スパダリ社長の狼くん

soirée

文字の大きさ
34 / 130
第二章

十四話


 腰を抑えて会議室に顔を見せた瞬の首筋を一瞥して、槙野が呆れたような顔をする。
「昨晩は随分と可愛がられてしまったようですね」
 槙野のセリフに瞬が真っ赤になる。分かりやすすぎる反応につい口元が吊り上がってしまう。
「な、なんで……」
 消え入りそうな声で尋ね返した瞬に、槙野が首筋を指差した。ばっと瞬が手のひらで痕を隠す。
「わざとですよ、それ。社長もなかなかに大人げのないことをしますね……昨日の挨拶であなたの株は急上昇ですから気持ちはわかりますが」
 泣きそうな顔をする瞬に、本人は気づいてもいない現状を教えてやる。自衛させなくてはいけないからだ。
「素直で可愛い好青年、顔もスタイルも申し分なし。今やあなたを狙っている人間は社内にごまんといます。それも女性だけではない。社長も焦るでしょう」
「ええ……?」
 困惑を滲ませる瞬の鈍感さに嘆息する。隙がありすぎて危なっかしい事この上ない。忍もそれはこれくらい分かりやすいマーキングはしておきたくもなるだろう。
「そんな、俺……そんなつもりじゃ」
「まぁ、そこまで分かりやすい所有印を刻まれているあなたに手を出す人間はそんなにいないとは思いますが、気をつけてくださいね。私もできるだけ目は光らせておきますが」
「ありがとうございます……」
 信頼し切った目をする瞬にしれっと言ってやる。
「あなたの痴態を知っている人間はそれほど多くない方が私も気分がいいですから」
 再度瞬が真っ赤になる。意地の悪い笑みで見返した槙野も今となってはなぜ忍があれほど瞬にこだわるのかがよく分かる。
「大丈夫です。私は社長へ忠誠を誓っている。あなたに手は出しませんし、可能な限り守ります。ただ私も100%危険がないとは言い切れない現状ですから、最低限の自衛はしましょう。それだけですよ」
 頷いた瞬を座らせ、照明を落とす。プロジェクターで映し出した資料をもとに、瞬に会社の創立理念からグループの傘下企業などを教えていく。
 予想よりもはるかに大きな規模の会社であることを悟った瞬が忍への尊敬の念を瞳に宿らせるのを見守りながら、分かりやすく競合企業なども解説してやる。瞬の集中力がどれだけ保つのか観察もしながら、一時間半ほどの講義を終えた。
「どうです。こうして色々と知るとあの方の背負うものもわかるでしょう?」
頷いた瞬がまた槙野のかつてのセリフを気にしているのを見てとった槙野がため息をつく。
「いじめるために言っているのではないですよ。あなたはこれから社長の右腕としてともにこの会社を支えていく人材です。ほら、自信を持ちなさい」
背を叩かれた瞬が腰を抑えて呻き声を上げる。
「ああ、すみません。質問はありますか? なんでも答えますよ」
そう言われても、あまりにも想像とかけ離れていた現実に言葉が出てこない。槙野が面白そうな顔をした。
「別に会社について真面目な質問をしろと言っているわけではありません。社長についても知りたいことがあればお答えしますよ。何をきっかけにしても興味が湧くのであればそれでいいのですから」
「あいつは何でこんな……」
「こら。会社の中では社長と呼ぶ、最低限のマナーですよ」
「あっ……はい……。その、社長はどうしてあの歳でこんな大きな会社を……その、なんて言うのか……俺だったら絶対無理だから……」
そうですね、と槙野が視線を流す。
「もともと、あの方の歳でこれほど大きな会社を設立して成功する実業家はほとんどいません。会社を設立した起業家が10年後に生き残っている確率は7%にも満たないんです。あの方には天性の経営者としての才能と、学生の頃から築き上げた財力があった。学生起業家でもあったんです。あの方の立ち上げた会社はSTグループで三社目です。先の二社での失敗も踏まえているのでしょう。計画し、実行するというそれだけでさえ、何度も失敗する人間とそうではない人間がいます。あの方は後者だ。それにあの方の人を惹きつける人間としての魅力はあなたも承知なのでは?」
忍という人間のことを自分はほとんどわかっていなかったのだと瞬がめげた顔をする。あまりにも世界が違う。たまたま偶然が彼と瞬を巡り合わせただけで、本来ならば関わることもなかっただろう……。
「俺……俺なんかがそんな凄い人の役に立てるのかな……」
自信をさらに失ったような瞬の姿に槙野が苦笑をする。素直過ぎて扱いが難しい。
「さあ、どうでしょうか。あなた次第です。憧れた人に近づくのか、勝手に自信を喪失して距離を取るのか。あなたはまだ何もしていないでしょう。可能性を捨てるのは早すぎるんじゃないですか?」
そのままいくつか瞬の質問に答えてやり、またプロジェクターをつける。
「さぁ、頑張りますよ。あと一時間半教えたら昼休憩にします。社食に行ってみますか」
顔を引き締める瞬の肩を軽く叩き、次の講義へと移った。
感想 8

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

待てって言われたから…

ゆあ
BL
Dom/Subユニバースの設定をお借りしてます。 //今日は久しぶりに津川とprayする日だ。久しぶりのcomandに気持ち良くなっていたのに。急に電話がかかってきた。終わるまでstayしててと言われて、30分ほど待っている間に雪人はトイレに行きたくなっていた。行かせてと言おうと思ったのだが、会社に戻るからそれまでstayと言われて… がっつり小スカです。 投稿不定期です🙇表紙は自筆です。 華奢な上司(sub)×がっしりめな後輩(dom)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!