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5話 ビデンス

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私は、あなたに出会えて本当によかった。

私は、もう1度あなたを愛します。


「もうすぐ死ぬんかな?」

私は、癌でもうすぐ死ぬ。

「だろうね」

隣の病室の悠太がひょこっと顔をだす。

いきなり出てきた悠太にびっくりして小さめな悲鳴をあげる。

「ちょっと、脅かさないでよ!」

「そっちが勝手にびっくりしたんだろ!」

「はぁ?あんたが急にでてくるから!」

そんなこんなで私と悠太は言い合っていると、いつもの看護師さんに怒りの鉄槌をくだされる。

「なんで、あなた達はいつも喧嘩するの!ここは病院なんだから静かに!」

「「はぁーい」」

私と悠太は、じんじんする頭をさする。

「また、あんたのせいで怒られたじゃない!」

「はぁあ!何で俺のせいなんだよ!」

「だから、静かに!」

「「はい」」

看護師さんの一声で病室中が、いや病院中が静かになる。

そんだけ、この看護師さんはとても怖いので有名。

「静かにしてるのよ」

看護師さんがそう言い、病室をでてった瞬間に、私と悠太は顔を見合わせ笑いはじめる。

「だからあいつ結婚できねーんだよ」

「だねー、いつも顔こわいもんねー」

「何か言いましたか?」

看護師さんが、すごい目で睨みつけられる。

看護師さんの顔を見て、ビクッとなってしまう。

「「す、すみません」」

こわすぎて、声も態度も小さくなってしまう。

看護師さんが巨人で、私達が普通の人間みたいな感じ。

「分かればよろしい」

看護師さんは、踵を返して仕事に戻っていった。

「今度こそ仕事に戻ってったね」

「ああ。今までで1番ヤバイ顔してたよな?」

「うん。してたしてた!」

「だよな!」


そんなこんなで、悠太と話しているとあっという間に夜になる。

「今日も1日あっという間だったね」

私は、窓から月を見ている悠太に話しかける。

「そうだな...」

「私達、あと何日生きられるのかな?」

「1ヶ月くらいじゃないか?」

「そっか...」

ああ、なんで私と悠太が病気にならないといけなかったんだろう。

「俺さ、夢があるんだ」

悠太は、月を見ているから顔が見えない。

悠太がどんな表情で話しているのかも分からない。

「悠太の夢は何なの?」

「月に行くこと」

「だから、いつも空を見てるんだ!」

「ああ。まあ、叶わないけどな」

一体悠太は、どんな表情をして話してるんだろうか。

見たいけど、見てはいけないなと思った。

「そんなことないよ。生まれ変わったら、なればいいじゃん!」

私がそう言ったら、窓越しで悠太が笑ったのが見えた。

「そうだな。そうゆう考えもあるのか」

悠太はそう言って、くるっと私の方を向いて真剣な顔をする。

「美紅の夢は?」

「え?私の夢?そんなのないよ...」

「あるんだろ?俺は知ってるよ。いつも美紅を見てたから」

「悠太は分かっちゃったか...」

「そんなの分かってるに決まってるだろ?何年の付き合いだと思ってんだよ」

「そうだね。私の夢はね、洋服のデザイナーになりたかった。だけど、生まれ変わったらデザイナーになるつもり!」

「じゃあ、2人で夢叶えような?」

「うん!じゃあ、約束ね?」

「ああ」

私と悠太は泣きながら、ゆびきりげんまんをした。

そのまま、2人で抱きしめあった。

そうでもしないと、2人とも壊れてしまうから。

誰かの温もりがないと、心も体も死んでしまうよ。



私と、悠太は一緒の病室にしてもらった。

看護師さんにお願いをしたら、快く引き受けてくれた。

いつもは怖い看護師さんだけど、本当は優しい看護師さん。

私達のことをちゃんと想ってくれる看護師さん。

私達を腫れ物扱いをする人達が多いけど、看護師さんの小鳥遊さんは違ったんだ。

小鳥遊さんと、私達の担当のお医者さんに死ぬ前にお手紙でも書こうかな?

もちろん、お母さんとお父さんにも。

私は、1人っ子だからお母さんとお父さんには寂しい思いをさせてしまう。

お母さんは、自分のせいだと責め続けていた。

お母さんのせいじゃないのに。

だから、お母さんとお父さんにも「ありがとう」のお手紙を書こうと思う。

想いをのせて。

悠太には、私の気持ちを直接言うつもり。

悠太に好きって伝えたい。

ありがとうって伝えたい。

色んなことを伝えたい。

また、会おうねって伝えたい。


「頼まれたお花買ってきたわよー」

私の大好きなお母さんが私がリクエストしたビデンスの花を買ってきてくれた。

「ありがとう」

私は、起き上がる気力がないため寝たきりになってしまう。

「美紅の好きな雑誌買ってきたぞ!」

大好きなお父さんが、私の好きなファッション雑誌を買ってきてくれる。

「いつもありがとう」

うまく笑えなかったけど、伝わったと思う。

それから、お父さんは私に雑誌を見せてくれた。

1ページずつ丁寧にめくってくれた。

ああ、私は幸せものだ。

最初は、どうして私が癌にならないといけなかったの?って神様を僻んでいた。

だけど、今なら神様にありがとうって言える。

ありがとう神様。

だって、私が癌にならなかったら看護師の小鳥遊さんにも出会えなかったし、入院しているおじいちゃんとか、おばあちゃんにも会えなかったから。

もちろん悠太にも出会えなかった。

たくさんの人と出会わせてくれてありがとう。

本当にありがとうございます。

「ねぇ、悠太?」

私と同じく寝たきりの悠太に話しかける。

「ん?」

悠太は、こっちを振り向いてくれる。

昔よりも、やつれてしまっていているけど私にとって悠太は世界で1番カッコよく見える。

「好きだよ」

そう言ったら、悠太は朗らかに笑う。

その笑顔に胸が引き締められる。

「知ってる」

意地悪な笑みで返してくる。

その意地悪な笑みも好き。

「悠太は?」

「愛してる」

照れて、こっちを向いてくれないが耳が赤くなっているのを見て、笑ってしまう。

「じゃあ、私も愛してる」

「おう」

段々と口数が減っていく悠太。

死がだんだんと近づいていく。

「じゃあ、これプレゼント」

私は、悠太の隣にある棚の上にビデンスの花を置く。

「綺麗だな」

「でしょ?」

「ああ」

「ビデンスの花言葉はね、「もう1度愛します」だよ」

「ふーん」

「もうちょっと反応してよ!まあ、別にいいけどね。これだけは言うね?」

私は、一息ついて口をひらく。

「生まれ変わっても、私はあなたを愛します」

「そうだな。運命が本当にあるなら、会えるよな?」

「うん!きっと!いや、絶対会える!」

私が、断言したら悠太はそのまま息を引き取った。

ピーっと、機械音が響く。

さようなら悠太。

ありがとう悠太。

また会おうね?

私も、目をつぶった。

また、ピーっと機械音が病室中に響きわたった。




~100年後~

「おぎゃー、おぎゃー!」

2人の赤ちゃんの元気な声が病院中に響きわたる。


美紅と悠太が、命を経った病院で。


また、幼なじみから始めよう。



fin




ビデンスの花言葉

「もう1度愛します」
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