花の名前で、さよならを

鳴海

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4話 カキツバタ

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――幸運が、あなたに訪れますように。

このカキツバタは、君への贈り物です。
今までありがとう。
君のことは、一生忘れません。



「えっと……春風瑞穂です。合コンは初めてなので、よろしくお願いします」

少し震えた声でそう言った彼女に、男たちがざわついた。

「なぁ、可愛くね?」

正直、俺は最初そこまで興味がなかった。
男慣れしていなさそうで、場違いな感じもする。
きっと、友達に無理やり連れてこられたんだろう。

席替えで、俺は瑞穂の隣になった。

「……よろしく」

「こ、こちらこそです!」

明らかに緊張している。

「同い年なんだし、敬語いらないよ」

「あ、はい……あ、うん」

会話が途切れる。
何か話さなきゃ。

「趣味とかある?」

我ながら、無難すぎる話題だと思った。

「えっと……音楽を聴くのが好きかな」

「へぇ。どんなグループ?」

「インプレスっていうバンドが好きなんです! ボーカルのユウキの声が本当に良くて……!」

その瞬間、瑞穂の目が輝いた。
さっきまでの緊張が嘘みたいに、言葉が溢れる。

思わず、笑ってしまった。

「あ、ごめんなさい。つい夢中になっちゃって……」

「いいよ。そういうの、嫌いじゃない」

「え? ロック系って言うと、みんなつまらなさそうにするから……」

「ギャップあっていいじゃん」

「それ、褒めてる?」

「もちろん」

「じゃあ、ギャップ萌えってことで」

その笑顔を見た瞬間、
最初に抱いていた印象は、全部消えた。

「なんて呼べばいい?」

「瑞穂でいいよ」

「じゃあ俺は、弘樹で」

「うん、弘樹」

その日、連絡先を交換した。
後日、瑞穂に誘われてライブに行き、
俺はそこで決めた。

「俺、瑞穂のことが好きだ。付き合ってください」

「……うん。こちらこそ、よろしくね」

瑞穂は、今までで一番可愛い顔で笑った。

気づけば、君の存在は俺の毎日になっていた。

大学を卒業し、就職してから、俺は瑞穂にプロポーズをした。
瑞穂は泣きながら、何度も「ありがとう」と言ってくれた。

結婚して、三年。

仕事から帰ると、瑞穂がリビングで倒れていた。

慌てて救急車を呼び、病院へ。
検査結果は、残酷だった。

癌。
しかも、全身に転移している。

余命は、三ヶ月。

「私ね……三ヶ月しか生きられないんだって」

泣きそうな顔で、無理に笑う瑞穂。

「無理しなくていい。泣きたいときは、泣け」

その瞬間、瑞穂は声をあげて泣いた。
俺は、ただ抱きしめることしかできなかった。

「子供、作れなくてごめんね……」

「今は、そんな話しなくていい」

もっと早く気づいていれば。
後悔ばかりが、胸を締めつける。

俺は仕事を早く切り上げ、毎日病院に通った。

二ヶ月後、瑞穂はほとんど食事も取れなくなった。
身体は痩せ細り、見るのが辛かった。

そしてある日、家に荷物を取りに帰ったとき、
病院から電話が来た。

嫌な予感は、当たった。

俺が駆けつけたとき、
瑞穂は、穏やかな顔で眠っていた。

「……間に合わなかった」

看護師さんが、小さな封筒を差し出す。

「旦那様に、これをと……」

震える手で、封を開いた。



私の最愛の人へ

この手紙を読んでいるってことは、
私はもういないのかな。

弘樹に出会えて、本当に幸せでした。
一緒に過ごした時間は、全部宝物です。

子供を作れなくて、ごめんね。
でも、いつかまた大切な人ができたら、
幸せな家庭を築いてね。

それでも、
私のことを忘れないでいてくれたら嬉しいな。

弘樹の幸せが、私の幸せです。

さようなら。
そして、ありがとう。

瑞穂より



「……瑞穂、ありがとう」

まだ残っている温もりに、顔をうずめる。

「俺の幸せは、瑞穂のものでもあるから」

そう呟くと、
瑞穂が微笑んだ気がした。

瑞穂が、天国でも幸せでありますように。

俺は、幸せになるよ。
君の分まで。

さようなら。



fin



カキツバタの花言葉

「幸運は必ず来る」
「幸せはあなたのもの」
「贈り物」
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