34歳独身女が異界で愛妾で宰相で

アマクサ

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第五章 酒精

34歳の釣果と対決の行方

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 二日後、領主シャルル・グロ公爵とその後の打ち合わせを終えたナオは皇都に帰ろうとするが、そこに皇都に残った宰相補佐官であるフィリップ・パスカルから伝令が入った。


 ―――帝国の南の海に浮かぶ2つの島。コラシオ島とサヴァディン群島で緊張が高まっている。護衛として公式私設部隊オーパス・ワンも十人ほども送った。
 早期解決が重要だ。そのまま行って解決して来い。―――


 伝達書を読んだナオはいろいろ思うところがあって固まる。
 こんなに頑張ったんだから少しゆっくりさせてくれてもいいじゃないとか、なんで連絡まで偉そうなのよとか。

「やるしかないっか!」

 ナオは気合を入れるように両手で頬をたたき、喝を入れる。

「ブラハ殿!おられますか?」

 ナオの部屋の外で出てくるのを待っていたブラハに声をかける。
ブラハにも伝令が来ていて傍に控えている。 
 難しい顔をしていて、すでに状況を把握している様だった。

「ブラハ殿。申し訳ありません。
 このまま皇都に帰ることが難しくなりました。」

「コラシオ島とサヴァディン群島のことですよね。方々にいる我が国の者から私にも文が届いています。私にとっても二島がもめるのは非常によくないことなんです。」

「それでは一緒に行っていただけますか?」

「もちろんです。すでにネルトの南の先の港にて我が国スタインベルグ王国の船を手配しております。
 遠回りにはなりますが、今は風がいい時期。陸路よりは早い。十日ほどでつくでしょう。」


 コラシオ島とサヴァディン群島。
 それぞれの島はかろうじて独立国家として成り立っている。
 まったく宗教の異なる部族が住んでいて、最南に位置するサヴァディン群島の部族は非常に好戦的。何かとあれば捕まえた奴隷の首を切り血しぶきをあげることを楽しむ。
 しかし北の島コラシオ島は人の首を刈るのは禁忌としている。

 それぞれの島には特産品があり、コラシオ島には潮風に浴びた自生するぶどうから作られる塩味のある葡萄酒、サヴァディン群島には碧瞳石という宝石が採取される。

 事件があり、互いの島では緊張が高まっていて一触即発状態。
状況としては、コラシオ島の大きな商船がサヴァティンの国賊に襲われ、多くが奴隷になった。しかも夜ごとに首狩りの祭で命を落としている。
しかし捕まった商船はコラシオ島の豪族で、コラシオ島側も無視できない。
 生き残っている豪族の身柄と賠償金をサヴァティン側に求めている。
サヴァティン側はもちろん交渉に応じることはなく、かなり緊張が高まっていた。

 そしてそれに便乗しようとしているのが南の大国イスタリカ王国。
 イスタリカ王国はオルネア帝国攻略を虎視眈々狙っていて、今回相当暗躍している。
 もし二島が戦争になったら、近海の治安維持を大義名分にしてコラシオ島、サヴァティン群島を攻略し、イスタリカ王国の属国にしてしまうであろう。
 二島がイスタリカ王国になれば、オルネア帝国攻略の重要な戦略拠点になってしまう。
 一〇数年前のように戦火の絶えない時代の影が見え隠れする。

 自国の領地ではないにせよ、オルネア帝国と二つの島は友好状態にあり、オルネア帝国の権力を盾に二つの島の内政にも関与する権限を持っていた。

 スタインベルグ王国の軍船に便乗させてもらい、ナオたちはコラシオ島を目指す。

「さすがに一〇日間船の上とは飽きてしまいますね。」

 船室にてブラハはナオに話しかけた。

「そうですね。あらかた方針は決まりました。島につくまではなにもできないですね・・・そうだ!」

「釣りをしましょう!釣りを!!」

 ナオはブラハの手を取って甲板に急ぐ。船乗りに教えてもらって海釣りを始めてみる。

「ナオ様。風を掴んでますんでこのスピードだと難しいと思いますよ?」

 スタインベルグ王国の船乗りがわざわざ教えてくれた。
船は三〇メートルほどの大型の帆船である。大きさがあるので慣れてしまえば揺れはそこまで気にならない。

「教えてくれてありがとうございます。でも釣れなくてもいいんです。こうして糸を垂らしていることに意味があるんです!」

 ブラハも釣れないことはわかっていたが、椅子を用意して釣り竿を垂らして付き合う。

「ブラハ殿!いい心掛けです!こうやって、ゆったりと構えて、我慢して・・・我慢して・・・・我慢して・・・・その先に人としての成長があるのです!」

 まだそれほどの時間は立っていなかったが、飽きてきたのかナオはすでにそわそわしていた。

「あははは!ナオ殿?我慢が足りないのでは?膝が笑っておりますよ?」

 いつもはからかわれてばかりのブラハ。ここぞとばかりに反撃する。

「何を言ってるの?!膝が笑っているのはお酒が足りないからよ!
 ロレンツェはいる?私にワインを持ってきて!」

「ナオ殿!おもしろすぎます!まだ昼間ですよ!その若さでもうアル中ですか!」

「うるさい!」

 怒りながらもナオも声を上げて笑ってしまう。

「ナオ様。ワインをお持ちしま・・・あっ!!」

 急いでワインをカップに入れて持ってきたロレンツェが釣り竿を見て驚きの声を発した。

「ナオ様!引いてます!!引いてます!」

 甲板にいる一同ギョツとした表情をする。誰もが釣れるはずがないと思っていたからである。

「えい!やあ!」

 ナオは勢いよく竿を振り上げた。
イカが水面から飛び上がる。が、餌に食いついていたのではなく、とっくにどこかに行ってしまった餌なしの釣り針がイカの身に刺さって釣り上がっただけだった。
 宙を舞った拍子にイカに刺さった針は抜け、イカは弧を描いて落下し、

 スポッ。

 背中が少し開いた服を着ていたナオの背中にタイミングよく入っていった。

「あっ!・・・ちょっと!・・・ダメ!前に来た・・・!」

 ナオはくすぐったくて悶え苦しむ。

「ナオ様!」

 ロレンツェはナオの服を前からめくり、イカを逃がす。その光景をラヴェルはばっちり見逃さない。
 イカはその後逃げ回って甲板上で大騒ぎになるがついに観念してか、大人しく蓋つきの桶に入れられた。

「もう!釣れたはいいけど災難だわ!イカめ!」

 ナオは部屋に入り、ロレンツェに体中を拭いてもらっていた。

「ナオ様。幸い、イカめの仕業で体にお怪我はございません。墨もかけられておりません。」

「ロレンツェ・・・。今あなた心の中で笑っているでしょう?」

「いいえ、滅相も・・・・・・すみません。」

「いいわよ。笑いたければ笑いなさい?というか思い出したら私もおかしくなってきたわ!」

「ククク・・・すみません、では遠慮なく。」

 船室に二人の笑い声が響いた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「あら?何しているの?」

 船室から甲板に戻ったナオとロレンツェは異様な雰囲気に驚く。
ブラハとラヴェル、そして甲板にいる船乗り、騎士が乱戦を繰り広げている。

「はい。やはり退屈なのでブラハ様が剣の稽古をしようと言い出しまして。
なぜか、ラヴェル様に敵意剥き出しでして。
 それで二人が実践形式で稽古を始めたんですが・・・。」

「なぜ、みんなで乱戦になってるの?」

「ちょっと言いづらいんですが・・・ラヴェル様がムキになるブラハ様に言いまして・・・」

「・・・勝った方がナオ様の体をまさぐったイカを褒美としてもらいましょうと」

「んな!!!」

「そしたら、我も我もと皆参戦していきまして・・・。」

 ナオが羞恥で赤面する。

「それでは私も!」

「ちょっと!ロレンツェ!参戦しないっ!!」


 勝者はロレンツェに決まった。

「ナオ様。今宵、このイカをナオ様だと思っていただきます。」

「ロレンツェ・・・。キャラぶれてるわよ。全く・・・」

 ナオは舷牆げんしょうに寄りかかった。刹那―――

 ドオドオオオオオン!!!!

 大きな水しぶきを上げて、軍船近くに着弾する。
船体は大きく揺れ、着弾した側の船べりにいたナオは海に放りだされた。

「ナオ様!!」

 ナオが放りだされたのとは逆側に船体は傾き、乗員は態勢を崩して掴まるので精一杯だ。

「見張りを何をしている!敵なのか?」

 ブラハはマスト上の見張り櫓に大きな声で叫ぶ。

「すみません!南の方向に小型の帆船と六隻の手漕ぎのガレー船です!海賊です!」

「なに!?スタインベルグ王国の旗を掲げている我らを襲うのか?!」

「はい!そのようです!しかし!はっ速い!ガレー船既に目の前です!!」

「総員戦闘配備!!!急げ!
準備でき次第、投石器カタパルトもお見舞いしてやれ!船長任すぞ!!」

「はっ!」

 ブラハは指示を叫ぶといろいろなところに掴まりながら反対側の船べりに近づく。
その時にガレー船にナオが引き揚げられていく姿が目に移った。

「ナオ殿ーーーーー!!」

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