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「僕は…どうなったんですか?」
「思い出したか?」
「はい。城に爆薬が仕掛けられて、それで逃げようとして…。」
ルイーズが震えている。フレデリックは優しく抱きしめて背中を撫でた。
「襲われて私を庇ったんだ…。」
苦しそうにフレデリックが言った。
「それで、その怪我のせいで…。医者にももうダメだと…。」
「でも元気です。どこも痛くない。」
ルイーズは自分の体を触って確かめている。
「確かに斬られたはずです。どうして…。」
驚いてフレデリックを見た。全てを思い出したようだ。
「話せば長くなるんだが、ラウラ殿にお願いしたんだ。」
「え?ラウラに?」
フレデリックは頷き今まであったことを話した。ネクロポリス山に登ったと言うとルイーズとイアンは怯えたように身体を震わせた。
「フィルは無事なのですね?何故?オーブリーはフィルに何もしなかったんですか?」
「オーブリー?知っているのか?」
「はい。会ったことはありませんが。願いを叶える代わりに魂を喰らうと…。」
「え?」
フレデリックは瞠目した。あの子どものようなオーブリーが?魂を喰らう?
「そうか、そういうことか。『代わり』の意味がやっと分かった。」
「『代わり』ですか?」
「そうだ。ラウラ殿が『代わり』と言って緑色の石をオーブリーに渡すようにと言って…」
「ええ!緑の石?小さな楕円の石?中はキラキラの光の粒で埋まっている石ですか⁉︎」
「ああ。」
ルイーズはその石の事も知っているようだ。ものすごく驚いている。
「それはラウラの『春』ですよ!あの石がないとラウラは春を呼ぶことが出来ない。大事な石なんです。」
『ラウラの春』
オーブリーもそんなことを言っていた。あの石で春を呼ぶ。あの石がなければ春は訪れず、ずっと寒い冬のままということなのか。
「そんな大事なものだったのか。でもオーブリーは返してくれたんだ。『ラウラの春が好き』と言っていた。だから石はラウラに返した。」
「そうですか。良かった…。え!でも、オーブリーに魂は取られなかった。他に『代わり』が?」
「たぶんそれは林檎だ。林檎を二つあげたんだ。」
「林檎…二つ…」
ルイーズは目を丸くしている。魂を食われる代わりが林檎二個だからだろう。
「ルイーズ、私は何も知らずに生きていたということを実感した。知ろうともせず生きてきたんだ。ルイーズはラウラのことも、オーブリーも、緑の石のことも皆知っていたんだな。この世界には私の知らないことの方が多いだろう。私はもっと世界について学ばなければならない。ルイーズ、私にいろいろ教えてくれないか?」
「フィル…。僕もですよ。僕だって何も知りません。だからもっと知りたいのです。二人でたくさん知っていきましょう。」
「ああ。」
二人は微笑み合った。
「では殿下。私から一つ。春はラウラの春が一番綺麗です。ね、ルイーズ様。」
二人を見守っていたイアンが得意げに言った。
「うん!」
「そうか。『ラウラの春』か。他にも春はあるのか?」
「もちろんです、殿下。ピートの春、リーガルの春、リーガルはいつも寝坊するので春が来るのが遅くなります。それからキラの春。キラは面倒くさがりなので春が短いです。」
「僕はどの春も好きだけどラウラの春は美しいんだ。来年はラウラの春ですよ。」
楽しそうに春の話をする二人を見る。
季節は勝手に変わるものだと思っていたが違うようだ。
知らなけれならないことはたくさんありそうだとフレデリックは改めて思った。
「フレデリック、良かったな。」
見舞いに来たアーネストがすっかり元気になったルイーズを見てほっとしている。
「はい、兄上。で、首謀者は?」
「おそらくバドレーだ。しかも公爵ではなくメリンダだ。」
「メリンダが?」
「後で軍事会議を行う。ルイーズはどうする?連れて行くか?おまえの好きにしていい。」
フレデリックはチラリとルイーズを見た。もちろんそばに置いておく方が安心だ。しかし会議ではルイーズの聴きたくないような話も聞かせてしまう。
「フィル、僕も行きます。」
「良いのか?」
「はい。知らないと、ですよね?」
「ああ、そうだな。分かった。兄上、軍事会議にはルイーズも一緒に。」
アーネストが頷く。
するとまた例のバタバタ走る大きな足音がしたと思ったら扉が勢いよく開いた。
「ルイーズ!良かった!」
ジョシュアがルイーズに飛び付いた。ぎゅうぎゅう抱きしめて頬擦りしている。
「良かった、ルイーズ様…。」
「本当に良かった。」
後から入ってきたアレクセイとファビオラも涙を浮かべていた。
「フレデリック、ラウラ殿に会えたんだな。」
「はい。兄上。私は今までバートレットが世界の中心でした。バートレット以上のもはないと思っていたんです。しかしそれは違った。世界は広く果てしない。我々の想像もできない世界があるということが分かりました。我々はそれを知らなければならない…。」
「フレデリック…。」
アーネストは少し痩せて精悍になった弟を見つめる。フレデリックはルイーズを助けるために何を知り、見てきたのだろうか。アーネストもそれを知りたい、知らなければならないと思った。
「そんな話をしていた者がいた。」
「「え?」」
アレクセイが二人の息子を見つめて言った。
「私の学生時代の恩師だ。もう亡くなってしまったが、いろいろな世界について調べていたようだ。今のおまえのようなことを言っていた。『世界は広く果てしない。それを知らなけれはならない』と。ジョシュアが毒で倒れた時、その恩師の話を思い出したんだ。『東の国、異世界を通じる門あり。それを守る魔女、魔術師、傷を癒し、生命を操る』だったと思う。それで東の大陸へ赴いたんだ。」
二人とも初耳だった。東の魔術師に会いに行くと言ってはいたが。そんな話があったとは…。
「まあ、結局がまがい者だったがな。」
「父上、それは誰に聞いたんです?」
「レオーニだ。レオーニ・トゥレスト。」
「思い出したか?」
「はい。城に爆薬が仕掛けられて、それで逃げようとして…。」
ルイーズが震えている。フレデリックは優しく抱きしめて背中を撫でた。
「襲われて私を庇ったんだ…。」
苦しそうにフレデリックが言った。
「それで、その怪我のせいで…。医者にももうダメだと…。」
「でも元気です。どこも痛くない。」
ルイーズは自分の体を触って確かめている。
「確かに斬られたはずです。どうして…。」
驚いてフレデリックを見た。全てを思い出したようだ。
「話せば長くなるんだが、ラウラ殿にお願いしたんだ。」
「え?ラウラに?」
フレデリックは頷き今まであったことを話した。ネクロポリス山に登ったと言うとルイーズとイアンは怯えたように身体を震わせた。
「フィルは無事なのですね?何故?オーブリーはフィルに何もしなかったんですか?」
「オーブリー?知っているのか?」
「はい。会ったことはありませんが。願いを叶える代わりに魂を喰らうと…。」
「え?」
フレデリックは瞠目した。あの子どものようなオーブリーが?魂を喰らう?
「そうか、そういうことか。『代わり』の意味がやっと分かった。」
「『代わり』ですか?」
「そうだ。ラウラ殿が『代わり』と言って緑色の石をオーブリーに渡すようにと言って…」
「ええ!緑の石?小さな楕円の石?中はキラキラの光の粒で埋まっている石ですか⁉︎」
「ああ。」
ルイーズはその石の事も知っているようだ。ものすごく驚いている。
「それはラウラの『春』ですよ!あの石がないとラウラは春を呼ぶことが出来ない。大事な石なんです。」
『ラウラの春』
オーブリーもそんなことを言っていた。あの石で春を呼ぶ。あの石がなければ春は訪れず、ずっと寒い冬のままということなのか。
「そんな大事なものだったのか。でもオーブリーは返してくれたんだ。『ラウラの春が好き』と言っていた。だから石はラウラに返した。」
「そうですか。良かった…。え!でも、オーブリーに魂は取られなかった。他に『代わり』が?」
「たぶんそれは林檎だ。林檎を二つあげたんだ。」
「林檎…二つ…」
ルイーズは目を丸くしている。魂を食われる代わりが林檎二個だからだろう。
「ルイーズ、私は何も知らずに生きていたということを実感した。知ろうともせず生きてきたんだ。ルイーズはラウラのことも、オーブリーも、緑の石のことも皆知っていたんだな。この世界には私の知らないことの方が多いだろう。私はもっと世界について学ばなければならない。ルイーズ、私にいろいろ教えてくれないか?」
「フィル…。僕もですよ。僕だって何も知りません。だからもっと知りたいのです。二人でたくさん知っていきましょう。」
「ああ。」
二人は微笑み合った。
「では殿下。私から一つ。春はラウラの春が一番綺麗です。ね、ルイーズ様。」
二人を見守っていたイアンが得意げに言った。
「うん!」
「そうか。『ラウラの春』か。他にも春はあるのか?」
「もちろんです、殿下。ピートの春、リーガルの春、リーガルはいつも寝坊するので春が来るのが遅くなります。それからキラの春。キラは面倒くさがりなので春が短いです。」
「僕はどの春も好きだけどラウラの春は美しいんだ。来年はラウラの春ですよ。」
楽しそうに春の話をする二人を見る。
季節は勝手に変わるものだと思っていたが違うようだ。
知らなけれならないことはたくさんありそうだとフレデリックは改めて思った。
「フレデリック、良かったな。」
見舞いに来たアーネストがすっかり元気になったルイーズを見てほっとしている。
「はい、兄上。で、首謀者は?」
「おそらくバドレーだ。しかも公爵ではなくメリンダだ。」
「メリンダが?」
「後で軍事会議を行う。ルイーズはどうする?連れて行くか?おまえの好きにしていい。」
フレデリックはチラリとルイーズを見た。もちろんそばに置いておく方が安心だ。しかし会議ではルイーズの聴きたくないような話も聞かせてしまう。
「フィル、僕も行きます。」
「良いのか?」
「はい。知らないと、ですよね?」
「ああ、そうだな。分かった。兄上、軍事会議にはルイーズも一緒に。」
アーネストが頷く。
するとまた例のバタバタ走る大きな足音がしたと思ったら扉が勢いよく開いた。
「ルイーズ!良かった!」
ジョシュアがルイーズに飛び付いた。ぎゅうぎゅう抱きしめて頬擦りしている。
「良かった、ルイーズ様…。」
「本当に良かった。」
後から入ってきたアレクセイとファビオラも涙を浮かべていた。
「フレデリック、ラウラ殿に会えたんだな。」
「はい。兄上。私は今までバートレットが世界の中心でした。バートレット以上のもはないと思っていたんです。しかしそれは違った。世界は広く果てしない。我々の想像もできない世界があるということが分かりました。我々はそれを知らなければならない…。」
「フレデリック…。」
アーネストは少し痩せて精悍になった弟を見つめる。フレデリックはルイーズを助けるために何を知り、見てきたのだろうか。アーネストもそれを知りたい、知らなければならないと思った。
「そんな話をしていた者がいた。」
「「え?」」
アレクセイが二人の息子を見つめて言った。
「私の学生時代の恩師だ。もう亡くなってしまったが、いろいろな世界について調べていたようだ。今のおまえのようなことを言っていた。『世界は広く果てしない。それを知らなけれはならない』と。ジョシュアが毒で倒れた時、その恩師の話を思い出したんだ。『東の国、異世界を通じる門あり。それを守る魔女、魔術師、傷を癒し、生命を操る』だったと思う。それで東の大陸へ赴いたんだ。」
二人とも初耳だった。東の魔術師に会いに行くと言ってはいたが。そんな話があったとは…。
「まあ、結局がまがい者だったがな。」
「父上、それは誰に聞いたんです?」
「レオーニだ。レオーニ・トゥレスト。」
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