善夜家のオメガ

みこと

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詩月

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「え?ダメなわけない!詩月と番いに?」

じっと詩月を見つめる。

「うん。」

「半月後?」

「う、うん。…うわっ!」

健人が詩月に抱きついた。
三歳の頃から願っていたことが半月後に叶うのだ。ぼーっとしていたのはあまりの嬉しさに頭がついていかなかっただけだった。

「詩月っ!詩月っ!」

「く、苦しい、健人っ、」

詩月が潰れそうなくらいぎゅうぎゅう抱きしめ、しかも泣いている。

「落ち着けって言ってるだろっ!」

葉月にまた頭を叩かれてやっと詩月を離した。

「全くおまえは…。詩月のこととなると本当にポンコツだな。」

「へへへ。」

呆れた顔で葉月に言われるが嬉しそうだ。

「健人、これは三人の秘密の計画だ。健人のパパとママにも言えない。僕たちは勝手に番いになるんだ。しかもこんなタイミングで…。健人にもいろいろ考えがあるかもしれないのに善夜の家のごたごたに巻き込んで番いになる。健人に申し訳ない…」

謝ろうとする詩月を健人が制した。

「何言ってるんだよ。タイミング?そんなのどうでもいい。でもまぁ、強いて言うなら今だよ。今がそのタイミングだ。俺は詩月と番いになれるんだったら何だっていい。親に勘当されても、詩月の親に恨まれてもそんなのどうってことない。」

「健人…。」

「詩月と番い。嬉しくて死にそうだ。」

にっこり笑って詩月を見る。

「俺、この前の詩月の発情期、一緒に居られなくて辛かった。心配で心配でおかしくなりそうだったよ。他のアルファにうなじを噛まれるかもしれない。そう考えると怖くて眠れなかった。それに詩月も苦しかったんだろ?詩月が苦しんでるのに側にいてやれない。あと何度そんな思いをするのか、詩月にさせるのかって考えただけで辛かったよ。俺は詩月と今すぐ番いになりたい。」

「うん…。」

涙をこぼす詩月を健人が優しく抱きしめる。
健人は何度も何度も詩月の頭にキスをした。

「あー、えー、盛り上がってるところすいませんが…。」

すっかり二人の世界に入っていた詩月と健人は慌てて葉月の方を見た。

「運良くあと少しで夏休みだ。詩月が発情期に入る少し前に二人でどこかにこもるんだ。で、発情期が来たら番いになる。避妊は、うーん、取り敢えずした方がいいと思うけど。」

「そうだな。子どもはいつか欲しいけど、もう少し二人きりで居たい。アルファの避妊薬は何とかなる。それで良いか?詩月。」

「うん。」

「あとはこもる場所なんだよなぁ。誰も来なくてバレない場所…。うちの別荘は無理だな。」

葉月が考え込む。高校生の彼らにできることは限られている。

「あ!ある。うってつけの場所がある!」

「健人?」

「死んだじいちゃんのアトリエ。長野の山奥にもあるんだ。そこに行こう。電気も自家発電で温泉が湧いてるんだ。井戸水もある。もちろん飲める水だ。じいちゃんが創作に没頭したい時に使ってた。だいぶ放っておいたから俺、来週様子を見に行ってくる。詩月が安心して過ごせるように整えてくるよ。」

「よし。場所は確保出来たな。僕は姉ちゃんに連絡して招待状を送ってもらって、飛行機の予約と…。」

葉月がスマホでいろいろ調べている。健人もそれを見て同じようにスマホで何か確認し始めた。

「僕は?何をしたらいい?」

詩月が健人に尋ねるがにこりと微笑まれて額にキスをされた。

「詩月は何も心配しなくていい。身体だけ大事にしてくれ。準備は俺がするからな。」

力強く健人に言われて詩月はこくりと頷いた。



翌日、真知子に見合いをすると返事をして出来るだけ大人しく過ごした。
真知子は上機嫌でいつものように家を留守にすることが増えた。親戚たちにも天沢と婚姻関係を結ぶとふれ回っているようだった。
三人は準備をしその日に備える。そしていよいよ夏休みに突入した。

「少し熱が上がってきたかも…。」

念のため詩月は基礎体温をつけている。本当かどうかは分からないが、発情期近くになると体温が上がると言われているからだ。
善夜のオメガは発情期はピタリと二ヶ月で来る。しかし詩月がそれに当てはまるかどうかは分からない。
一か八かの賭けだ。
あと三日でちょうど二ヶ月。
真知子は明日から香港に行くと言っていた。

「母さんが出かけたら僕たちも行く。」

「そうだな。こっちは任せて。」

葉月は真知子から預かった地下室の鍵をクルクル回しながら答えた。
真知子が不在時の詩月の対応は葉月と章子に任されている。

「怪しまれないように大人しくしてたからね。」

「うん。健人は?準備できてるって?」

「もちろん。ものすごく張り切ってる。最近あまり会えてないけど泣き言言わずに頑張ってるよ。」

「そりゃそうだ。もうすぐ番いになれるんだから。」

念願の番いなるためだ。それくらい我慢するだろう。
真知子に勘付かれたらおしまいだ。健人も極力善夜家に近づかないようにしていた。
いよいよ明日。
二人は最終確認をして明日に備えた。

朝になり朝食を摂り真知子が出掛けるのを待っていたが、一向にその気配がない。
葉月が痺れを切らして真知子に聞いた。

「母さん、今日から香港に行くんじゃないの?」

「あぁ、それね、なくなったの。あちらで会う約束をしていた方が体調を崩されてね。急に予定が空いちゃったわ。」

いつになくのんびりとコーヒーを飲みながら言う真知子に葉月と詩月は青ざめながら顔を見合わせた。




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