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ガシャン!
お茶を用意していたハンナがカップを落としてしまった。『申し訳ございません。』と言いながら片付けている。
今、何て言った?ロジェ?僕は恐ろしくなってその本を見た。レオナルド様も驚いて固まっている。
「ロジェ様のファミリーネームは何ですか?」
僕は震えながらレオナルド様に尋ねた。
ロジェ様はロジェ・サーフィスと言ってサーフィス男爵の息子だが養子だった。レオナルド様もあまり詳しく聞いたことがなく養子になる前の事は知らないそうだ。
この本を書いたロジェ・カステールとあのロジェ様が同一人物って事はないだろう。本はかなり古い物に見える。
僕がじっと本を見ているとカナン様がその本を触りながら言った。
「この本の装丁はかなり古い物でね。この人とあのロジェが同一人物ってことはないと思う。」
ロジェ様はレオナルド様より二歳歳下なので今年で二十三歳だ。僕の兄と同じ歳だから何か知ってるかもしれない。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「なるほどね。」
ビンセント先生が本を閉じて呟いた。
その本には『魅了』にかかった人の経過やその時の様子が記されていた。でもレオナルド様に起きた事とは少し異なるようだ。かけた人物に対して執着してしまいその人なしでは生きた心地がしなくなってしまう。そこまではレオナルド様と一緒だが『魅了』にかかっている最中は寧ろ幸せな気持ちになる。夢現でふわふわした状態でレオナルド様のように頭痛やモヤのようなものは現れない。
「レオナルド様のは『魅了』というよりは『呪い』に近いのかもしれません。ただ、キスで正気に戻るという事は『魅了』をベースにしてより強固になるようアレンジしたり『魅了』自体を『呪い』に変えてしまったのかもしれない。どちらにしろ強力な魔法である事は間違いありませんね。」
ビンセント先生が『罪…呪い…記』という本を見ながら言った。
『魅了』も『呪い』も根本的には同じで精神を操るものだ。『呪い』の方が強力でかけられた側は苦痛を生じる。どちらにしてもレオナルド様が三年間も強く操られている事が不思議で仕方ないそうだ。
「何かトリガーのようなものがあるはずです。匂いや音、味という場合もあるみたいです。」
レオナルド様は暫く考えていたが分からない、と首を振った。
かけた『魅了』もどきを呼び起こすためのトリガー。
匂いや声…。ロジェ様の匂いはどんな匂いなのだろう。あんなに美しい人なのできっと良い匂いがするはずだ。
ビンセント先生がレオナルド様にいろいろ質問している。カナン様とビンセント先生はロジェ様を見た事がないそうだ。
さすが世捨人。あんな盛大な結婚パレードがあったのに。
「ロジェの見た目は?」
「プラチナブロンドに紫色の瞳です。」
「見た目は美しいんですね?」
「え…えぇ、まぁ。」
レオナルド様がチラリと僕を見ながら遠慮がちに答えた。僕の前でロジェ様の容姿を褒めたくないのだろう。
「でも私が美しいと思うのはルーファスだけだよ。愛しているのもルーファスだけだ。可愛くて美しい私のルーファス。」
抱きしめてちゅっちゅっとキスしてくる。恥ずかしい…。それにロジェ様が美しいのは事実だ。
「僕も見たことがあります。美しい人でした。あ、レオナルド様、肖像画がありましたよね?」
肖像画?とビンセント先生の声色が変わった。
レオナルド様がロジェ様が描かせた肖像画の話しをした。見ると頭のモヤが消える事も。
「それだ!」
ビンセント先生が立ち上がった。
おそらくその肖像画がトリガーだ。
ロイがあの肖像画は額縁を外して納戸にしまったと言った。レオナルド様に確認して処分しようと思っていたが、何かに使うかもしれないととっておいたそうだ。
ビンセント先生とカナン様が是非見せて欲しいとロイに頼んで三人は納戸に行ってしまった。
ロイたちを待ってる間にレオナルド様が僕の肖像画を描いてもらおうと言い出してそれを必死でとめた。
二人っきりになった途端レオナルド様は僕を膝に乗せて可愛い、愛してると言いながら顔中にキスしてくる。スリスリと僕の股間を撫でるのはやめて欲しい。
ロイたちがなかなか戻って来ないので二人で二階の納戸まで様子を見に行った。覗くとロイがたくさんの絵の中から肖像画を探している。
「他の絵と一緒にまとめてここに置いたはずなんですが…。」
僕も手伝おうとして納戸の中に入るとどこからか悲鳴が聞こえた。
この声はハンナだ。
ハンナの声は奥のあの部屋から聞こえてきた。肖像画が飾ってあったあの部屋だ!
急いで部屋に向かうとハンナが真っ青な顔で部屋の中に立っていた。
僕たちを見て震える手で壁を指差した。
そこには納戸にしまったはずのロジェ様の絵が飾られていた。
「レオナルド様は見てはダメです!」
ビンセント先生が声を挙げたがレオナルド様は既に肖像画を見てしまっていた。うぅ、と低く呻くと頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
「ルーファス様!早くキスを!」
ロイの言葉にハッとしてレオナルド様に近づくが突き飛ばされてお尻から床に転がった。
ビンセント先生が何かをブツブツ唱えるとレオナルド様の足元に魔法陣が現れた。
「ルーファス君!早く!今のうちに!」
僕はもう一度レオナルド様に近づいた。
レオナルド様は動かなかった。ビンセント先生の魔法で動けなかったのだ。
レオナルド様の唇にそっとキスをする。レオナルド様の身体の力が抜けて僕に凭れかかって来たので引きずって部屋を出た。
間違いなくあの肖像画がトリガーだった。
お茶を用意していたハンナがカップを落としてしまった。『申し訳ございません。』と言いながら片付けている。
今、何て言った?ロジェ?僕は恐ろしくなってその本を見た。レオナルド様も驚いて固まっている。
「ロジェ様のファミリーネームは何ですか?」
僕は震えながらレオナルド様に尋ねた。
ロジェ様はロジェ・サーフィスと言ってサーフィス男爵の息子だが養子だった。レオナルド様もあまり詳しく聞いたことがなく養子になる前の事は知らないそうだ。
この本を書いたロジェ・カステールとあのロジェ様が同一人物って事はないだろう。本はかなり古い物に見える。
僕がじっと本を見ているとカナン様がその本を触りながら言った。
「この本の装丁はかなり古い物でね。この人とあのロジェが同一人物ってことはないと思う。」
ロジェ様はレオナルド様より二歳歳下なので今年で二十三歳だ。僕の兄と同じ歳だから何か知ってるかもしれない。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
「なるほどね。」
ビンセント先生が本を閉じて呟いた。
その本には『魅了』にかかった人の経過やその時の様子が記されていた。でもレオナルド様に起きた事とは少し異なるようだ。かけた人物に対して執着してしまいその人なしでは生きた心地がしなくなってしまう。そこまではレオナルド様と一緒だが『魅了』にかかっている最中は寧ろ幸せな気持ちになる。夢現でふわふわした状態でレオナルド様のように頭痛やモヤのようなものは現れない。
「レオナルド様のは『魅了』というよりは『呪い』に近いのかもしれません。ただ、キスで正気に戻るという事は『魅了』をベースにしてより強固になるようアレンジしたり『魅了』自体を『呪い』に変えてしまったのかもしれない。どちらにしろ強力な魔法である事は間違いありませんね。」
ビンセント先生が『罪…呪い…記』という本を見ながら言った。
『魅了』も『呪い』も根本的には同じで精神を操るものだ。『呪い』の方が強力でかけられた側は苦痛を生じる。どちらにしてもレオナルド様が三年間も強く操られている事が不思議で仕方ないそうだ。
「何かトリガーのようなものがあるはずです。匂いや音、味という場合もあるみたいです。」
レオナルド様は暫く考えていたが分からない、と首を振った。
かけた『魅了』もどきを呼び起こすためのトリガー。
匂いや声…。ロジェ様の匂いはどんな匂いなのだろう。あんなに美しい人なのできっと良い匂いがするはずだ。
ビンセント先生がレオナルド様にいろいろ質問している。カナン様とビンセント先生はロジェ様を見た事がないそうだ。
さすが世捨人。あんな盛大な結婚パレードがあったのに。
「ロジェの見た目は?」
「プラチナブロンドに紫色の瞳です。」
「見た目は美しいんですね?」
「え…えぇ、まぁ。」
レオナルド様がチラリと僕を見ながら遠慮がちに答えた。僕の前でロジェ様の容姿を褒めたくないのだろう。
「でも私が美しいと思うのはルーファスだけだよ。愛しているのもルーファスだけだ。可愛くて美しい私のルーファス。」
抱きしめてちゅっちゅっとキスしてくる。恥ずかしい…。それにロジェ様が美しいのは事実だ。
「僕も見たことがあります。美しい人でした。あ、レオナルド様、肖像画がありましたよね?」
肖像画?とビンセント先生の声色が変わった。
レオナルド様がロジェ様が描かせた肖像画の話しをした。見ると頭のモヤが消える事も。
「それだ!」
ビンセント先生が立ち上がった。
おそらくその肖像画がトリガーだ。
ロイがあの肖像画は額縁を外して納戸にしまったと言った。レオナルド様に確認して処分しようと思っていたが、何かに使うかもしれないととっておいたそうだ。
ビンセント先生とカナン様が是非見せて欲しいとロイに頼んで三人は納戸に行ってしまった。
ロイたちを待ってる間にレオナルド様が僕の肖像画を描いてもらおうと言い出してそれを必死でとめた。
二人っきりになった途端レオナルド様は僕を膝に乗せて可愛い、愛してると言いながら顔中にキスしてくる。スリスリと僕の股間を撫でるのはやめて欲しい。
ロイたちがなかなか戻って来ないので二人で二階の納戸まで様子を見に行った。覗くとロイがたくさんの絵の中から肖像画を探している。
「他の絵と一緒にまとめてここに置いたはずなんですが…。」
僕も手伝おうとして納戸の中に入るとどこからか悲鳴が聞こえた。
この声はハンナだ。
ハンナの声は奥のあの部屋から聞こえてきた。肖像画が飾ってあったあの部屋だ!
急いで部屋に向かうとハンナが真っ青な顔で部屋の中に立っていた。
僕たちを見て震える手で壁を指差した。
そこには納戸にしまったはずのロジェ様の絵が飾られていた。
「レオナルド様は見てはダメです!」
ビンセント先生が声を挙げたがレオナルド様は既に肖像画を見てしまっていた。うぅ、と低く呻くと頭を抱えてしゃがみ込んでしまう。
「ルーファス様!早くキスを!」
ロイの言葉にハッとしてレオナルド様に近づくが突き飛ばされてお尻から床に転がった。
ビンセント先生が何かをブツブツ唱えるとレオナルド様の足元に魔法陣が現れた。
「ルーファス君!早く!今のうちに!」
僕はもう一度レオナルド様に近づいた。
レオナルド様は動かなかった。ビンセント先生の魔法で動けなかったのだ。
レオナルド様の唇にそっとキスをする。レオナルド様の身体の力が抜けて僕に凭れかかって来たので引きずって部屋を出た。
間違いなくあの肖像画がトリガーだった。
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