至宝のオメガ

みこと

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「っ!……」

フレデリックは思わず息を呑んだ。ゆっくり上がったその顔は涙で濡れていた。
小さな顔の中に涙で揺らめく黒曜石のような瞳。白い陶器のような肌、つるバラ色の頬と唇。カタカタと震えるその様は怯えた子鹿のようだった。

「…………もういい。」

何故が急速に怒気が萎んだ。
抜いた剣を鞘に収め、元いたアーネストの隣に戻った。

「も、申し訳、あ、ありません…。」

ルイーズが再度床に擦り付けるように頭を下げた。隣の従者も同じように振る舞う。

アーネストがチラリとフレデリックを見るがルイーズの方を見ていない。意図的に目を逸らしているようだ。

「フレデリック、どうする?」

急に怒気が消えた弟を不審に思いながら小声で聞いた。

「え?あぁ。そ、そうだな。少し考えよう。」

小さな声でアーネストに答えた。何故か動揺している。

「どうしたんだ?フレデリック。」

「い、いや、何でもない。その者たちを下がらせろ。」

その後すぐにフレデリックは動揺を隠すかのようにルイーズたちの側に立っていた兵士に毅然と告げた。
兵士たちは部屋に連れて来た時と同様に両脇を抱えて立ち上がらせ二人を連れて出て行った。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



フレデリックは自室に戻り考えていた。
さっきのあれは何だったんだ…。
殺したいほど腹が立っていたはずだ。サリエルの王子の返答によっては腕か足を切り落としてやろうとまで思っていた。ところがあのルイーズの顔を見た途端、動揺してしまった。怒りも消えるほどに。

アーネストには処遇は後で考える、と伝えて謁見の間を出できた。
何故こんなに動揺しているのか分からない。どうしたのだろう。
ルイーズにもう一度会ってみるかと思い立った。

「おい、あのサリエルの王子の部屋はどこだ?」

部屋を出て入り口に立っていた護衛に尋ねた。


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「クソっ!」

フレデリックは城の廊下を足速に歩いていた。
確かに自分が地下牢にぶち込んでおけと言ったのだが…。まさか本当にそうするとは。

「サリエルの王子はどこだ?」

地下牢の入り口の看守に声をかけた。

「は、ご案内します。」

フレデリックがこんな所に来たことに驚いているようだ。飛び上がって返事をした。
重い木の扉を開け階段を降りる。
看守が四人テーブルを囲んで座っていた。フレデリックを見ると入り口の看守と同じように飛び上がって立ち最敬礼する。そこを通りすぎるといくつかの牢獄があり、さらにその奥に六つの独房がある。
看守の後をついて行くと啜り泣く声が聞こえた。
中は薄暗くカビ臭い。そして冬の朝のように冷たい空気だった。

「ルイーズ様…うぅ、うぅ、ルイーズ様。」

奥から二番目の独房に王子の従者がいた。鉄格子にしがみつき泣いている。フレデリックの顔を見ると驚いて口を閉ざし平伏した。
一番奥の独房にルイーズはいた。入り口に背を向けて横になっている。

「おい、ルイーズと言ったな、おい、返事をしろ。」

声をかけるが返事がない。その時隣の独房から声が聞こえた。

「フレデリック殿下、畏れながら申し上げます。ルイーズ様は体調を崩しておいでで、その…返事ができないのだと思います。」

体調を崩しているだと?返事のないルイーズを見つめた。
小さな背中はピクリとも動かない。
ハッとして看守に鍵を開けさせた。
中に入りルイーズの肩に手を置き声をかけた。やはり返事がない。息はあるようだ。寧ろその息は荒かった。

横抱きにして独房を出る。息が荒く身体が熱い。小さい身体は驚くほど軽かった。

「従者、ルイーズは病気なのか?」

隣の独房の前に立ち尋ねた。

「いえ、あの、旅の途中で体調を崩されまして。いつも飲まれる薬は持参しております。」

何か持病でもあるのか?このままここに置いておく訳にはいかない。

「その常備薬は?」

「私が持っております。」

「じゃあおまえも来い。」

看守に隣の鍵を開けさせて一緒に地下牢を出た。
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