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第六章 正体
34歳の心を惑わすダメ押し
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ナオは私室に戻った。
ブラハはその後、何も言わなかった。
最後にまた明日話しましょうとだけ言い残して帰って行った。
ロレンツェがスープを用意してくれたが、胸がいっぱいで口をつけれないまま、そばに置いてある。
すでに室内を明るく照らすオイルランプは消していて、蝋燭の火だけユラユラと揺れている。
ナオは寝台に横たわっていた。
人指し指で唇に触れる。
まだブラハとの感触が残っている。
心がポカポカと温かい。
気づけば笑顔がこぼれている。
何も考えられない。
目を閉じればすぐにブラハが浮かんでくる。
『ああ、もう手遅れかな。
これは恋心だよね・・・』
冷静では全くないが冷静に考えようと努力はしてみる。
そして、相変わらず時間だけが過ぎていく。
ガチャガチャ。
不意にドアの鍵を開ける音がする。
そして誰かが部屋に入って来た。
「えっ!」
ナオは驚いたが声は殺した。
不審者なら起きているのを気づかれない方がいい。
不審者は迷わず、ナオの寝台に来た。
そして、背を向けて様子を伺おうとするナオに覆い被さる。
「きゃあ!」
ナオは思わず悲鳴を上げ寝台の端まで後ずさり、振り返って不審者を見た。
そして驚きのあまり、目を丸くする。
唯一、ナオの私室の鍵を持っている人物。
本人も忘れかけていたが、勝手に部屋に入ることが許されている人物。
「へ・・・陛下・・・。」
「なんだ?ずいぶんと驚くのだな。お前は余の愛妾であろう?」
入ってきたのはジョルジュ・ヴォギュエ皇帝だった。
顔を片肘で支えてしれっと寝台に寝転がっている。
「ど、どうして・・・部屋には来ないとおっしゃられてたのに・・・。」
「まあそうだが、もう一年近く経つからな。もうよいであろう?」
「それはそうですが・・・・。」
「それになんとなく、悪い虫が付きそうな予感がしてな。」
ドキッ。突然の皇帝の言葉にナオは心臓をえぐられたかのような衝撃を受ける。同時にブラハの顔も浮かぶ。
そのあとも、心臓の鼓動はドラムラインのように連続で叩かれている。
皇帝はカンで言っているのか、根拠があっていっているのかはまだわからない。
しかし、なんとかここは乗り切るしかない。ナオは頭をフル回転させた。
「陛下のカンはあまり期待できませんね。虫などおりませんよ。フフフ。」
どうだ、精一杯の余裕の笑顔だ。ナオは心で呟く。
「まあよい。」
それだけ言うと皇帝は端にいるナオの手を取り、引っ張った。
そして皇帝の手の中に抱き留められる。
「うむ。よい香りだ。」
ふわっと香った甘い香りに、皇帝はしばらく目を閉じて味わう。
まだ三十歳にはいかないが、皇帝は端正な顔立ちの上に渋い雰囲気がある。ブラハにはない大人の色気を持っている。
いかんせん女性の香りを愉しんでしまうなんて、エロい。
「はずかしい・・・。」
ナオは赤面した顔を背け、右の手のひらで顔を覆った。
さらに心臓の鼓動は早く鳴り響く。
「ククク。貴様が恥じらうか。なんともそそるものよ。」
皇帝は顔を隠すナオの手をどける。そして顔をナオの口元に近づけてきた。
蝋燭に浮かぶ二つの影は一つになる。
ナオは一日に二人の男性から唇を奪われることとなった。
「んっ・・・・」
「んんっ・・・」
「んんっ、待って・・・」
身体に力が入らなかったナオだが、なんとか皇帝の肩を持って身体を突き放した。
はあはあと、それだけで呼吸が荒くなる。
「どうした?」
皇帝が問うが、息が切れて話せない。
いや、頭の中が混乱して話せないという方が正しかった。
皇帝のことは嫌いではない。むしろ今では好意すら持っている。愛妾という立場だから、今こうしていることも当然だ。
だが、ブラハの事が頭から離れない。
ナオの頭の中に、ブラハの顔が、笑顔がグルグルと渦巻いている。
「す・・・すみません。きょ・・・今日は・・・。」
「今日はできません・・・。」
ナオは怯えた目で皇帝を見て言った。
皇帝は訝しげにナオを見ている。
「あの、その・・・今日は女の子の日なんです・・・。」
ナオはなんとか精一杯のウソを考えついた。
その言葉を聞いて、皇帝の目が輝いたように見える。
「ふははは。余はそれでもいいぞ。血は好きだからな。」
それでもいいと言われたらどうするか。そこまでは考えれなかった。
ナオは呆気に取られて、言葉を失ってしまった。
「冗談だ。初めてだからな。
少しは貴様の事も大事にしよう。」
鼻で笑った後、皇帝は起き上がって近くの椅子に腰かけた。
ナオは窮地を脱したことに、間をおいて気づいた。
「申し訳ありません。」
「気にするな。そうだな、それでは少し話しでもしよう。」
そういうと皇帝はテーブルの上にあるカラフェのワインをグラスに注ぎ、口をつけた。
ワインはスープと共にロレンツェが持ってきたものだ。
「まずいな、このワイン。よくこんなもの飲めるな。」
皇帝は眉間に皺を寄せ、下を出してうえっと言った。皇帝らしからぬ所業だ。
それを見てナオはフフッと微笑んでしまった。微笑んだおかげでリラックスした雰囲気に戻ることができた。
皇帝なりのアイスブレイクだったのも知れない。
「陛下。経費削減です。普段用に高いワインはだめです。
それに安いワインでも農家の方が一生懸命葡萄を育てているんですから。」
「経費が掛かるのは貴様が量を飲みすぎるからであろう?それくらい知っている。」
「ううっ。返す言葉もございません。
でも・・・私のことを知っていただけているのは嬉しいです。」
「ふん。貴様の大酒呑みの話は宮廷で知れ渡っている。酒で勝って海賊を懐柔したこともな。」
「フフフフ。褒め言葉として受け取っておきます。」
他愛のない会話に、ナオのいつもの調子が出てくる。心臓の鼓動も落ち着いてきた。
「ふん。やはりその方が貴様らしいな。」
ナオの方を見ている皇帝の目が穏やかになり、とても優しい笑顔を浮かべた。
「今・・・陛下・・・笑顔になられました・・・そんな笑顔、初めて見ました・・・。」
ナオは驚きのあまり、思いをそのまま口にしてしまった。
それもそのはず、高飛車な大笑いや人を小ばかにした鼻に掛けた笑い顔以外、皇帝の優しい笑顔など誰も見たことがなかった。そもそも皇帝自身、そんな風に笑ったことがあったのだろうか。
「余が今、笑っていた?いや、わからん。」
恥ずかしくなったのか、皇帝はナオから目を外した。顔は少しだけ赤みを帯びた。
「はい。間違いなく。陛下は笑顔になられてました。
初めて見る素敵な表情で、私はドキドキしてしまいました。」
皇帝の目を逸らした仕草に可愛さを覚えながら、ナオは攻め込んだ。
「ふん。馬鹿な事を言うな。そうやって人心を奪うのだろう?貴様のやり口はお見通しだ。」
あら残念と、おどけた表情をした後、ナオは微笑んだ。
その屈託のない笑顔を皇帝は横目で見つめた。
『そうか、貴様はやはり・・・』
ぽそりと皇帝は呟いた。
ナオにはその言葉が聞き取れなかった。
皇帝はその後、真剣な表情になる。
「ナオよ。貴様はマルゴ王女なのか?」
ブラハはその後、何も言わなかった。
最後にまた明日話しましょうとだけ言い残して帰って行った。
ロレンツェがスープを用意してくれたが、胸がいっぱいで口をつけれないまま、そばに置いてある。
すでに室内を明るく照らすオイルランプは消していて、蝋燭の火だけユラユラと揺れている。
ナオは寝台に横たわっていた。
人指し指で唇に触れる。
まだブラハとの感触が残っている。
心がポカポカと温かい。
気づけば笑顔がこぼれている。
何も考えられない。
目を閉じればすぐにブラハが浮かんでくる。
『ああ、もう手遅れかな。
これは恋心だよね・・・』
冷静では全くないが冷静に考えようと努力はしてみる。
そして、相変わらず時間だけが過ぎていく。
ガチャガチャ。
不意にドアの鍵を開ける音がする。
そして誰かが部屋に入って来た。
「えっ!」
ナオは驚いたが声は殺した。
不審者なら起きているのを気づかれない方がいい。
不審者は迷わず、ナオの寝台に来た。
そして、背を向けて様子を伺おうとするナオに覆い被さる。
「きゃあ!」
ナオは思わず悲鳴を上げ寝台の端まで後ずさり、振り返って不審者を見た。
そして驚きのあまり、目を丸くする。
唯一、ナオの私室の鍵を持っている人物。
本人も忘れかけていたが、勝手に部屋に入ることが許されている人物。
「へ・・・陛下・・・。」
「なんだ?ずいぶんと驚くのだな。お前は余の愛妾であろう?」
入ってきたのはジョルジュ・ヴォギュエ皇帝だった。
顔を片肘で支えてしれっと寝台に寝転がっている。
「ど、どうして・・・部屋には来ないとおっしゃられてたのに・・・。」
「まあそうだが、もう一年近く経つからな。もうよいであろう?」
「それはそうですが・・・・。」
「それになんとなく、悪い虫が付きそうな予感がしてな。」
ドキッ。突然の皇帝の言葉にナオは心臓をえぐられたかのような衝撃を受ける。同時にブラハの顔も浮かぶ。
そのあとも、心臓の鼓動はドラムラインのように連続で叩かれている。
皇帝はカンで言っているのか、根拠があっていっているのかはまだわからない。
しかし、なんとかここは乗り切るしかない。ナオは頭をフル回転させた。
「陛下のカンはあまり期待できませんね。虫などおりませんよ。フフフ。」
どうだ、精一杯の余裕の笑顔だ。ナオは心で呟く。
「まあよい。」
それだけ言うと皇帝は端にいるナオの手を取り、引っ張った。
そして皇帝の手の中に抱き留められる。
「うむ。よい香りだ。」
ふわっと香った甘い香りに、皇帝はしばらく目を閉じて味わう。
まだ三十歳にはいかないが、皇帝は端正な顔立ちの上に渋い雰囲気がある。ブラハにはない大人の色気を持っている。
いかんせん女性の香りを愉しんでしまうなんて、エロい。
「はずかしい・・・。」
ナオは赤面した顔を背け、右の手のひらで顔を覆った。
さらに心臓の鼓動は早く鳴り響く。
「ククク。貴様が恥じらうか。なんともそそるものよ。」
皇帝は顔を隠すナオの手をどける。そして顔をナオの口元に近づけてきた。
蝋燭に浮かぶ二つの影は一つになる。
ナオは一日に二人の男性から唇を奪われることとなった。
「んっ・・・・」
「んんっ・・・」
「んんっ、待って・・・」
身体に力が入らなかったナオだが、なんとか皇帝の肩を持って身体を突き放した。
はあはあと、それだけで呼吸が荒くなる。
「どうした?」
皇帝が問うが、息が切れて話せない。
いや、頭の中が混乱して話せないという方が正しかった。
皇帝のことは嫌いではない。むしろ今では好意すら持っている。愛妾という立場だから、今こうしていることも当然だ。
だが、ブラハの事が頭から離れない。
ナオの頭の中に、ブラハの顔が、笑顔がグルグルと渦巻いている。
「す・・・すみません。きょ・・・今日は・・・。」
「今日はできません・・・。」
ナオは怯えた目で皇帝を見て言った。
皇帝は訝しげにナオを見ている。
「あの、その・・・今日は女の子の日なんです・・・。」
ナオはなんとか精一杯のウソを考えついた。
その言葉を聞いて、皇帝の目が輝いたように見える。
「ふははは。余はそれでもいいぞ。血は好きだからな。」
それでもいいと言われたらどうするか。そこまでは考えれなかった。
ナオは呆気に取られて、言葉を失ってしまった。
「冗談だ。初めてだからな。
少しは貴様の事も大事にしよう。」
鼻で笑った後、皇帝は起き上がって近くの椅子に腰かけた。
ナオは窮地を脱したことに、間をおいて気づいた。
「申し訳ありません。」
「気にするな。そうだな、それでは少し話しでもしよう。」
そういうと皇帝はテーブルの上にあるカラフェのワインをグラスに注ぎ、口をつけた。
ワインはスープと共にロレンツェが持ってきたものだ。
「まずいな、このワイン。よくこんなもの飲めるな。」
皇帝は眉間に皺を寄せ、下を出してうえっと言った。皇帝らしからぬ所業だ。
それを見てナオはフフッと微笑んでしまった。微笑んだおかげでリラックスした雰囲気に戻ることができた。
皇帝なりのアイスブレイクだったのも知れない。
「陛下。経費削減です。普段用に高いワインはだめです。
それに安いワインでも農家の方が一生懸命葡萄を育てているんですから。」
「経費が掛かるのは貴様が量を飲みすぎるからであろう?それくらい知っている。」
「ううっ。返す言葉もございません。
でも・・・私のことを知っていただけているのは嬉しいです。」
「ふん。貴様の大酒呑みの話は宮廷で知れ渡っている。酒で勝って海賊を懐柔したこともな。」
「フフフフ。褒め言葉として受け取っておきます。」
他愛のない会話に、ナオのいつもの調子が出てくる。心臓の鼓動も落ち着いてきた。
「ふん。やはりその方が貴様らしいな。」
ナオの方を見ている皇帝の目が穏やかになり、とても優しい笑顔を浮かべた。
「今・・・陛下・・・笑顔になられました・・・そんな笑顔、初めて見ました・・・。」
ナオは驚きのあまり、思いをそのまま口にしてしまった。
それもそのはず、高飛車な大笑いや人を小ばかにした鼻に掛けた笑い顔以外、皇帝の優しい笑顔など誰も見たことがなかった。そもそも皇帝自身、そんな風に笑ったことがあったのだろうか。
「余が今、笑っていた?いや、わからん。」
恥ずかしくなったのか、皇帝はナオから目を外した。顔は少しだけ赤みを帯びた。
「はい。間違いなく。陛下は笑顔になられてました。
初めて見る素敵な表情で、私はドキドキしてしまいました。」
皇帝の目を逸らした仕草に可愛さを覚えながら、ナオは攻め込んだ。
「ふん。馬鹿な事を言うな。そうやって人心を奪うのだろう?貴様のやり口はお見通しだ。」
あら残念と、おどけた表情をした後、ナオは微笑んだ。
その屈託のない笑顔を皇帝は横目で見つめた。
『そうか、貴様はやはり・・・』
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ナオにはその言葉が聞き取れなかった。
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