34歳独身女が異界で愛妾で宰相で

アマクサ

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終章 選択

34歳が築いた力、集まる縁

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 皇城の門の周りでたくさんの人が集まっている。
不思議に思ったナオは近くの野次馬の人に尋ねた。外套のフードを深くかぶって、ナオだとばれないようにする。

「なんの騒ぎなんですか?」

「なんだ?知らないのか?
今、皇都の外にスタインベルグ王国軍とオルネア帝国軍が戦っているんだ。
なんでも、宰相のナオ様を渡せってことらしい。」

『やっぱり・・・。』

 ナオは心の中で呟く。仮説が現実になってしまった。

「でも、なぜあの人たちは皇城に詰め寄っているんですか?」

「いや、それがナオ様は投獄されているだろう?
今のオルネアの再興はナオ様のおかげだ。このままナオ様が処刑されるのを見てられない人が、スタインベルグ王子と思いを遂げさせてあげろって騒いでいるらしい。
 ナオ様がスタインベルグ王国に行けば戦いも終わるんだろう。」

 ナオはそれを聞いて人々の顔をよく見た。
孤児院の先生や子供たち、酒場で一緒に飲んだゴロツキ風な男。
誰もかれも見知った顔だった。百人は下らない。
 そんな人たちが処罰を恐れずに、ナオのために皇城に抗議に来ているというのだ。
 ナオは湧き上がる感情を抑えきれなかった。姿を見せてはいけないはずだった。

「城門にお集まりの皆さん!!ナオ・クレルモン=フェランです!!」

 ナオは野次馬の集団から前に出て、外套のフードを取って顔を晒す。

「「「ナオ様!!!」」」

 城門前が騒然となる。ナオに気づいた警備の衛兵が動き始める。

「みなさん!私の為にありがとうございます!私はこの通り大丈夫です!」

 ナオの無事な姿を見て、歓声が上がる。だが、その間にナオは衛兵に囲まれる。

「ナオ様!あなたは現在投獄中であるはず!連行いたします!」

 衛兵がナオに向かって叫んだ。
 数人の衛兵が、じりりと近づいてくる。

「ここは私の出番ですよね。」

 女性の声が聞こえた。
 キンッ。
サーベルが鞘の鯉口に当たり、金属音が響く。
次の瞬間には衛兵は意識を刈り取られ、地面に突っ伏していた。

「峰打です。安心して下さい。」

「ロレンツェ!」

 怪我も治り、爽やかな笑顔でナオを見るロレンツェ。ナオはうれしさを込めて名前を呼んだ。

「本当にタイミングよく、お使いに皇都に出ていた所でした。
 ナオ様に・・・やっとお会い出来ました。」

 ロレンツェはナオの元にはいないが、皇城内でメイドをしているようだ。
 よく見るとロレンツェはメイド服姿で、外套を羽織っていた。
 もちろん、帯剣などしているはずもなく、手のサーベルは衛兵のものを瞬時に奪ったようだ。

「私も会えて嬉しい。
だけど今は時間が惜しい!」

「わかっております。争いを止めに行かれるのですね!」

「うん!なんとかオルネアとスタインベルグの争いを止めないと!」

 そう言うと、近くにいた男性が口を挟む。ナオと酒を酌み交わしたゴロツキ風な男だ。

「ナオ様よお。しかし、どうやって戦争を止めるんだい?」

「それは・・・戦ってる両軍に割り込んで・・・。」

 ゴロツキ風な男は諦め顔で首を振り、手を広げてやれやれのポーズをした。

「今はかなり戦いが激しくなってる。
お互いに真正面からぶつかり合いの白兵戦だ。かなりの死傷者が出てる。
 今、ナオ様がノコノコ出てっても、巻き込まれて殺されるだけだ。」

「しかし、私がオルネア帝国軍に赴いて皇帝をお諌めするにも、会う前に多分囚われてしまいます。戦場に乗り込む他ないのです。」

 ナオは正直自分でも無謀と分かっていた。だが、もたもたしていればさらに被害が広がる。急を要するし、打てる手立てがない。
 危険を承知で単身乗り込むしか考えられなかった。

「だから・・・。」

 ゴロツキ風な男は言葉を続けながら、周りを見回す。

「俺たち住民も一緒に行ってやるよ!
数の力で両軍を威嚇できれば、話し合いの場ぐらい作れるだろ!?
なあ、みんな!?」

「おう!」「そうだ!そうだ!」「任せろ!」

 ゴロツキ風な男の言葉にけしかけられて、その場が一体感に包まれ、熱く燃え上がる。
 ナオも感極まるが、表情を強張らせる。

「ダメです!ありがたいご提案ですが、皆さんの安全を保障出来ません!」

 自分だけならともかく、無関係な人々を巻き込むことはできない。ナオはその場の盛り上がりに水を刺そうとする。

「なら、その安全は俺たちが保障するぜい。」

 ナオの背後から聞き覚えのあった声が聞こえる。ナオは咄嗟に振り向いた。

「よう。ナオ嬢ちゃん。」

 相変わらず軽いノリで手を上げる。タリスの軍隊長トレスだ。

「俺もいるからな。」

 サヴァディン群島の元・島頭のジャドも続く。

「二人ともどうして皇都に!?」

「ほら、あれだ。俺たち元海賊ってのは神出鬼没なんだ。」

 トレスはちょっとはにかんだ表情で言った。

「オヤジ。カッコつけんで、はっきり言ったらいいじゃん。
ナオ様が捕まったって聞いて、助け出そうとずっと皇都に駐留してたって。」

「うるせっ。バラすんじゃねえ!」

 トレスの隣にいる女性がツッこむ。
ナオはその女性を見た。
 水色の長い髪、焼けた小麦色の肌に、トレスと似たタトゥーが入っている。
 そして、露出の多い服。顔は、

「レルミタ!!」

 ナオは思わず、声を上げた。

「ナオ嬢ちゃん。似ているが、この娘はレルミタの姉のフィンカなんだ。」

 ナオは喜びの顔から一転、深い悲しみの表情になる。

「な~に~?
初めて会ったのにその顔はないでしょ?レルミタに怒られるわよ?」

 フィンカはそう言って、ナオに思いっきり笑顔を作って見せた。
 ナオはフィンカの笑顔を見た。それが最期に見たレルミタの笑顔と重なる。

「そうね。これは失礼したわ。よろしくね、フィンカ?」

 ナオも精一杯、作り笑顔をする。

「ダサい作り笑顔。ププッ。」

 フィンカは口を押さえてわざとらしく失笑する。姉妹でも性格は似ても似つかないらしい。フィンカはとびきり明るく、表情豊かだった。

「うぉほん!そろそろいいか?」

 誰かが口を挟む。だいぶ出番を待っていたらしい。

「ナオ殿!本来はオルネア帝国軍に加勢に来たのですが、私もナオ殿にご協力しましょう!」

「シャルル・グロ様!」

 声の主は西の国境都市ネルトを治めるシャルル・グロ公爵だった。気づけば、シャルルと共に武装した騎士が多くその場にいた。全員ネルトの紋章を胸に抱いている。

「先ほど、やっと皇都に参入りました。
着けば、この騒ぎ。この争いを止めれるに越したことはない。
なに、責任を問われたら、ナオ殿に脅されたことにしますので。」

「ふふっ。切れ者のシャルル様らしい。
本当に、本当にありがとうございます。これなら!」

 ナオは決意の表情で周りの人々を見渡した。周りの人々はしっかりとした眼差しを返してくれる。その場に集った人々の進言をありがたく受け取り、ナオは動き出す。



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