34歳独身女が異界で愛妾で宰相で

アマクサ

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第五章 酒精

34歳の救出に走る緊張感

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 ナオがガレー船に連れ込まれた後、スタインベルグ王国の軍船は後を追おうとするが、機動力のある他のガレー船との乱戦になってしまう。
 三隻を沈め捕虜も捕まえたが、結局ナオを積んだガレー船には逃げられてしまった。

「なんということだ・・・ナオ殿が連れさらわれてしまうなんて・・・」

 日も落ち、夕闇の中でブラハが唇を噛む。

「ブラハ様。気絶してた捕虜が意識の取り戻しました。アジトを尋問しましょう。」

 配下の船乗りが声をかけて来て、ブラハは船底の牢屋に急ぐ。

「お前達はどこの海賊だ?」

 十人ほどいる捕虜に声をかける。

「はいはい、俺たちはどこそこの海賊団ですなんて言うわけないだろうが!」

 捕虜達は大声を出して笑い始める。

「まあよい。大体わかる。
国の軍船にも海賊行為を行うなど、悪名高き、タリス島の海賊しかあるまい。」

 笑っていた捕虜達の笑顔が固まる。

「しかしなぜ危険を冒してまで国の船まで襲う?」

「けっ!バレちゃしょうがねえや。
俺たちは王侯貴族というやつが嫌いなのさ。
 もともと俺たちはタリス島の人間じゃねえやつらがほとんどだ。
 食うに困って国を逃げてきたやつがほとんどさ。
 だからいろんな国に仕返ししてやるのさ!」

「愚かな・・・そんな事をして諸国が本気になればあっという間に潰されるであろうに。」

「ふん!この海は俺たちが牛耳ってる。しかももし、戦争になっても俺たちをかくまう村はいくらでもあるさ!
 俺たちの恩恵を受けてる村は多いからな!」

「なんということ・・・」

 海賊のアジトを潰すために海沿いの村を潰すが、実は海賊とは関係なかったという事がよくある話だが、真逆に村が海賊とがっちり協力しているというのはなんともすごい話だ。

「俺たちゃ、残忍・狡猾・悪虐非道のタリスの海賊だが、俺たちにも義があるんだよ!
オルネア帝国側の村なんかは喜んで協力してくれるさ!」

 またしても帝国臣民の帝国への不信が招いている結果だった。

「お前達の事はもういい!アジトへ案内しろ!
 もし、ナオ殿が無事でなかったらスタインベルグ王国の全軍でお前達をどこまでも追いかけて皆殺しにしてやるからな!」

「けっ!お前にそんな事が出来るのかよ!」

「えっ?」

「王子?」

「マジで?」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 捕虜に無理やり案内させてスタインベルグ王国の軍船はタリス島沖に停泊していた。
 タリス島は南の内陸の海の西の外れにある孤島。大海に出る玄関口に位置している。

 既に夜になっていた。
周りに明かりは全くなく、軍船も外のかがり火を消していて闇に姿を隠している。
 夜空に盛大に浮かぶ星々だけが唯一の明かりだ。
 タリス島はほぼ全て海賊島だ。流石に軍船一隻で無策で奇襲するには無謀すぎる。慎重にならざるを得なかった。

 その軍船にランタンを灯した小舟が一隻近づいて来る。

「何者だ!」

軍船の兵士が問う。

「隠れてるつもりなんだろうが、バレバレなんだよ。スタインベルグ王国さんよ。
 おっとまった!
俺はあんた達を案内しに来たんだ。
頭の所まで案内するように言われて来たんだ。」

 軍船の兵士はすぐさまブラハに伝令し、ブラハが甲板に出てくる。

「私はスタインベルグ王国王子ブラハ・スタインベルグだ。
 罠ではない証拠があるのか?」

「あるわけないだろう?
でも早く来ないとオルネア帝国の宰相殿が困った事になるぜい?」

「くっ口惜しい!
わかった!案内しろ!」

「あいよ~。付いてきな~。」

 スタインベルグ王国の軍船は岩礁の上に作られた桟橋に案内された。
 闇夜でもわかる切り立った岩礁の数々。
 道筋を案内されなければ船は座礁してしまうのは間違いない。
 海賊の船は他にはいない。
他の場所に停泊しているのか、それとも既に沖に出ていて囲まれてしまっているのか、さらに不安が募る。

「兵士は半数は下船して浜辺まで行き、展開して待機だ。
 もうすぐ満潮だ。多分、桟橋付近は潮が満ちると海に沈んで足場がなくなる。
 数人手分けして小舟を確保しておけ。
 船長は船に危険を感じたら遠慮なく一度沖まで出ろ。道筋は覚えたな?
 腕に覚えのある兵士五人は私に付いて来い。
 それと公式私設部隊オーパス・ワンの方々とロレンツェ殿はご同行願えるか?」

「はい。もちろんです!むしろ我々の役目です!」

 ブラハが普段見せている姿の欠片もない。
 ラヴェルはブラハの的確な指示に驚いて、少し緊張した声を上げてしまった。

「参りましょう!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 案内の海賊に連れられて浜辺の奥の林の中にある屋敷に入る。
 通常は海賊のアジトは洞窟というのが相場だが、ここは普通に大きな屋敷だ。
 何もかもタリス島の海賊は勝手が違う。
 島全体が海賊島という片鱗も垣間見れる。島全てが一つの海賊団に掌握されているという話である。

 屋敷の大広間に案内される。
中には十人ほどの大男。入り口にも数人、屋敷の外には二十人以上いた。
四十人ほどの海賊に囲まれている計算になる。他にも多数伏兵がいるだろう。
 ブラハ側は総勢二十人ほどだ。

 大広間の奥にテーブルとイスが置かれていて、そこに白金の髪の女性がテーブルに伏せっていた。
 ナオである。

「ナオ殿!貴様ら!!」

 ブラハに止めどない殺意が芽生え、即座に抜刀する。

「おいおい、待て待て」

 二メートルを超えるかなりの巨体、それも筋肉隆々。日に焼けた上半身は裸で、右胸から右腕にかけて様々な紋様のタトゥーが入り、金色の腰紐を巻いている。
 四〇歳ほどであろうか、精悍な顔立ちに、三つ折り帽子のトライコーン、いわゆる海賊帽をだらりと斜めにかぶっている。
 どうやら海賊の頭のようだ。

「近づいてみろよ。大丈夫だから。」

 頭はそういうと、手のひらでほらよっと合図する。

「ナオ様!」

 ロレンツェが居ても立っても居られなくなり、テーブルに駆けつける。

「酒くさ!!」

 ゴン!
 ナオの肩を起こそうとして匂いに驚き、手を離してしまった。

「イタァイ・・・もう呑めない・・ムニャムニャ・・・」

「な?大丈夫だろ?
だが多分相当起きないぜそれ。
シコタマ呑んだからな!ブアハハハハ!」

「・・・・・!」

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