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第七章 私の幸せに貴方たちは不要です
歪な愛情の行き着く先は
しおりを挟む「やけに、あっさりと終えたわね。派手な断罪とかしてそうだったのに。ましてや、破棄でなく解消なんて。賠償金、かなりの金数絞り取れたんじゃない?」
放課後、ジルお兄ちゃんのカフェで、前日のことを話し終えると、アンは微妙な表情をしながら、そんな感想を述べました。
「確かに、破棄にすれば容易に取れましたね。証拠も十分ありましたし」
「でしょ」
「アンには悪いけど、派手な断罪なんて、小説か劇中の世界しか存在しませんよ。破棄にしなかったのは、賠償金を拒否したかったからです。その賠償金、元はカシム伯爵家のものでしょ。お金には罪はありませんが、あの元毒親たちと関わっていたものは、正直触りたくないの。なんか穢る気がして」
呆れながらも正直に答える私に、アンは少しむくれながら反論します。
「まぁその気持もわかるけど、少し勿体ないわね。それだけの苦痛を受け続けていたし。派手な断罪とはいかなくても、それに近いものがあってもよかったんじゃない。参考にはならないけど、似たものはあったわけだし」
当然、アンが言っているのは卒業パーティーの出来事です。
「あれは断罪ではありません。ただの茶番ですわ。もしくは、もどきですね」
今思えば、小説の世界を、そのまま現実で行うなんて、お花畑の方々の考えそうなことだと納得しますね。ま~それも、お粗末過ぎる内容でしたが。
因みに、ジュリタリア様もゴンバー様も相手方の有責による婚約破棄手続きをし、賠償金をがっぽり貰って、さっさと留学先に戻って行きました。暫く帰っては来ないでしょうね。下手したら、ずっと戻らないかもしれません。でも、最後は晴れ晴れとした表情をしてましたわ。
吹っ切れたようで安心しましたが、私は到底、先輩たちのように晴れ晴れとした心境にはなれません。
つい一時間前、生徒会顧問のマキシル先生から、レク様たちのことを聞いていたからです。それから、色々考えたら……反対にゾッとして、背筋が凍り付きましたわ。
「もどきって……まぁ、そうよね。形すらなってなかったわね。もどきにもなれなかったんじゃない。そうそう、訊いた? あの兄妹、学園に休学届を出したそうね。ほんと、こんな時も仲良しよね。あれ? 驚かないわね、もしかして知ってたの?」
「ええ……」
婚約解消した翌日、レク様とリーナ様は休学届を提出したと聞きました。
なんでも、レク様が抜け殻のようになって引き籠もっているそうです。リーナ様はレク様を献身的に支えていると、重ねて聞きました。
その話を聞いて、ふと思ったの。
リーナ様はレク様を愛しているのではないかと――
それは、兄妹の枠に嵌まらない感情ではないかと。元々幼馴染、血は繋がってはいません。幼少期、よく遊んでいたら、そんな感情を抱いてもおかしくはありません。
そして、彼女の闇。
彼女が私に執着したのは、レク様が執着したから。私を排除したら、レク様を失う可能性が大だと考えたのなら……彼の願いを叶えるために動くのでは。そうすれば、レク様は自分を頼る。
幼少期から一緒にいれば、自ずとその思考もレク様に感化され、彼の闇に染まってもおかしくはありません。元々、そうした資質があったようですし。
歪な愛情。
そこまで考えた時、思い至ったのです。結果的にリーナ様の思惑通りになったのではと……全身に悪寒が走りました。
物欲の塊であるリーナ様が一番欲しかったのは――
私の想像通りなら、レク様にとっては、最低最悪なバッドエンドですね。
「シ~ア、眉間に皺が寄ってる。深く考えない方がいいわ。その未来を選んだのは、レラージュ様自身なんだから」
恋愛関係に疎い私でもわかるぐらいです。アンがわからないわけないですね。
「……そうですね」
もう、考えるのを止めにしましょう。排除した人間なのだから。
「それで、婚約解消のこと、もう教えたの?」
唐突な話題変換に、私は思わず素で答えます。
「誰に?」
そう訊いてから、はっと気付きます。
「顔赤いわよ、シア。ほんと、可愛い。それで、知らせたの?」
ニヤニヤしながら訊いてくるアンは、絶対、底意地が悪いです。
「……一応、心配はしてくれてましたし、報告はしますよ」
「そう。でも、その手紙が届く前に、突撃して来そうよね~」
なんで、語尾伸ばすの。なんか、遊ばれてる気がしますわ。
「そんな、暇な方ではありませんよ」
「何言ってるの!? レラージュ兄妹の執着もかなり凄かったけど、あの方も、それに負けず劣らずの執着心を持ってるわよ。まぁ、あそこまで歪じゃないだろうけど」
なんか、アンが怖いことを言ってます。そんな相手のことを考えろと、この前、散々言っていたでしょ!!
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