スパダリ社長の狼くん

soirée

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第五章

十四話

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 瞬に抱きついて離れない女性が夢見るように語ったのは、おおよそ父親への自らの研究成果の報告だった。おっとりとした少女のような面影で、褒めて欲しいと言わんばかりに何度も何度も瞬の変身のメカニズムと、実際に変身した瞬間のことを語る。
視線で忍に問いかける瞬に、忍は頷く。サリーからも色濃く感じられるのはSubのフェロモンだ。
「ねえ、パパ──どうして褒めてくれないの? ずっと私のこと、自慢の娘だって言ってくれてたのに……瞬では足りないの?」
 縋るように問われても、瞬には答えようがない。ただ、記憶の中にある凛とした己の支配者が媚びるようにまとわりつく姿に寂しさを覚えた。手のひらを女性の髪にぽんと置いてぎこちなく撫でる。
「よくやったよ、ミュリアル。本当に頑張った。──偉いな」

 悔しさを押し隠して褒める。俺の存在はそんなことのためだったのかと問い詰めたくなるが、少なくとも今の彼女にはそんなことをしても無駄だ。それに同じSubとして、どれほど努力しても褒められない辛さはよくわかる。もらったものを返すと豪語するのならば、その対象には彼女だって含まれなくてはならないはずだと奥歯を噛み締めてゆっくりと抱き寄せる。
 
 その瞬の髪を無言で忍が撫でた。サリーの手前口には出せないが、瞬の方こそよく頑張っている。サリーが欲しくてたまらなかった一言にうっとりと目を細めた。多幸感に包まれたように肢体から力が抜ける。忍がそっとサリーを抱きあげて、アトリエの中に敷きっぱなしになっていた布団に横たえる。描きかけのアートの中の赤い髪の少年は、にっこりと笑ってサリーを見下ろしていた。
「Sub spaceに入ったんだ。彼女には悪いけれど、この間に手記を読ませてもらおう」
 顔を伏せている瞬に声をかける。ぎりっと歯軋りの音が響いた。
「まだ決めつけるのは早いよ……僕は読んだほうがいいと思う」
 宥めるような忍の声に小さく瞬が頷く。サリーから目を逸らして、奥に続くカーテンさえも締め切られた一部屋に足を踏み入れた。
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