートをくぐり、選手の待機場に着いたとき、それはより強く鼻腔を通過する。無機質な長方形のスペースには長椅子と長テーブルが3セットずつ置いてある。一番奥に腰を下ろし左手を見る。先日寄った武器屋を思い出させる鉄の扉の向こうにはこの匂いがより濃く染み付いていることだろう。
 じわりと口内が粘ついた。この数日間マリナと模擬戦はしてきたが本気の対人戦はこれが初だ。周囲に目をやると同じような面持ちでいる者も多い、この感覚は俺だけではないんだなと少し安堵する。
 殆どの挑戦者達は得物をしまっているが一部、威圧のつもりかそれを晒して素振りをしている者もいる。
 そういった連中の存在もマリナから聞いている。騎士団時代、彼女もこの闘技場に何度も足を運び己を鍛え続けてきた。そんな先輩からの情報によるとその手のやつに強者はいないとのこと。せいぜい中の下の実力しかない。
 確かにデカい図体とその両手に握られた武器を見ても恐怖を感じない。これぞまさしく見掛け倒しだなと一つため息を吐いてから自身に集中する。
 結果として、マリナとの特訓の末に俺自身の解放、つまりソウルオブオリジンを身につけることはできなかった。彼女の剣撃を防ぎ、ただ剣を振ることしかできなかったがその腕は一端の剣士に引けをとらない程になった。とマリナが言っていた。実際比較対象がいない為その言葉を信じるしかないが、決して荒唐無稽と無視することはできない。そもそも稽古相手は元騎士団の隊長クラス。その剣技に対応しうる俺はそれに劣らぬ実力となっていることだろう。ただそれまでに何度か炭になりかけたが…。
 それに比べればここにいる剣士達との戦いはヌルいだろう。恐らく唯一、彼女の剣を上回る可能性があるのはバッディーラだ。十中八九やつの巨体から放たれる技はゴリゴリのパワー系だと思うが断定してはいけない。そこで気になったことが。
「やつの武器はなんだろう」
 あの体躯でスピード系の短剣使いではあるまいが大剣を振るうならば受け切れるか…。
 脳内シミュレーションをしていると入り口の扉が開かれた大会のスタッフであろう人が入ってきた。
「まもなく第一試合を開始します。最初の挑戦者はこちらへ」
 彼の言葉に壁際にいた細身の男と先程まで武器を晒していた男が戦場への扉まで進んだ。
 その名の通りこの闘技場大会はトーナメント制で勝ち残った一人が騎士団の幹部クラスと剣を交えることが許される。多くの者は実力試しや騎士団への志願材料として参加する。
 レフェリーも務めるスタッフと先の男二人が歓声と共に扉の向こうへ消えていく。
 少しの静寂の後、再び大きな歓声が響き渡り、鼓膜を裂かんばかりの金属音が轟いた。
 それから数分後、鉄の音が止んだ。扉が開かれ現れたのは壁際にいた細身の男だ。肩や頬に若干の出血はあるが息はきらしていない様子から無難な勝利だったのだろう。
「次の方、こちらへ」
 レフェリーが告げた。さあ次は俺の番だ。同時に立ち上がったのは小柄な男だった。スタッフを先頭にバトルフィールドの土を踏む。すると脳を揺さぶるほどの歓声が辺りを埋め尽くした。なるほど、これは…。
 ゴクリと唾を飲み拳を握る。正面に対峙する彼は冷静な面持ちでいる。場慣れしてるってことか。
「いいぜ、そうこなくっちゃ」
 俺だけに聞こえる声で鼓舞するとレフェリーが叫ぶ。
「第二試合、開始!!」
 その声に呼応するように俺も相手も腕を広げ、叫んだ。
「ベイルザジェイル!」
 互いの手の内が今明らかになった。
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