オメガの秘薬

みこと

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番外編2

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「え?今何て?」

「お義父さん、お義母さん。子どもができたので結婚させて下さい。」

ヒロの家に結婚の承諾をもらいに行った。
まだ学生の身分で、と怒られる覚悟だ。
隣のヒロも一緒に頭を下げている。
順番がずれてタイミングも悪いけどヒロと結婚できる…。
不謹慎だけど感動してしまった。

「学校はどうするの?」

ヒロのお母さんに聞かれた。当然だろう。一生懸命勉強して入った大学だ。

「一年休学して子どもを産んだら復帰します。」

「子育てってそんなに簡単なことじゃないのよ?」

「はい。でも二人で頑張りたいんです。」

何度も頭を下げて許してもらった。
ヒロが『授かった命を消したくない』と言ってご両親が許してくれた。



「航のご両親にも言わないと。何て言われるかな?」

「うちは大丈夫だよ。この間、話したんだ。おめでとうって言われた。」

ヒロはとても驚いてそれからほっとしたような顔をした。
うちの家族はヒロと別れたときの俺が憔悴しきって死んだように生きていたのを知っている。
どれだけヒロが好きかも。
だから俺とヒロの結婚を心から祝福してくれている。子どもができたのはびっくりしてだけど。
俺がヒロを好きでヒロ以外ダメなのを知ってるんだ。
ヒロのご両親に挨拶に行った翌週にうちの親にも二人で挨拶に行った。とても喜んでくれて母親はまだ大学に通っているヒロの身体を心配していた。

「航がしっかり支えてあげないとダメよ。」

「分かってるよ。」

「本当に?比呂ちゃん、航は我儘ばっかり言ってない?」

うちの母親は昔からヒロのことを比呂ちゃんと呼んでいる。
俺の母親はアルファだ。ヒロのことが可愛くて仕方ないらしい。
高校生の頃、初めて会ったときに『オメガって可愛いのね!』と興奮していた。若い頃に見合いで父と結婚したのであまり世間のことは知らないのだ。

「あ、そうだ。大事なこと忘れてた。出産する病院決まってるの?」

「まだ。この間のクリニックは検査しかしないんだって。」

「そうだと思ってお母さんが探しておいたのよ。」

そう言って嬉しそうにクリニックのパンフレットを出した。

「オメガの男の子専用なんですって。」

「へぇ…。」

俺とヒロはそのパンフレットを食い入るように見た。うちからも遠くないし、病院も綺麗だ。
すぐにスマホで口コミを見るとなかなか評判も良い。
ただし値段が桁違いに高い。でもヒロのためなら安いくらいだ。きっと他のアルファもそう思っているんだろう。

「航…。」

ヒロが値段を見て困った顔をしている。

「大丈夫だよ。ここに行ってみようよ。すごく良さそうだ。」

「でも…。」

確かに良い車が買える値段だ。
オメガの男の出産を専門に扱う病院は少なくない。相手のアルファが金にいとめはつけないからだ。すごく儲かると聞いた。
その中で良い病院を見つけるには紹介か口コミしかない。

「お母さん、どこでこの病院を見つけたの?」

「知り合いのお子さんのオメガがここで産むって聞いたのよ。西園寺さんの息子さんよ。」

「そうなんだ。俺たちもここに行ってみるよ。」

忠臣さんが良いって言ってるなら間違いない。
俺の大学の先輩で母親同士は友人だ。
出産費用はうちの両親が払ってくれると言ってきかないのでお願いすることにした。



「すごい、食事はホテルのシェフが作るんだって。部屋は完全個室で、うわっ!お祝いにベビーリングを作ってくれるんだ。」

「どれ?本当だ。楽しみだね。」

家に帰ってからもヒロはずっとパンフレットを見ていた。

「でもさ、高いよ?お義母さん、本当に良いのかなぁ。」

「平気だよ。ヒロのために何かしたいんだよ。」

母親が出してくれなくても俺が出したよ。
ヒロが喜んでくれて安全に出産できるなら金額なんて関係ない。一番良い場所で産んでもらいたい。

「来週予約したから一緒に行こうね。」

「うん。ありがとう。」

嬉しそうに俺を見た。
可愛いな。
何度もヒロにキスをしてお腹を撫でた。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「予約した野村…じゃなくて岩澤です。」

「はい。岩澤比呂様ですね?西園寺様のご紹介ですね。」

「はい。」

入り口で受付を済ませると中に案内された。
この間入籍を済ませてヒロは岩澤になったのだ。
入籍したときは嬉しくて号泣してしまった。思い出すと恥ずかしい。
結婚指輪は忠臣さんが紹介してくれた店に、この後行く予定だ。
挙式はヒロが安定期に入ってからしようと決めている。
妊娠が分かってからいろんなことを決めなければならなくてあっという間に時間が過ぎた。
俺もヒロも慣れないことに一生懸命だ。
でも隣にいるヒロを見るだけで幸せな気持ちになれる。
ヒロと結婚できて良かった。

今日のヒロは緊張しているようだ。
繋いでいる手に汗をかいている。

「ヒロ?大丈夫?」

「うん。」

「当病院はセキリュティの関係でお名前と虹彩を登録していただいた方しか待合室には入れません。」

俺とヒロは名前と虹彩を登録して待合室に入った。何組かカップルが来ている。
みんなパートナーや夫と受診していた。
べったりくっついてラブラブなのが分かる。
ヒロは恥ずかしがり屋だからな。外ではあまりイチャイチャしてくれない。

「そこに座ろう。」

「うん。」

二人掛けのソファーに座って横を見ると俺たちと同じくらいか少し年上のカップルが座っていた。
アルファの方がオメガに抱きついて首筋に顔を埋めてお腹を撫でている。

「樹里、ランチはどうする?何か食べられそうか?」

「うーん、飲み物だけで良いよ。」

「樹里~、食べられないか?辛いのか?」

「大丈夫だよ。でも少し横になりたい。」

アルファが急いでオメガに膝枕をして寝かせてやっている。心配そうに頭や身体を撫でていた。
つわりが酷いのかな?
辛そうだ。

「ヒロはつわりは?」

耳元で小さく囁いた。

「朝はちょっと気持ち悪いときがあるかも…。どっちかっていうと何か口に入れていたい。」

「そうなんだ。」

妊娠すると現れる症状は人それぞれって書いてあった。
そういえばヒロはいつも何か食べている。
食べづわりってやつか。それはそれで辛いらしい。
隣に座るヒロの背中を優しく撫でると俺にもたれかかってきた。
可愛いな。甘えている。
抱き寄せて頭にキスをした。













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