34歳独身女が異界で愛妾で宰相で

アマクサ

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第五章 酒精

34歳の特技で海賊退治

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「・・・という訳さ!うっぷ・・」

 海賊の頭トレスは状況の理解に苦しむブラハたちに説明してくれた。
しかし、頭も具合悪そうだ。

 事の次第はこうだ。
牢屋で意識を取り戻したナオは騒ぎわめき立て、頭に会わせろと聞かなかった。
 頭に会ったナオは自分がオルネア帝国宰相だと名乗った。
当然、海賊は全員そんなのは信じなかったが、噂で宰相が変わった事は聞いていたため、話すうちに本人だと確信する。

 宰相を捕まえて、これは身代金をがっぽりいただけると思ったら、ナオは自分の身を案じる事よりなぜこんな危険な海賊行為を行うのかと執拗に聞いてきた。
 現状を理解したナオはまさかのひとこと。

「あなた方をオルネア帝国の海軍外人部隊として雇います!」

 海賊一同大笑い。
しかし、次第に笑えなくなる。
ナオの提案してきた話はオルネア帝国にもタリス島の海賊にもどちらにも有益であるからだ。
しかもそれを熱弁するナオの目は真剣そのもの。
 しかし、今日初めて会った、それも拾ってきた人間にそう簡単に懐柔されては海賊の頭の名折れ。
そんな事を思っていたら、

「あなたのプライドをへし折ってやります。お酒で勝負しましょう!
覚悟を決・め・ろ!」

 海賊の頭とナオのどれだけ酒が呑めるかの勝負となった。

 結果、小柄なナオが勝利し、二メートルの大男の海賊の頭は負けた。

「オマエとんでもねえなあ!気に入った!俺たちタリス島の海賊は本日をもって海賊業を廃業だ!
 このキレイな肝っ玉ねえちゃんについていくぜ!」

 という事になったらしい。

「ナオ様のアル中が役に立つだなんて・・・」
 
 ロレンツェは嬉しいような悲しいような複雑な気持ちに駆られていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 翌日、そのまま海賊の屋敷に泊めてもらったナオは昼過ぎにやっとベッドで目を覚ました。

「うーん・・・頭イタァイ、キモチワルイ」

 目の前にお水が入ったグラスが置かれる。

「当然です、ナオ様。
さとうきびの蒸留酒ラムを二人で五本は開けたらしいじゃないですか。」

「ゴメンね、ロレンツェ。心配かけました」

 素直に謝るナオにロレンツェの機嫌も直る。

「はい。とてもとても心配いたしました。
でもご無事で何よりでした。
 それに海軍提携の件、お一人で独断専行で決められたので後でフィリップ様にどやされそうですが、お見事でございました。
 しかしナオ様のアル中が、もといお酒好きが功を奏するなんてすごい事ですね。」

「今・・・ロレンツェ、アル中って言った。」

 ナオが冷ややかな視線をロレンツェに向ける。

「あはははは、先日のブラハ様の言葉がぴったりだったと思ったので・・・」

「もう!」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 その後、ナオは屋敷の執務室で頭のトレスと打ち合わせ、書類を作成して契約を結び、正式にタリス島の海賊をオルネア帝国海軍外人部隊に迎えた。

「オルネア帝国は海軍の力が弱いです。
イスタリカ王国牽制のための軍事力、他諸島の海賊からの護衛、タリス島を中継点とした海路の発展。お力を貸してください。
 
 オルネア帝国に対する過去の遺恨は水に流して下さい。過去の海賊行為に対する罪も私の宰相就任祝いの恩赦として許します。

 これから、これからです。
オルネア帝国とタリス島、末永く良い関係を築いていきましょう。」

「ほんっと、こうやって話してると宰相に見えるな!昨日はただの酔っ払ったお嬢ちゃんだったのに。
 まあ、こちらこそよろしく頼む!!」

 ナオとトレスはがっしりと握手を交わした。

「それでは名残惜しいですが、我々はコラシオ島まで急がなくてはなりません。」

「わかった。
 ナオ嬢ちゃんよう。一つ頼まれてはくれねえか?」

「?。なんでしょう?」

「おい、入ってこい!」

 執務室にノックをして一人の女性が入って来た。

 水色のショートヘアにベージュ色のバンダナを巻いている。
 顔は若いが少し殺伐とした雰囲気を纏う。
 身長170センチほどでスレンダーな肢体によく焼けた小麦色の肌。
 肩紐がなく胸元だけを隠しているチューブトップの豹の毛皮の服、ひざ丈のオレンジ色の腰巻きスカートから覗く健康的な足がとてもセクシーさを醸し出す。
 そして右胸辺りから右腕にかけてトレスと似たような紋様のタトゥーが入っていた。

「こいつは俺の下の娘。
 名をレルミタ。
 今年で二十になるんだが、ちょっと変わっててな。海賊なのに本が大好きな娘なんだ。
 見識を広めたいから、ずっと都市に行きたいって言ってる。
 まあ、俺としてはそろそろこの島のやつと所帯を持たせたいと思ってるんだが、腕っぷしも強くてな。
自分より強い奴じゃないと結婚しないってな。」

 トレスは溜息交じりに娘を見る。

「ご想像通り、婿候補を全員ぶっ飛ばしちまったわけだ。」

「まあ、そんななんで娘をナオ嬢ちゃんのそばに置いてもらえねえか?」

 話を聞く限りではとても問題児な感じの印象だが。誰もがツッコミたかった。

「・・・わかりました。お預かりいたします。
 私たちの信頼の証にもなります。
でも、客人扱いはしませんのでしっかり働いてもらいますよ?」

「ちげえねえ!よろしく頼む!!」

「・・・よろしくお願いします。」

 レルミタは小さな声で挨拶した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 ナオを載せたスタインベルグ王国の軍船は予定より二日遅れて目的地のコラシオ島に着いた。
ネルトを出てから十三日後だった。

「ブラハ殿下。」

「いかがしました?ラヴェル殿。」

 軍船の甲板で海を眺めるブラハにラヴェルが声をかけた。

「タリス島上陸の際のご差配、見事でした。」

「何を改まって・・・恐縮です。」

「実はその差配を拝見しまして、お願いがあります。」

「なんですか?」

「最近思っていたことなんですが、ナオ様の功績が凄すぎまして・・・」

「ええ。素晴らしいですよね。」

「ですので・・・我々が活躍してないと思いませんか?」

「はあっ!!!!?」

「本来なら、ナオ様を助けに我々が海賊島に乗り込み、賊をバッタバッタと切り伏せ、ヒロインたるナオ様を我らヒーローがお救いして、ヒロインがヒーローと結ばれるというのが筋ではありませんか?」

「はあっ!!?」

「しかし、ここでは私とブラハ殿下がおりますのでその後、ヒロインを巡って対決、という感じですよね。」

「はあ。」

「ですが、ナオ様は凄すぎます。ヒーローの救援待たずして、自分で全て解決してしまいました。」

「はあ。」

「然るに、我々の出番が全然ないということです!!」

「ばかなんですか?」

「これは由々しき問題です!
 このままでは新たな仲間のレルミタなる女性に、また出番を奪われかねません!
ですので、ブラハ殿下!共闘しましょう!!」

「・・・・・・」

「共闘しましょう・・・」

 斯くしてここに不純な動機による男の盟約が固く結ばれた。






 
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