34歳独身女が異界で愛妾で宰相で

アマクサ

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間章

34歳と皇帝と近づく距離

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 お祭りは大成功で幕を閉じ、未だに事あるごとにやれ楽しかっただのまたやりたいだのという言葉が皇都の至る所で飛び交っていた。
 遠く離れた街や村にも広く伝わった。
だが、尾ひれが付き、名前が変わってしまった。
 あかり祭と名付けたはずが、赤い淫魔に扮して子供を手懐けることを楽しむ祭、略してあか祭。
子供の厄除けと健康祈願のお祭になってしまったらしい。
「どうしてそうなる!」
 話を聞いて、ナオは頭を痛めた。


 ナオは赤祭で皇帝と踊った後、少しずつだが皇帝と話す機会を持てるようになっていた。

「陛下にお願いがあります。
 イスタリカ王国との国境警備隊が任期満了で戻りました。皇城に帰還してますので労いをお願いします。」
「陛下にお願いがあります。
 各都市が近年稀に見る発展を遂げております。
各領主が功績の報告に来ております。話を聞き、功績をお讃え下さい。」
「平民は常に不安を抱えております。
陛下自ら定期的に陳情を聞く機会を設けていただけないでしょうか。」

 ほとんどが業務連絡だが、以前のよそよそしい感じに比べると格段に良くなっている。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 年が明ける数週間前、ナオは皇帝に役務をお願いするために皇帝の執務室に来ていた。
元旦にこのオルネア帝国では人々は大神殿にお参りに行く風習はあったが、その他に特に行事はなかった。
 面白くないと思ったナオは政治的な意味でも必要だと、皇帝への参賀を計画する。

「陛下。
 元日の日に皇城門の上から臣民にお顔をお見せしてはいかがでしょうか。
陛下は過去あまり臣民にお顔をお見せになっていません。
崇めるべき人とナリをお見せしたほうが陛下のご威光も強まるかと思います。
 これからは陛下に帝国臣民の事をもっと知っていただきたいと思っております。
どのような者がどのような顔で陛下をお支えしているかを見るいい機会かとも思います。」

「余は支えてもらっているとは思っておらん。」

「いいえ。支えてもらっています。陛下は様々なお力で帝国を帝国足らしめています。その庇護の下ではありますが、陛下に税を支払っています。その税がなくなれば今の陛下の堕落した生活はできなくなります。」

「口を慎め。この不敬者め。」

「無理です。不敬者なんで。」

「開き直るな。」

「ようは共存しているということです。
どちらかが一方的に与えているというわけではないのです。
陛下が一方的に搾取しては帝国臣民は誰もいなくなります。そしたら搾取することもできなくなります。
 将来において、長く維持するためには大事な事というわけです。」

「言われずともわかっている。この痴れ者め。」

「申し訳ございません。不敬者で痴れ者で愚か者なものですので。」

「余の言葉を奪うな。このすっとこどっこい。」

「どこで覚えたんですかそのお言葉。」

 ナオは思わず、吹き出しそうになる。
皇帝はもちろん本気で罵倒しているわけではない。いや本気で言っていたはずが、ナオに躱され続けていつの間にかただの受け答えになっている。
皇帝とこんなやり取りをしているのを他の誰かが見たら間違いなく腰を抜かすだろう。

「とにかく、元日の昼、二時でよろしいですか。
臣民を前に陛下のお言葉を頂戴できればと思います。」

「貴様の言葉には悪意しか感じないがな。まあよかろう。
原稿は貴様が作っておけ・・・・いや、やはりいい。とんでもないことを言わされかねん。」

「さすがです、陛下。
私の言葉は半分は悪意、残りは作為でできております。すでに原稿もつくって来ていたのですが、残念です。」

 参考までに、とナオは皇帝の机の上に原稿を置き、退出した。

「こんな歯の浮くような原稿を読めるか!」

 一人になった皇帝はやはり原稿を見てしまった。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 年が明けて昼になり、皇帝参賀の時間がやって来た。
城門前にかなりの人が集まっている。城下の人々全てではないかと思うくらいにごった返している。
 ただ、君主に畏敬の念を持ってきているというよりは単純に興味本位で来ている人がほとんどだ。
 皇帝は今まで公の場に出て来なかったため、平民はほとんどが皇帝という人を見たことないし、謎に思っていた。

 城門の上に近衛騎士に囲まれて皇帝と、一緒にナオが登場する。

「「「「キャー!ナオ様ー!!」素敵!抱いてー!」」」

 ナオに向かって黄色い声援が飛ぶ。少し変なのも混じっているが。
ナオは声の方に笑顔を向け、手を振る。ふと目に入るが、抱いてー!とか言ったのはごついおっさんだ。

「・・・・・・」

「貴様、なかなか人気があるのだな。」

 微妙な雰囲気になっているナオに皇帝が話し掛けた。
隠しているが少し嫉妬しているようにも見える。

「ハハハハ。はい。
私は人気があります。私が皆さんを大切にしているが故に、皆さんも私を大切に思ってくれています。」

「貴様のその自信は全くどこから来るのか・・・」

「はい。私に怖いものはありません。ただ一人にだけ、畏敬の念は持っていますが。」

「どうした?頭でも打ったか?」

 ナオは少しだけ照れて、珍しく皇帝を煽ててみたがいつもの反撃を受けた。
だが、ナオはあまりに早かった皇帝の返しに顔を向けると、皇帝の口元が少しだけ緩むのを見た。

「ふん。貴様なりに余をおもんばかっての言葉であろう。
確かにここは余には敵地でしかないからな。居心地はよくはない。
 だが、こんなことはいつものことだ。心配は無用だ。」

 そう言うと皇帝は右手を臣民にかざした。
盾と不死鳥ミュジニーを象るオルネア皇家の紋章が入った外套が大きく翻った。

「帝国臣民よ!余がオルネア帝国皇帝ジョルジュ・ヴォギュエである!――――」

 これから臣民の生活を改善していく事を約束する、帝国の発展にともに尽くしていこう、そんな内容の素晴らしいスピーチだった。
 聴衆は聞き入った後、静寂に包まれる。
そこに、となりのナオが軽く拍手した。途端に聴衆から盛大な拍手が沸き起こる。
あまりの皇帝の変容に驚き、涙を流す人も散見する。

「さあ、陛下。お手を挙げて拍手に答えてください。それと、え・が・お。」

「うるさい。わかっている。」

 その日以降、皇都を中心に皇帝に関する話題が多く話されるようになった。
 あの冷血な皇帝陛下は宰相のおかげで変わり始めていると。

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