人喰い遊園地

井藤 美樹

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第三章 ミラーハウス

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『丁度、ゲストが入って来ましたね。それでは、皆様中央のモニターを御覧下さい』

 道化がモニターを指差す。

 そこには、五人組の男女が映し出されていた。やけに、派手な容姿をしたグループだった。一人だけ、普通の容姿をした学生が混じっている。

(ん? 跡地にいた、あのグループか……)

 勇也はその大学生のグループに見覚えがあった。大きな声ではしゃいでいた。悪目立ちしていたグループだ。

 彼らの楽しそうな会話がモニター越しに聞こえてくる。

 どうやら、本人たちは肝試しの延長のように思っているようだ。もしくは、何かのイベントに参加してると思ってるのか。緊張感も危機感も全く伝わって来ない。

 まだ酒が抜けていないのか、やたら大声で話をしている。ほんと品がない。モニターを見る限り、他に客がいないからいいが、いたら絶対顔をしかめてるぞ。それくらい五月蝿かった。その後ろを、少し距離をおいて、暗い顔をした学生が歩いている。あまりにも対照的な様子だった。

 モニターを操作しているのは、背中にスタッフのロゴが入ったポロシャツを着たあやかしたちだ。

 そう……。勇也の体を欲し、レン太の一声で倒れたあの青年の体を、無理矢理、自分から引き剥がして連れて行った連中だった。

 そもそも何で、自分たちがこんな場所にいるのか。アトラクションをキャラクターと一緒に巡るものとばかり思っていた。

 だけど、あやかしの遊園地が企画したプレミアムツアーは、普通の園内ツアーじゃなかった。

 よくあるような、人気があるアトラクションをキャストと回るものじゃなくて、人気アトラクションのを回るものだった。#

 そう……ーー。

 という訳で、勇也たちは今ミラーハウスのスタッフルームに来ていた。

 勇也はずっと苦々しく顔を歪めたまま、前方のモニターを睨んでいた。そんな勇也の横顔を、巽たちは心配そうに見詰めている。

 聞こえてきた話の内容で、巽たちは薄々何があったか理解出来た。全てじゃないが。それは、想像の域を出ていないレベル。でも、その想像が正しいのかどうかを、確かめることは難しい。様々な感情が、別の意味で彼らの顔を歪めさせていた。

 睨んでいる勇也の脳裏に過るのは、さっき交わしたレン太の言葉だった。何度も何度も繰り返される

『この肉体はもう使えませんから、解体して、加工して、販売するんです』

 棄てるなど勿体無い。いくら小汚なくて不味そうでもだ。

 活用出来る部位は沢山ある。人間はとてもとても貴重なのだ。あやかしにとって、動かなくなった人間の解体は、特に残虐なことでもおかしなこでもなかった。当たり前に行われていることだ。人間も同じことをしている。同種じゃないが。

 だから、勇也にもオブラートに包むことなく、レン太は教えた。

 レン太の台詞に凍り付く勇也。失敗したとレン太はすぐに察した。

 だが、途中で止める訳にはいかなった。誤魔化したり途中で止めたら、勇也は心を閉ざす。僅かにある信頼を失う訳にはいかない。ならば、最小限に止めるだけだ。ショックを受け、声が出ない勇也に尚もレン太は続けた。

『勇也様も分かってると思うけど、今さっきまでコレに入ってたのは、あやかしだからね。これが、ミラーハウスの真相かな。勇也様が気になってるのは、この肉体の持ち主の魂だよね。その魂なら、もうこの世にはいない。死んでしまったからね。……正確に言えば、肉体は生きていたけど、心は死んだ状態だったんだよ』
 
 敬語でも恫喝でもない。キャラに近い話し方。だけど、若干声のトーンが低い。素に近いのかもしれない。

 しかし勇也は、話の内容がショッキング過ぎて、レン太の話し方とトーンが変わったことに全く気付いていなかった。

「…………心が死んでいた?」

 勇也はポツリと呟く。レン太は頷く。

『そう、死んでいた。……この人間の場合、原因は苛めかな。かなり酷い苛めを受けてたみたいだから。それで、長い間引きこもっていたらしい。……死にたいけど、死ぬ勇気がなくて、自分では死ねない。心が疲弊して、壊れて、死んでしまった可哀想な人間。そういう人間を、僕たちは使うんだよ。人間で言う、自殺幇助っていうのかな。俺たちが必要なのは、器、肉体だけだからね。……でも、あやかしを入れれるのは二回が限度なんだよね。異物だから、どうしてもが出てしまうんだよ』

 レン太はそう言いながら、青年が着ていたシャツの裾を捲る。青年の腹には、紫の内出血のような痣が広がっていた。痛々しい。

(これが、レン太が言う。拒否反応か……)

「それで、もう使えなくなった肉体は廃棄するのか!!!!」

 吐き捨てるように、勇也は声を絞り出す。

『廃棄はしませんよ。勿体無い。ちゃんと、再利用しますから。ご安心下さい、勇也様』

 そう答えたのは、レン太ではなく迎えに来た道化だった。

 その後ろには、真っ青な顔をした巽と、表情をなくした柳井と華が立っていた。

 自分とレン太の会話を、巽たちはどこから聞いていたのだろうか。分からないが、勇也は止めることが出来なかった。

「解体することが、再利用か!!!!」

 勇也はあやかしたちを怒鳴る。ミラーハウスにその声が虚しく響いた。

『だって、勇也様。勇也様が抱いてるのはだよ。同種だから嫌悪感があるのかな。でも、人間も鶏や豚や牛を食べるよね。勿論解体して。それとどう違うの?』

 不思議そうにそう答えたのはレン太だった。



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