オメガの香り

みこと

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「樹里、身体は平気か?少しシートを倒そう。」

「大丈夫だよ。それより学校どうだった?久しぶりでしょ。」

「ん?まぁな。あとは卒業するだけだ。こんな時期だから卒業式もなさそうだ、」

「そっか。」

ゆっくり車が動き出した。

「あのさ、慎一郎。」

「うん?何だ?」

僕は家を建てることを知ったときからずっと思っていたことを聞いてみた。

「マイホームはすごく嬉しいんだけど、お金はどうするの?」

「ああ、それか。心配するな。」

チラリと僕を見て微笑んだ。

「いや、心配するよ。だってすごい家だったよね。場所だって高級住宅地だよ。」

「そうだな。でも大丈夫だ。俺は金は腐るほどあるんだ。」

「え…。」

確かに慎一郎の実家はお金持ちだけど、オメガとの結婚はあまり歓迎されていない。
慎一郎はほとんど家に居てパソコンで仕事をしているみたいだけどそんなに儲かるのかな。

「俺の年収、教えてやろうか?」

「年収?」

「ああ。去年は三億だ。今年はもっと上がると思う。年商じゃないからな。」

「……。」

「樹里?聞いてるか?」

「うん。びっくりした。」

「だからおまえが心配することは何もない。」

「…分かった。」

想像以上の額にびっくりだ。
慎一郎は上機嫌で、鼻歌を歌っている。

「そうだ、指輪どうする?樹里は希望はあるか?欲しいブランドとかあるか?」

「うーん、特にないけど…。」

「大学の友達から良いところを紹介されたんだけど、そこに行ってみないか?」

「どういうお店?」

「オーダーメイドで作ってくれるんだ。値段はするけど、デザインも品質もすごく良いって。人気があるみたいだ。」

「うん。行ってみたい。」

「じゃあ予約しておく。」

僕たちはそのままスーパーに寄って家に帰った。



「樹里、疲れただろ?足をマッサージしてやるからここに横になってくれ。」

「ありがとう。」

ソファーに横になると足をマッサージしてくれる。慎一郎にマッサージしてもらってから寝てるときに攣らなくなった。

「慎一郎、いろいろありがとう。」

「俺の方こそ樹里に感謝してるんだ。」

「え?どうして?」

「俺は今、めちゃくちゃ幸せだ。可愛い番いと息子、それにもう一人子どもが増える。でも樹里にはいろんなことを諦めてもらったんだ。感謝してもしきれない。」

「そんな…。僕が自分で選んだことだよ。」

「ああ。それでも樹里に感謝してる。俺の子供を産んでくれて、俺を選んでくれてありがとう。」

「慎一郎…。」

涙がポロリとこぼれた。

「泣くなよ。」

抱きしめて頭を撫でてくれる。

「慎一郎、大好きだよ。」

「俺もだ。」

いつの間にか慎一郎の手はマッサージを止めて僕のシャツの裾から中に忍び込んでくる。
その大きな手は優しくお腹を撫で、流れる涙は舐め取られた。

「ふふ、擽ったい。」

「樹里は本当に可愛いな。はぁ、子どもが産まれたらまた激しく抱きたい。」

「え、怖いよ。」

「ん?いつも喜んでただろ?気持ち良くて泣いてたくせに。」

「もう、知らない!」

「あーもう、めちゃくちゃ可愛い。」

ガバッと抱きついてきてちゅっちゅっと態と音を立ててキスしてくる。
そのまま舌を絡ませて吸ったり舐めたりして身体中舐め回され、優しく抱かれた。



「ここ?」

「ああ、そうみたいだな。」

ビルの一階の控えめな佇まいの店だ。
『jewelry K』と書いてある小さな看板が出ているその中に入った、

「いらっしゃいませ。」

「予約してある壬生です。」

「お待ちしておりました。オーナーの貴島です、こちらにどうぞ。」

案内されたソファーに座る。
周りを見渡すとジュエリーショップには見えない。おしゃれなカフェかアトリエに見える。

「失礼ですが、番い様はご懐妊されていますか?」

「そうなんです。樹里は妊娠してるんです。」

慎一郎が僕のお腹を撫でながら何故が自慢げにオーナーさんに伝えた。

「おめでとうございます。ただ、妊娠中だと少し浮腫んだり、ふっくらされたりしますのでサイズ選びが難しいんですよ。」

そういえば体重は変わらないけどいつもより浮腫みやすい。

「え?じゃあ指輪はまだ無理ですか?」

「いいえ。サイズは2サイズまで変更可能です。奥様は妊娠してからどのくらい体重が増えましたか?」

「あ、えっとほとんど増えてません。つわりが酷くて初期の頃に痩せてしまって…。」

「そうなんです。全然食べなくて。最近やっと食べられるようになったんだよな?」

僕は小さく頷いた。

「そうですか。手を拝見しても?」

「あ、はい。」

オーナーさんに左手を差し出すとそっと握られた。さすったり揉んだり軽く押したりしている。

「もういいですか?」

イライラした声の慎一郎が僕の手をオーナーさんからサッと取り上げた。

「ちょっと、慎一郎。オーナーさん、すいません。」

「いいえ。こちこそ失礼しました。」

オーナーさんは全く気にしていない様子でにっこりしている。慎一郎は僕の左手に頬擦りしてキスをし始めた。

「な、何してるの?」

「他のヤツの匂いがついた。」

「やめてよ。恥ずかしいよ…。」

「ダメだ。」

手を引こうとするが離してくれない。それどころか舐め回すようにキスをする。

「旦那様、大変申し訳ありません。どのくらい浮腫んでいるのか見せて頂いたんです。」

「俺の樹里だ。」

「分かってるよ…。本当にもう。」

されるがままになりながらオーナーさんに何度も頭を下げた。

「番い様の前で、私がいけないんです。でも本当に愛されているんですね。」

「当たり前だ。俺の大事な番いだ。」

散々キスをして慎一郎の気が済んだところで指輪のデザインを決めた。

「今のサイズのままお作り致しましょう。先ほども言いましたがサイズ変更は可能です。でも妊娠後期になったら念のため外して頂いた方がいいです。」

「え?外すんですか?」

また慎一郎がムッとした声をだした。

「ええ。出産の時は外すように言われますよ。その時浮腫んで抜けなくなると指輪を切らないといけなくなります。」

「へぇ、そうなんですね。」

「はい。外した後は皆さんネックレスに通して首から下げたりしています。ネックレスのチェーンもご覧になりますか?」

「見せてくれて。樹里、一応用意しておこう。」

出来上がりは二ヶ月後だから指輪をはめられないかもしれない。でも世界でひとつだけのデザインとメッセージ入りのペアリングはすごく楽しみだ。
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