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第一章
~71~
しおりを挟む◆ユキノ
幸せな時間はあっという間に過ぎ去っていく
それでも明日も、明後日も、
これから先もずっとずっと変わらない当たり前の日々がやってくると信じていたのに
「・・・・・・・・え?どういう、事ですか?」
「言葉の意味通りよ。荷物を纏めておきなさい
あと、貴女の住む新しい住居は自分で探すのよ」
「なっ、なんで!?あ、いや、何故、ですか?何があったんですか?
そんな、急に城を出て行け、なんて・・・」
「このお城を、土地を売ったからよ」
「・・・・・え?な、なん、どういう事なのですかっ!?
お城を!?なんでそんな事っ!」
「ユキノさん、ハッキリ言うわ
この国は変わるのよ。今までの古い、王が権利を持つ時代では無くなったの
これからは漁業会が中心となって民が民を率いる新しい時代になるわ
王族の象徴である王城はもう要らないのよ」
「・・・は?・・え?どういう・・・・・」
訳がわからない
王が権利を持たなくなる?
民が民を率いる?
何を言ってるんだろうこの人は
「貴女がここに来てもう二年も経つわ
この国の事を知るのに充分な時間よ。
貴女がこの国の為に奔走してくれているのは良く知っているし、支援もして来たけれど
本当ならもっと速くにこの王城は取り壊される筈だったのよ
申し訳ないけれど、貴女ももう子供でも無いのだしこの国で生きるにあたって生活の場は自分で固めなさい」
「そんな・・・そんな事って・・・」
理解出来ない、したくない
だってこんな事ゲームでは無かった。
一人暮らし?確かに少し憧れていた事はあるけれど、こうやって人から強制されて初めて不安と恐怖に襲われる
どうすれば良いの?
どうやって住む場所を決めるの?探せば良いの?
一人暮らしってどうすれば良いの?何も、何もわからない
でもそれを目の前の女性に尋ねるのは怖かった。
そんな事もわからないのか、と責められる気がして怖かった。
嫌だった、呆れられるのは嫌
嫌われるのは嫌
怒られるのは嫌
頼れる大人は居なかった。
「どうすれば良いのかわからないの・・・」
相談したのは、ミルウェッチ・クロウラーさん
私がこの世界に来て初めて会った人で、色々と世話をしてくれた人
歳上の落ち着いた神官と言う設定なだけあり大人の目線で未だ子供な私を見てくれる人
私はまだ十八歳の子供だ。
勿論物事の分別はつくし、それなりに社会と言う物を知ってはいるけれど、本来なら高校に通っているはずの、親の保護下にいるべき存在だ。
でもこの世界ではそんなの言い訳にもならない
この世界には成人式なんてものは無いし、子供と大人の線引きも曖昧だ。
この世界に来たばかりの頃にどんな些細な事でも丁寧に、面倒臭がらずに相談に乗ってくれたのはミルウェッチさんだけだった。
私にとってミルウェッチさんは頼れるお兄さん的なポジションだったから、一番に相談しに来たのだった。
「そうですか・・・確かに、いきなり一人暮らししろと言われても、難しいですよね」
「・・・・うん、色々考えちゃうの」
私が生きてた世界では、それこそ家賃とか、光熱費、水道代、ガス代、あとはローン?とか固定資産税?とか、とにかく沢山お金がかかるし、それぞれがそれぞれ支払う場所とか書類だとか違うらしいし
詳しい事は知らないけれど、面倒な手続きが必要なんだろう事は何となく分かる。
この世界では?どうすれば良いのか、何をすれば良いのかサッパリ何もわからない
わからない事は怖い事だ。
ゲームの内容なら思い出せるし、誰にどう答えれば良いのかも自信があるけれど
この国の経済だとか、情勢だとかは何も知らない、ゲームにはそんな事一切出てこなかった
ゲームの通りにすれば良いと、そう信じて疑わなかったから私は今のいままでこの国の事を本当の意味で知ろうとしなかった。
王妃様から城を出て行けと言われて、就職先だとか、不動産だとかを調べ初めてやっと、この国が漁業会とやらに乗っ取られている状態だと気付いた。
もう、恋愛ゲームなんてしている状況じゃあ無い
何よりも優先するべきは私自身だ。自分の身は自分で守らないといけない
そういった事をミルウェッチさんに言うと、
「わかりました。力になりましょう」
と言ってくれて
就職先に困っているのならまず学院に通って得意分野を探し伸ばす事、学院に通う人達伝に仕事を紹介して貰うのが一番手っ取り早い事を教えて貰った。
そして、
「・・・その、ユキノさん
余りこう言う事は言うべきでは無いのかも知れませんが、今言わなければ後悔しそうなので、伝えておきますね。
私は、貴女の事が好きです。レオクリスより私を選んで下さい
このままでは、貴女は幸せになれない」
「・・・・・・え、その・・・困ります・・」
ま さ か の
えっ、なんで??
私ミルウェッチさん攻略してないよね?
確かに少し好感度上げるくらいの会話はしたけどそれくらいで?
なんで告白されてるの??
「レオクリスはもう王子でも何でも無い、身分も立場も無くした只の人です。
あいつと結婚しても得る物など何も無い。貴女もわかっているでしょう?」
「・・・私、私・・そんな理由で、レオクリス様を好きになったんじゃ、ありません・・」
半分嘘で半分本当だ。
ゲームで好みのタイプだったから攻略しようとしたってのが六割くらいで
あとの四割くらいは打算だ。
愛はお金では買えないなんて言うけれど、でも貧乏人と結婚するよりかは、少しでも裕福な人と結婚したいと思うのは、私だけじゃないはずだ。
王子様であるレオクリス様と結ばれれば、私の将来は約束された安泰なものになるに違いないって思いは、確かにあった。
でも、それを口にして肯定なんてしてしまったら、私タダの金と身分目当ての最低な女じゃないか
それに、王子様じゃなくなったと聞いても、私のレオクリス様に対する好意は消えなかった。
だから、多分そういう事なんだと思う
「今はまだ、良いです。
でも、考えておいて下さい」
「・・・・・」
予想外過ぎる展開に私は考える事を放棄したくなる
でも、それは出来ない
私にはまだやるべき事が残っていて、この国を守らなくちゃいけなくって、
この国で本当の意味で一人で生きていく方法を見つけなくちゃいけなくって、
レオクリス様の事は好きだけど、ミルウェッチさんの優しさに甘えたいって気持ちもあって
私はどうすれば良いんだろう
もうここは私の良く知るゲーム世界とは言えない、別物になってしまっている。
これから起こる事がわからない事が、こんなにも不安だなんて思わなかった。
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