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45話 幸福感に満たされる
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セシリアとまず向かったのは、なぜか演劇だった。
西区の一角に演劇を専門で披露する店があるらしい。
薄暗い店内で椅子に座りながら始まるのを待つが、その前に俺は言いたいことがあった。
「なあセシリア……」
「どうしたの?」
「この演劇……俺の見間違いじゃなきゃ恋愛ものだって書いてあったぞ」
「そりゃあ恋愛ものなんだから書いてあるでしょ」
「なぜ俺はお前と一緒に恋愛ものの演劇を見ないといけない」
「デートだから」
「ああ、なるほど」
そっか。デートだから一緒に恋愛ものの演劇を見るのか。
たしかに言われてみればその通りだ。
デートなんだし何の不思議もない。
——って、待て待て!
俺とセシリアはデートで恋愛ものの演劇を見るような関係か!?
もしかしてこれは、将来、主人公と彼女が付き合うための予行練習?
何のフラグも踏み抜いていない俺がセシリアに好意を持たれたとは思えないし、むしろカッコ悪いところばかり見られた。
今の彼女の中で俺の好感度なんかたかが知れているだろう。
だからこそこの状況に困惑を隠せないのだが……。
「あ、始まるわよ。楽しみね。この演劇、最近じゃ貴族の間でそこそこ有名なのよ?」
「へぇ……俺は演劇は見ないからな。良さが理解できるとは思えない」
「デート中にマイナスなこと言わない。黙って見てれば良さがわかるわよ」
「そういうもんか」
俺はセシリアに言われた通り、演劇が始まるのを黙って眺めた。
演劇の内容は、貴族令嬢の恋物語。
とある貴族令嬢が、最初は単なる知り合いだった貴族子息に恋をするというもの。
徐々に相手のことを意識し始め、言い寄るしつこい男から救われたところで恋に落ち、紆余曲折あって最後は結婚にまで行き着いた。
これの何が面白いのかサッパリわからないが、隣で俺が逃げないように手を握り締めるセシリアはものすごく魅入っていた。
真剣な表情で、時折なにかを同意するように頷く。
彼女の中では共感できる部分が多かったのだろうか?
とにかく、そのまま時は流れて演劇は終わる。
すると部屋の明かりが灯りまばらに観客たちがその場を立ち去って行った。
誰もが「楽しかった」とか「胸が苦しくなったわ」とか言ってる。
一ミリも俺には同意できなかった。
「演劇、終わったな。どうだったセシリア。俺には……」
言いながら彼女の方を見てびっくり。
なぜかセシリアの両目からは涙が流れていた。
「せ、セシリア!? おまえ、なんで泣いて……」
「え? 私、泣いてる?」
「少しだけな。そんなに面白かったのか? というか、感動したのか?」
「そう、ね。すごく共感できる物語だったわ。今日は来てよかったと心底思えるような」
「そ、そうか……それはよかったな」
「マリウスはどう? 面白かった?」
「あ、ああ。面白かったよ。たまには恋愛ものの演劇も悪くないな」
「でしょ? よかった。マリウスが気に入ってくれて」
「ははは……」
嘘である。
ほんとはぜんぜん面白いと思わなかった。
しかし、涙まで流したセシリアの前で「面白くなかったよ」なんて言えない。
そこまで空気を破壊する気にはなれなかった。
「泣いたら喉が渇いたわ。ちょうどお腹も空いてるし、次は昼食にしましょう」
「了解。店はどうする? この辺なら席が埋まってるってことはないだろうけど」
西区は貴族街と呼ばれている場所だ。
貴族はそんなに多くないから自然と満席になる店は少ない。
探そうと思えば簡単に店は見つかるだろう。
「そうね……私のオススメのお店があるから、そこで昼食を食べましょう」
「セシリアのオススメの店か。それは楽しみだな」
「マリウスの口に合うといいわね」
そう言って再びセシリアは俺と腕を組む。
柔らかな膨らみがなんとも言えない緊張感を生んだ。
「またこれか……」
「当然でしょ。今日のデート中はずっとこれよ。諦めて少しは楽しみましょ?」
「楽しめる気がしない」
「それはマリウスが辛気臭いからよ。何も考えなきゃいいの」
「それができたら苦労はしない」
「頑張って」
「頑張らん」
俺はセシリアに引っ張られるようにしてオススメの店とやらに連行される。
余裕ぶっていたが、今日のデートは意外と辛いぞ……。
これがあとなん時間続くのやら。
西区の一角に演劇を専門で披露する店があるらしい。
薄暗い店内で椅子に座りながら始まるのを待つが、その前に俺は言いたいことがあった。
「なあセシリア……」
「どうしたの?」
「この演劇……俺の見間違いじゃなきゃ恋愛ものだって書いてあったぞ」
「そりゃあ恋愛ものなんだから書いてあるでしょ」
「なぜ俺はお前と一緒に恋愛ものの演劇を見ないといけない」
「デートだから」
「ああ、なるほど」
そっか。デートだから一緒に恋愛ものの演劇を見るのか。
たしかに言われてみればその通りだ。
デートなんだし何の不思議もない。
——って、待て待て!
俺とセシリアはデートで恋愛ものの演劇を見るような関係か!?
もしかしてこれは、将来、主人公と彼女が付き合うための予行練習?
何のフラグも踏み抜いていない俺がセシリアに好意を持たれたとは思えないし、むしろカッコ悪いところばかり見られた。
今の彼女の中で俺の好感度なんかたかが知れているだろう。
だからこそこの状況に困惑を隠せないのだが……。
「あ、始まるわよ。楽しみね。この演劇、最近じゃ貴族の間でそこそこ有名なのよ?」
「へぇ……俺は演劇は見ないからな。良さが理解できるとは思えない」
「デート中にマイナスなこと言わない。黙って見てれば良さがわかるわよ」
「そういうもんか」
俺はセシリアに言われた通り、演劇が始まるのを黙って眺めた。
演劇の内容は、貴族令嬢の恋物語。
とある貴族令嬢が、最初は単なる知り合いだった貴族子息に恋をするというもの。
徐々に相手のことを意識し始め、言い寄るしつこい男から救われたところで恋に落ち、紆余曲折あって最後は結婚にまで行き着いた。
これの何が面白いのかサッパリわからないが、隣で俺が逃げないように手を握り締めるセシリアはものすごく魅入っていた。
真剣な表情で、時折なにかを同意するように頷く。
彼女の中では共感できる部分が多かったのだろうか?
とにかく、そのまま時は流れて演劇は終わる。
すると部屋の明かりが灯りまばらに観客たちがその場を立ち去って行った。
誰もが「楽しかった」とか「胸が苦しくなったわ」とか言ってる。
一ミリも俺には同意できなかった。
「演劇、終わったな。どうだったセシリア。俺には……」
言いながら彼女の方を見てびっくり。
なぜかセシリアの両目からは涙が流れていた。
「せ、セシリア!? おまえ、なんで泣いて……」
「え? 私、泣いてる?」
「少しだけな。そんなに面白かったのか? というか、感動したのか?」
「そう、ね。すごく共感できる物語だったわ。今日は来てよかったと心底思えるような」
「そ、そうか……それはよかったな」
「マリウスはどう? 面白かった?」
「あ、ああ。面白かったよ。たまには恋愛ものの演劇も悪くないな」
「でしょ? よかった。マリウスが気に入ってくれて」
「ははは……」
嘘である。
ほんとはぜんぜん面白いと思わなかった。
しかし、涙まで流したセシリアの前で「面白くなかったよ」なんて言えない。
そこまで空気を破壊する気にはなれなかった。
「泣いたら喉が渇いたわ。ちょうどお腹も空いてるし、次は昼食にしましょう」
「了解。店はどうする? この辺なら席が埋まってるってことはないだろうけど」
西区は貴族街と呼ばれている場所だ。
貴族はそんなに多くないから自然と満席になる店は少ない。
探そうと思えば簡単に店は見つかるだろう。
「そうね……私のオススメのお店があるから、そこで昼食を食べましょう」
「セシリアのオススメの店か。それは楽しみだな」
「マリウスの口に合うといいわね」
そう言って再びセシリアは俺と腕を組む。
柔らかな膨らみがなんとも言えない緊張感を生んだ。
「またこれか……」
「当然でしょ。今日のデート中はずっとこれよ。諦めて少しは楽しみましょ?」
「楽しめる気がしない」
「それはマリウスが辛気臭いからよ。何も考えなきゃいいの」
「それができたら苦労はしない」
「頑張って」
「頑張らん」
俺はセシリアに引っ張られるようにしてオススメの店とやらに連行される。
余裕ぶっていたが、今日のデートは意外と辛いぞ……。
これがあとなん時間続くのやら。
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