46 / 49
46話 唐突な告白
しおりを挟む
始まってしまった俺とセシリアのデート。
当たり前だが俺はあまり気乗りしていない。
誰が好き好んで主人公と付き合う予定のヒロインとデートして楽しめるものか。
しかも最初に向かった店が恋愛ものの演劇をやる場所だった。
内容もどこかで見覚えがあるストーリーだったし、恋愛話に共感も興味も抱けない俺には一切引っかかることのないものだった。
けれど、隣に座っていたセシリアは違ったらしい。
明かりが点き彼女の顔が鮮明に見えたと思ったら、なぜかセシリアは感動? して泣いていた。
そんなに演劇が面白かったのか?
俺はそう思ったが、どうやらセシリアにとってはかなり共感できる内容だったらしい。
俺はよくわからなかったが、まあ彼女が楽しめたならそれでいいか。
俺? 俺はぜんぜん。
面白くもつまんなくもなかった。
本当に単なる暇潰し程度の娯楽だったな。
そうして演劇を見終わった俺とセシリアは、今度は彼女がオススメする飲食店にやってきた。
公爵令嬢オススメの店だけあって、店内はきれいで装飾などが無駄に豪華だ。
それ食事に関係ないやんけ、と思ったが口にはしない。
とにかく店員に席に案内され、セシリアの対面に座った。
食事の時間はいい。食事の時間だけは何も起きない。平穏そのものだ。
俺は適当に肉料理を注文しながら、料理が来るまでの間、セシリアと先ほどの演劇について話をした。
まあ、俺はほとんど彼女の話に口を合わせるくらいしかできなかったが。
そして数十分。
ようやく俺たちが注文した料理が目の前に運ばれた。
「うん、美味しいな」
フォークで肉を切り一口。
噛み締めた瞬間に感想が飛び出た。
「でしょ? ここにはよく来るの。どの料理もすごく美味しくて。聞いた話によると、ここの料理人はもともと王宮に仕えていたとかなんとか。どうして王宮から出て店を開いたのかは知らないけど、おかげで美味しい料理が食べられるわ」
「へぇ。どうりで完成度の高い料理なわけだ」
俺も前世は庶民だが今世では貴族だからな。
しっかり舌は肥えている。けどそれでもウチの料理人を超えてる! と思えるほど美味しかった。
「気に入ったならまた一緒に来ましょう。私はお得意様だからいろいろと贔屓にしてくれるわ」
「悪くない提案だな……」
「あら、マリウスが素直に受け入れるなんて珍しい。今日は雨が降るのかしら」
「言ってろ。それだけここの料理を評価してるってことだよ」
「店主も鼻が高いでしょうね。公爵令息に令嬢からの賛辞なんて」
「肩書きだけは強いからな、俺らは」
「怠け者のあなたと一緒にしないでもらえるかしら? 宰相の娘としてそれなりに父の役に立ってるわよ、私は」
「そりゃあ凄い」
「褒めてるように聞こえない」
「超すごい」
「バカにされた気がするわ」
「どうしろって言うんだよ……」
何を言っても否定的な意見しか出てこないじゃないか。
「マリウスは褒めるのが下手ね。もっと素直に、心を込めて褒められないの?」
「心を込めて……ね」
「嘘でもいいから言ってみなさいよ。こういうのは社交辞令でも嬉しいものだわ」
「じゃあ。セシリアは立派だな。俺はやる気がなくて呆れられてるというのに。まあ、真面目なセシリアらしいと言えばらしいか。君のそんな真面目な姿が俺は好きだよ。輝いて見える。いつか、俺もそんな風になれるかなって思うよ」
なんて割と適当に褒めてみた。
露骨すぎてダメだろうなぁ……。
「そ、それほどでもないわ。マリウスだって……私は頑張ってると思う。周りがそれに気付かないだけよ。大丈夫。私だけはわかってるから!」
おおーい。
ちょろすぎだろお前!
なに頬赤くしてんだ!
超嬉しそうじゃん。ニヤニヤしてんのバレてんぞ!!
「すまん。ただの冗談だ。全部ウソ。言ってみただけ」
「殺すわ」
「ごめんって」
お前が嘘でもいいから言えって言ったんだろ。
リリアみたいなキレ方してないで、その手にしたフォークをテーブルに置け。
人に向けると危ないだろ。……あの、ほんとに危ないんでお願いします。
「まったく……やっぱりマリウスはダメね。変なところでへたれる。嘘でも嘘って相手に言わないのが常識よ」
「なるほど。だからリリアにも剣を向けられたのか」
向けられたって言うか殺されかけたけど。
「リリアにも同じことしたのね……当たり前でしょ。誰だって怒るわよ。好きな相手から冗談を言われたら」
「お前は違うだろ」
「っ……え、ええ、そうね。私のは単なる冗談よ冗談」
「ほんとか?」
あの目はガチだったぞ。
「当たり前でしょ! ……いえ、それはダメね」
「ん?」
急にセシリアの雰囲気が変わった。
覚悟を決めたような目を浮かべる。
この展開には何か覚えがあるぞ……。
「せっかくリリアがくれたチャンスだもの。有効に活かさないと。……マリウス!」
「あ、はい」
「私はあなたが好きよ。好きになってる。だから、今日のデートで必ず告白してみせるわ!」
「——はい?」
もう告白してますがな。
突然席を立った彼女は、ナイフを向けたままそう宣言した。
俺はあっけにとられながらも、心の中で疑問を浮かべる。
どうして、こうなった? と。
当たり前だが俺はあまり気乗りしていない。
誰が好き好んで主人公と付き合う予定のヒロインとデートして楽しめるものか。
しかも最初に向かった店が恋愛ものの演劇をやる場所だった。
内容もどこかで見覚えがあるストーリーだったし、恋愛話に共感も興味も抱けない俺には一切引っかかることのないものだった。
けれど、隣に座っていたセシリアは違ったらしい。
明かりが点き彼女の顔が鮮明に見えたと思ったら、なぜかセシリアは感動? して泣いていた。
そんなに演劇が面白かったのか?
俺はそう思ったが、どうやらセシリアにとってはかなり共感できる内容だったらしい。
俺はよくわからなかったが、まあ彼女が楽しめたならそれでいいか。
俺? 俺はぜんぜん。
面白くもつまんなくもなかった。
本当に単なる暇潰し程度の娯楽だったな。
そうして演劇を見終わった俺とセシリアは、今度は彼女がオススメする飲食店にやってきた。
公爵令嬢オススメの店だけあって、店内はきれいで装飾などが無駄に豪華だ。
それ食事に関係ないやんけ、と思ったが口にはしない。
とにかく店員に席に案内され、セシリアの対面に座った。
食事の時間はいい。食事の時間だけは何も起きない。平穏そのものだ。
俺は適当に肉料理を注文しながら、料理が来るまでの間、セシリアと先ほどの演劇について話をした。
まあ、俺はほとんど彼女の話に口を合わせるくらいしかできなかったが。
そして数十分。
ようやく俺たちが注文した料理が目の前に運ばれた。
「うん、美味しいな」
フォークで肉を切り一口。
噛み締めた瞬間に感想が飛び出た。
「でしょ? ここにはよく来るの。どの料理もすごく美味しくて。聞いた話によると、ここの料理人はもともと王宮に仕えていたとかなんとか。どうして王宮から出て店を開いたのかは知らないけど、おかげで美味しい料理が食べられるわ」
「へぇ。どうりで完成度の高い料理なわけだ」
俺も前世は庶民だが今世では貴族だからな。
しっかり舌は肥えている。けどそれでもウチの料理人を超えてる! と思えるほど美味しかった。
「気に入ったならまた一緒に来ましょう。私はお得意様だからいろいろと贔屓にしてくれるわ」
「悪くない提案だな……」
「あら、マリウスが素直に受け入れるなんて珍しい。今日は雨が降るのかしら」
「言ってろ。それだけここの料理を評価してるってことだよ」
「店主も鼻が高いでしょうね。公爵令息に令嬢からの賛辞なんて」
「肩書きだけは強いからな、俺らは」
「怠け者のあなたと一緒にしないでもらえるかしら? 宰相の娘としてそれなりに父の役に立ってるわよ、私は」
「そりゃあ凄い」
「褒めてるように聞こえない」
「超すごい」
「バカにされた気がするわ」
「どうしろって言うんだよ……」
何を言っても否定的な意見しか出てこないじゃないか。
「マリウスは褒めるのが下手ね。もっと素直に、心を込めて褒められないの?」
「心を込めて……ね」
「嘘でもいいから言ってみなさいよ。こういうのは社交辞令でも嬉しいものだわ」
「じゃあ。セシリアは立派だな。俺はやる気がなくて呆れられてるというのに。まあ、真面目なセシリアらしいと言えばらしいか。君のそんな真面目な姿が俺は好きだよ。輝いて見える。いつか、俺もそんな風になれるかなって思うよ」
なんて割と適当に褒めてみた。
露骨すぎてダメだろうなぁ……。
「そ、それほどでもないわ。マリウスだって……私は頑張ってると思う。周りがそれに気付かないだけよ。大丈夫。私だけはわかってるから!」
おおーい。
ちょろすぎだろお前!
なに頬赤くしてんだ!
超嬉しそうじゃん。ニヤニヤしてんのバレてんぞ!!
「すまん。ただの冗談だ。全部ウソ。言ってみただけ」
「殺すわ」
「ごめんって」
お前が嘘でもいいから言えって言ったんだろ。
リリアみたいなキレ方してないで、その手にしたフォークをテーブルに置け。
人に向けると危ないだろ。……あの、ほんとに危ないんでお願いします。
「まったく……やっぱりマリウスはダメね。変なところでへたれる。嘘でも嘘って相手に言わないのが常識よ」
「なるほど。だからリリアにも剣を向けられたのか」
向けられたって言うか殺されかけたけど。
「リリアにも同じことしたのね……当たり前でしょ。誰だって怒るわよ。好きな相手から冗談を言われたら」
「お前は違うだろ」
「っ……え、ええ、そうね。私のは単なる冗談よ冗談」
「ほんとか?」
あの目はガチだったぞ。
「当たり前でしょ! ……いえ、それはダメね」
「ん?」
急にセシリアの雰囲気が変わった。
覚悟を決めたような目を浮かべる。
この展開には何か覚えがあるぞ……。
「せっかくリリアがくれたチャンスだもの。有効に活かさないと。……マリウス!」
「あ、はい」
「私はあなたが好きよ。好きになってる。だから、今日のデートで必ず告白してみせるわ!」
「——はい?」
もう告白してますがな。
突然席を立った彼女は、ナイフを向けたままそう宣言した。
俺はあっけにとられながらも、心の中で疑問を浮かべる。
どうして、こうなった? と。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
110
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる