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自販機でジュースを受け取り、生徒会室へ戻ろうとしたとき、目の端にうっとうしい赤髪が映った。
反射的に踵を返そうとするが、その判断は遅かった。向こうの方が一歩早く距離を詰めてくる。
「カイルじゃないか。こんなところで何してるんだい?」
気味の悪いほど整った笑みを浮かべ、ウィランは俺の顔を覗き込んできた。距離が近い。わざとだ。
思わず眉をひそめる。
「言わなくてもわかっているくせに……ウィラン」
つい悪態が口をつく。
彼は一つ上の先輩で、なぜかいつも俺の行動を把握している。監視してるんじゃないかと思うくらい、会いたくないときほど現れる。しかも毎回、からかうような態度だ。
「そうだね、生徒会長のお使いかな?」
分かりきったことを、さも今思いついたかのように言ってくるのが腹立たしい。
「だったら何だっていうんだよ」
昔からの付き合いがあるせいで、つい素が出る。
学園ではチャラ男の仮面をかぶっているのに、ウィランの前ではそれがうまく機能しない。
こいつといると、取り繕っていない自分が引きずり出される気がして、どう接すればいいのかわからなくなる。
「いいや、カイルが悪い目にあっていないならよかった。もう少しで寮の対抗戦もあるしね」
そう言って、何の躊躇もなく俺の頭に手を伸ばし、軽くなでてきた。
反射的に肩が跳ねる。
ふと、思考がそちらへ引き戻される。
寮の対抗戦——入学してすぐに行われる、全寮制男子校の伝統行事。
この学園で現金代わりに使われているポイントを賭け、魔法と武力で寮同士がぶつかり合う。
だが、始まる前から問題は山積みだ。少しでも有利に立とうと、脅迫や暴力、裏取引が横行し、すでに被害も出ている。
「俺は力あるから余裕だし」
そんなことを言いながら、わざと興味なさげにあさっての方向を見る。
だが次の瞬間、顎をつかまれ、強引に顔を向けられた。
「いいかい。ここには狼がいっぱいいるんだ」
低く、静かな声。
「気づかないうちに、食われちゃうよ」
親指が唇をなぞる。
一瞬、思考が止まり、心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
「うっ、うるさい! そんなこと言われなくても分かってるしっ!」
精一杯の虚勢。
子どもみたいな言い返しだと分かっていても、引くわけにはいかない。
ウィランは小さく息を吐き、俺から手を離した。
「そうだったら、どんなにいいか……」
ぼそりと呟かれた言葉が、うまく聞き取れない。
「……なに?」
問い返すと、彼はいつもの軽薄な笑顔に戻っていた。
まるで、さっきの一瞬がなかったかのように。
「寮は違うけど、お互い頑張ろうね」
そう言って、ひらりと手を振り、そのまま去っていく。
赤髪が人混みに紛れて見えなくなるまで、俺はその場から動けなかった。
「……ちっ、なんなんだよ……」
心の中で小さく毒づく。
だが、不思議と胸の奥がざわついている。
心配されるのは、正直、慣れていない。
それでも——
ほんの少しだけ、悪くない気分だった。
反射的に踵を返そうとするが、その判断は遅かった。向こうの方が一歩早く距離を詰めてくる。
「カイルじゃないか。こんなところで何してるんだい?」
気味の悪いほど整った笑みを浮かべ、ウィランは俺の顔を覗き込んできた。距離が近い。わざとだ。
思わず眉をひそめる。
「言わなくてもわかっているくせに……ウィラン」
つい悪態が口をつく。
彼は一つ上の先輩で、なぜかいつも俺の行動を把握している。監視してるんじゃないかと思うくらい、会いたくないときほど現れる。しかも毎回、からかうような態度だ。
「そうだね、生徒会長のお使いかな?」
分かりきったことを、さも今思いついたかのように言ってくるのが腹立たしい。
「だったら何だっていうんだよ」
昔からの付き合いがあるせいで、つい素が出る。
学園ではチャラ男の仮面をかぶっているのに、ウィランの前ではそれがうまく機能しない。
こいつといると、取り繕っていない自分が引きずり出される気がして、どう接すればいいのかわからなくなる。
「いいや、カイルが悪い目にあっていないならよかった。もう少しで寮の対抗戦もあるしね」
そう言って、何の躊躇もなく俺の頭に手を伸ばし、軽くなでてきた。
反射的に肩が跳ねる。
ふと、思考がそちらへ引き戻される。
寮の対抗戦——入学してすぐに行われる、全寮制男子校の伝統行事。
この学園で現金代わりに使われているポイントを賭け、魔法と武力で寮同士がぶつかり合う。
だが、始まる前から問題は山積みだ。少しでも有利に立とうと、脅迫や暴力、裏取引が横行し、すでに被害も出ている。
「俺は力あるから余裕だし」
そんなことを言いながら、わざと興味なさげにあさっての方向を見る。
だが次の瞬間、顎をつかまれ、強引に顔を向けられた。
「いいかい。ここには狼がいっぱいいるんだ」
低く、静かな声。
「気づかないうちに、食われちゃうよ」
親指が唇をなぞる。
一瞬、思考が止まり、心臓が嫌な音を立てて跳ねた。
「うっ、うるさい! そんなこと言われなくても分かってるしっ!」
精一杯の虚勢。
子どもみたいな言い返しだと分かっていても、引くわけにはいかない。
ウィランは小さく息を吐き、俺から手を離した。
「そうだったら、どんなにいいか……」
ぼそりと呟かれた言葉が、うまく聞き取れない。
「……なに?」
問い返すと、彼はいつもの軽薄な笑顔に戻っていた。
まるで、さっきの一瞬がなかったかのように。
「寮は違うけど、お互い頑張ろうね」
そう言って、ひらりと手を振り、そのまま去っていく。
赤髪が人混みに紛れて見えなくなるまで、俺はその場から動けなかった。
「……ちっ、なんなんだよ……」
心の中で小さく毒づく。
だが、不思議と胸の奥がざわついている。
心配されるのは、正直、慣れていない。
それでも——
ほんの少しだけ、悪くない気分だった。
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