売れない作家と箱入り娘

clome

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初めての

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 軽く気を失ったあと、目を覚ましてからが大変だった。

 「ちょっ! 妹! 離れてっ。それとさっき着てた服を着ろ! 服!」
 「なんで?」
 「何でってっ、そりぁ、こっちが色々と気を使うからだよっ!」
 「おにぃちゃんはレイに服を着て欲しいの?」
 「当たり前だよっ! もう何が何なんだっ」

 妹、名前をれいという娘は羞恥心や常識が欠けているようで、服を着せるのも精神をすり減らし、気疲れする有様である。

 因みに段ボールの中には他に目新しいものは無かった。
 これは何かの冗談か、それとも現実か。
 未だはっきりとしないけれど、この娘に聞いてみれば分かるかもしれない。

 「取りあえず、妹よ。どこから来た? そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
 「分かんない。気付いたらおにぃちゃんがいた」

 期待した俺が馬鹿だった!
 この妹(仮)曰く、段ボールから出てくる以前の記憶は無いという。
 それと、俺はどうあっても〝おにぃちゃん〟らしい。

 「そうか、つまり零…ちゃんは記憶喪失で、帰り方が分からないと」

 これには困った。それに、一緒に手渡された書類も気になる。
 行政的に事実、零というこの娘は〝妹〟として俺の家族になっていた。
 俺の頭が腐って無ければ、昨日まで妹なんて居なかったはずだ。
 警察に連絡するのは早計か?

 「よし、明日市役所に行ってみよう。それまでは零ちゃん、今日はここに泊まるか? それとも、身の心配があるなら一泊分くらいお金を出して良い」

 あの二億八千万円という額については頭から切り離す。
 勿論、振り込まれていたとしても怪しい金を使うのは悪策だろう。

 「おにぃちゃんと一緒にいる」
 「そうか。よしっ、なら準備しようか。零ちゃんは料理とかできる?」
 「分かんない。料理ってなに?」

 料理が分からない? 流石に違和感を感じる。
 分からないならしょうがない。教えてあげればいいだけだ。

 「一緒に作るか? 案外楽しいぞ」
 「うん、おにぃちゃんと作る!」


 台所に来てみたものの、先ずは何から教えようか。

 「零ちゃん、料理をするときは手を洗うんだよ」
 「手を洗う?」
 「そう、石鹸をつけて水で手を洗い流すことだよ」
 「どうして手を洗うの?」
 「人が口に入れたら体に悪いものが付いてるからね」
 「悪いもの、分かった!」

 こうやって話していると、小さな子供に物事を教えてあげる気分になる。
 けれども、零ちゃんの見た目は14、15歳あたりだと思う。
 零ちゃんは物覚えが速い。
 一度教えたら記憶し、その分だけ成長する。

 「零ちゃんセンスいいね。じゃあ、こっちのジャガイモも剥いてくれるかな?」
 「分かった!」
 「俺は肉炒めるから玉ねぎも薄切りしててくれる? 」
 「んっ」

 こうして出来た今日の晩ご飯はカレーだ。
 大量に作れて、冷凍で作り置き出来るのがポイント高い。それに、おいしい。

 「零ちゃん、この皿向こうに持っていける?」
 「机?に置いたらいいの?」
 「そうそう。熱いから気をつけてね~」
 「熱い? …熱いっ」
 「はっはっは。これ、このミトン使って持っていきな~」

 零ちゃんには分かる言葉と分からない言葉があるらしい。
 只の記憶喪失なのか、俺には分からない。
 謎多き妹(仮)ではあるが、教えたことを吸収し、素直ないい子だ。

 「じゃあ、食べようか!」
 「食べるぅ!」
 「頂きますっ」
 「? いたーだきまぁすっ」
 「うん、おいしいっ。初めての料理でここまで出来るの凄いよ零ちゃん!」
 「おぃしぃ~。ほんと?」
 「ほんとほんと。えらいっ」
 「んふふ~」

 それから零ちゃんは二杯目をおかわりし、ダウンした。
 今はうめきながら横になって休んでいる。

 いつもはテレビを見ながら一人で食べるけれど、久しぶりに誰かと食べるご飯は楽しい。

 「じゃあ、零ちゃん、俺はお風呂の準備してくるね~」
 「ぉふろ?」
 「…………………………まさか、な」

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