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「はぁ…。」
「樹里、そんなに緊張するな。お腹に悪いだろ。」
「だって…。」
「うわーっ!これおうち?すごい!」
樹貴は無邪気にはしゃいでる。今日は慎一郎のご両親に会う日だ。二人ともアルファで僕はあまり歓迎されていない。
高級旅館のような家だ。大きな門を開けて中に入る。途中、日本庭園鮮やかな錦鯉が泳ぐ池を横目に玄関まで歩く。
「鯉だ!いっぱいいる!」
興奮する樹貴は池の所まで行こうとして慎一郎に止められている。
「樹貴、危ないぞ。鯉は子どもくらいなら食べてしまうからな。」
「え?本当に?」
樹貴が驚いて慎一郎に飛びついた。
門扉から玄関まで長い…。
やっと玄関に着くとガラリと扉が開いた。
「慎一郎様、おかえりなさいませ。」
「ああ。」
六十代くらいの女性が出迎えた。
お手伝いさんだろうか。僕の顔を見てにこりと微笑む。
優しそうな人だ。
その女性は樹貴を見るとぎょっとした顔をする。
「慎一郎様、こ、この方は?」
「俺の息子で名前は樹貴だ。」
「まあ、そうですか。」
そう言って何故か涙ぐんだ。
僕たちはスリッパを出されて中に入り、大きな和室で待たされた。
「鯉が見えるね。」
樹貴は緊張しているのかそわそわしている。
「樹貴、落ち着いて座って。」
「うん。」
引き戸が開いて男性一人と着物を着た女性二人が入ってきた。
男性の方は慎一郎そっくりだ。慎一郎が歳を取ったらこうなるんだろう。
「あ、あの初めまして…。」
「君が慎一郎の番いか?」
僕の言葉を遮るように男の人が話し出した。
「そうだ。俺の番いの樹里と俺の息子の樹貴だ。」
女性二人は目を丸くして樹貴を見ている。
「ちょっと、あなた…。」
若い方の女性が男性にひそひそと耳打ちしている。
なんて言ってるんだろう。こんなオメガとか言ってるんだろうか。僕は緊張して震えてきた。
そのとき、そっと慎一郎が僕の手を握ってきた。
顔を見ると優しく微笑んでいる。その顔に、その手の温かさに緊張がほぐれていくのが分かった。
「樹里、俺の親父とお袋と祖母だ。」
「はじめまして。母の椿です。」
「祖母の美智子です。」
「樹里です。息子の樹貴です。」
そう言って頭を下げる。
「樹貴です。四歳です。青空保育園のさくら組です!」
隣に座っていた樹貴が急に立ち上がって自己紹介を始めた。僕たち大人は驚いて固まっている。
「うふふ。そう、樹貴くんて言うの。あなたのおばあちゃんよ。」
「はい!おばあちゃん!あれ?おばあちゃんはもう居るよ?」
不思議な顔をして僕を見た。たぶん僕の母のことだろう。
「樹貴、このおばあちゃんとおじいちゃんもおまえのおばあちゃんとおじいちゃんだ。みんな二人ずついるんだよ。さらには大きいおばあちゃんまでいる。」
慎一郎が頭を撫でながら樹貴に教えている。
「樹里さん、慎一郎から話は聞いてます。一人で大変でしたね。」
「あ、いいえ…。」
慎一郎のお母さんがにこりと微笑む。
「実はその、本当はあなたのこと疑っていたんです。」
「え?」
「母さん、どういうことだ。」
お母さんとおばあさんが困ったように顔を見合わせた。
「ほら、和久おじさんのことがあったでしょう?だから、ねぇ…。」
「そんなことを思ってたのか!樹貴は俺の子だし、樹里とあの女を一緒にするな!」
慎一郎は顔を真っ赤して怒っているけど、僕には訳が分からない。
「慎一郎、どうしたの?」
困ったような怒ったような顔をして慎一郎が僕を見る。
「実はな…。」
慎一郎の話は衝撃的だった。
叔父の和久さんという人が別れた恋人に子どもが出来たと言われてよりを戻したが、本当は違う男の子どもがだったという話だった。
そのオメガの女は何人ものアルファと関係を持っていて妊娠した時、一番条件の良かった叔父の和久さんにあなたの子どもだと言って結婚を迫ったのだ。
産まれてきた子どもが全く和久さんに似ておらず、結婚してからも違うアルファと会っていたことを知った壬生家が興信所を雇いその女の不貞を突き止めた。
DNA鑑定で和久さんとその子どもの親子関係は認められなかった。二人は揉めに揉めて離婚した。
壬生家にはこういった事がたまに起こるらしい。
お金目当てのオメガや女が近づいてくるのだ。
「僕はそんな…。」
僕もそう思われているんだ…。
「樹里がそんな事する訳ない。樹貴は俺の子だ。もちろんお腹の子どもだ。」
慎一郎がキッパリと言った。
「ええ、そうね。樹里さん、ごめんなさいね。嫌な思いさせて。」
「本当にごめんなさい。」
お母さんとおばあさんが頭を下げた。
え?何で疑いが晴れたの?
僕がぽかんとしているとお母さんがそばに控えていたお手伝いの女性を呼んだ。その人の耳元で何か話している。
「承知しました。奥様。」
数分してその女性が持ってきたのはアルバムだった。
お母さんが僕に中を見せてくれる。
「え?樹貴?」
「僕?」
そこに収められている子どもの頃の慎一郎は樹貴と瓜二つだった。
「さっき初めて見たとき慎一郎かと思ったわ。ねぇ、雅代。」
「ええ、奥様。私もびっくりして。子どもの頃の慎一郎様にそっくり。声まで一緒ですもの。」
「本当。こんなに似るもんかねぇ。」
お母さんとおばあさんがと雅代と呼ばれたお手伝いさんは写真と樹貴を見比べている。
だからみんな樹貴の顔を見て驚いてたんだ。
「とにかく樹貴は俺の子で、樹里は俺の番いだ。腹の子が産まれたら結婚式を挙げる。これは決定事項だから。」
アルバムを見ながら盛り上がっている女性陣を黙らせるように慎一郎が宣言した。
お義父さんはやや不満げだが女性陣に逆らえないようで僕たちの結婚は許された。
「樹貴くん、また遊びにいらっしゃい。」
「うん。おばあちゃん。またね。」
慎一郎が僕を休ませたいと言って食事の誘いを断って壬生家を出た。
「樹里、そんなに緊張するな。お腹に悪いだろ。」
「だって…。」
「うわーっ!これおうち?すごい!」
樹貴は無邪気にはしゃいでる。今日は慎一郎のご両親に会う日だ。二人ともアルファで僕はあまり歓迎されていない。
高級旅館のような家だ。大きな門を開けて中に入る。途中、日本庭園鮮やかな錦鯉が泳ぐ池を横目に玄関まで歩く。
「鯉だ!いっぱいいる!」
興奮する樹貴は池の所まで行こうとして慎一郎に止められている。
「樹貴、危ないぞ。鯉は子どもくらいなら食べてしまうからな。」
「え?本当に?」
樹貴が驚いて慎一郎に飛びついた。
門扉から玄関まで長い…。
やっと玄関に着くとガラリと扉が開いた。
「慎一郎様、おかえりなさいませ。」
「ああ。」
六十代くらいの女性が出迎えた。
お手伝いさんだろうか。僕の顔を見てにこりと微笑む。
優しそうな人だ。
その女性は樹貴を見るとぎょっとした顔をする。
「慎一郎様、こ、この方は?」
「俺の息子で名前は樹貴だ。」
「まあ、そうですか。」
そう言って何故か涙ぐんだ。
僕たちはスリッパを出されて中に入り、大きな和室で待たされた。
「鯉が見えるね。」
樹貴は緊張しているのかそわそわしている。
「樹貴、落ち着いて座って。」
「うん。」
引き戸が開いて男性一人と着物を着た女性二人が入ってきた。
男性の方は慎一郎そっくりだ。慎一郎が歳を取ったらこうなるんだろう。
「あ、あの初めまして…。」
「君が慎一郎の番いか?」
僕の言葉を遮るように男の人が話し出した。
「そうだ。俺の番いの樹里と俺の息子の樹貴だ。」
女性二人は目を丸くして樹貴を見ている。
「ちょっと、あなた…。」
若い方の女性が男性にひそひそと耳打ちしている。
なんて言ってるんだろう。こんなオメガとか言ってるんだろうか。僕は緊張して震えてきた。
そのとき、そっと慎一郎が僕の手を握ってきた。
顔を見ると優しく微笑んでいる。その顔に、その手の温かさに緊張がほぐれていくのが分かった。
「樹里、俺の親父とお袋と祖母だ。」
「はじめまして。母の椿です。」
「祖母の美智子です。」
「樹里です。息子の樹貴です。」
そう言って頭を下げる。
「樹貴です。四歳です。青空保育園のさくら組です!」
隣に座っていた樹貴が急に立ち上がって自己紹介を始めた。僕たち大人は驚いて固まっている。
「うふふ。そう、樹貴くんて言うの。あなたのおばあちゃんよ。」
「はい!おばあちゃん!あれ?おばあちゃんはもう居るよ?」
不思議な顔をして僕を見た。たぶん僕の母のことだろう。
「樹貴、このおばあちゃんとおじいちゃんもおまえのおばあちゃんとおじいちゃんだ。みんな二人ずついるんだよ。さらには大きいおばあちゃんまでいる。」
慎一郎が頭を撫でながら樹貴に教えている。
「樹里さん、慎一郎から話は聞いてます。一人で大変でしたね。」
「あ、いいえ…。」
慎一郎のお母さんがにこりと微笑む。
「実はその、本当はあなたのこと疑っていたんです。」
「え?」
「母さん、どういうことだ。」
お母さんとおばあさんが困ったように顔を見合わせた。
「ほら、和久おじさんのことがあったでしょう?だから、ねぇ…。」
「そんなことを思ってたのか!樹貴は俺の子だし、樹里とあの女を一緒にするな!」
慎一郎は顔を真っ赤して怒っているけど、僕には訳が分からない。
「慎一郎、どうしたの?」
困ったような怒ったような顔をして慎一郎が僕を見る。
「実はな…。」
慎一郎の話は衝撃的だった。
叔父の和久さんという人が別れた恋人に子どもが出来たと言われてよりを戻したが、本当は違う男の子どもがだったという話だった。
そのオメガの女は何人ものアルファと関係を持っていて妊娠した時、一番条件の良かった叔父の和久さんにあなたの子どもだと言って結婚を迫ったのだ。
産まれてきた子どもが全く和久さんに似ておらず、結婚してからも違うアルファと会っていたことを知った壬生家が興信所を雇いその女の不貞を突き止めた。
DNA鑑定で和久さんとその子どもの親子関係は認められなかった。二人は揉めに揉めて離婚した。
壬生家にはこういった事がたまに起こるらしい。
お金目当てのオメガや女が近づいてくるのだ。
「僕はそんな…。」
僕もそう思われているんだ…。
「樹里がそんな事する訳ない。樹貴は俺の子だ。もちろんお腹の子どもだ。」
慎一郎がキッパリと言った。
「ええ、そうね。樹里さん、ごめんなさいね。嫌な思いさせて。」
「本当にごめんなさい。」
お母さんとおばあさんが頭を下げた。
え?何で疑いが晴れたの?
僕がぽかんとしているとお母さんがそばに控えていたお手伝いの女性を呼んだ。その人の耳元で何か話している。
「承知しました。奥様。」
数分してその女性が持ってきたのはアルバムだった。
お母さんが僕に中を見せてくれる。
「え?樹貴?」
「僕?」
そこに収められている子どもの頃の慎一郎は樹貴と瓜二つだった。
「さっき初めて見たとき慎一郎かと思ったわ。ねぇ、雅代。」
「ええ、奥様。私もびっくりして。子どもの頃の慎一郎様にそっくり。声まで一緒ですもの。」
「本当。こんなに似るもんかねぇ。」
お母さんとおばあさんがと雅代と呼ばれたお手伝いさんは写真と樹貴を見比べている。
だからみんな樹貴の顔を見て驚いてたんだ。
「とにかく樹貴は俺の子で、樹里は俺の番いだ。腹の子が産まれたら結婚式を挙げる。これは決定事項だから。」
アルバムを見ながら盛り上がっている女性陣を黙らせるように慎一郎が宣言した。
お義父さんはやや不満げだが女性陣に逆らえないようで僕たちの結婚は許された。
「樹貴くん、また遊びにいらっしゃい。」
「うん。おばあちゃん。またね。」
慎一郎が僕を休ませたいと言って食事の誘いを断って壬生家を出た。
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