人喰い遊園地

井藤 美樹

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閑話〈大学生編〉

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『なかなか、賢い人間たちですね。それにとても冷静だ。的確な判断も出来る。度胸もあるし、かなり優秀な部類の人間ですね』

 モニターを見ながら、道化は率直な感想を述べる。

 今まで、何度も何度も同じような場面を繰り返し見てきた。時には、参加したこともあった。だがここまで、一度もパニックにならずにいた人間はいただろうか? いや、いなかったな。道化は胸の内で呟く。

 極限の状態に追い込まれても、自分を見失わずに連携がとれるチームはほんと珍しかった。

 といっても、平気で仲間を恋人を【生贄】に出すあたりは、鬼畜な行為なのだか。それ以前にクズだし。そもそも、クズじゃなかったら、こんな目に合うこともなかった筈だ。

(でもまぁ、こんなクズがいるから、俺たちは助かってるんですけどね)

 道化はモニターを見ながら、そんなことを考えていた。だが、レンレン太は、

『これから、もっと楽しくなるんでしょ、麗さん。だから、勇也様を帰したんでしょ』

 わざとらしい程明るい声で麗に話し掛ける。

 レンの声音に、麗は僅かに綺麗な眉をしかめた。勇也を帰した麗をどこか責めてる感じを受けたからだ。とはいえ、麗にとって赤子同然に等しいレンに、いちいち目くじらをたてることはしない。

 この建物に入って来た時から、麗はレンと道化をモニター越しだが、一目見て気付いていた。

 目の前にいるあやかしたちは、思いの外、勇也をいたく気に入っていることに。本人がそれに気付いているかは別だが。まぁ、麗自身も勇也のことは意外と気に入っていた。壊したくはない程度には。

が気に入るのも頷ける)

 麗は胸の中で呟く。

 だが今は、モニターに映る人間たちの料理が先だ。

 クズ女たちは簡単に壊した。時間をあまり掛けずに。でも苦しむ方法で。それが中川の希望だったからだ。だが、男たちは違う。

 特に残虐に、そしてゆっくり、ゆっくりと時間を掛けて、じっくりと地獄を味合わせたい。肉体的にも精神的にも。但し、完全に壊れないように注意しながらだ。ギリギリまで精神と肉体も生かす。

 それが、中川がクズ四人に対しての【復讐】だった。

 壊すことなく、最大の苦しみを味合わせ続ける。麗にとってその依頼は、最も得意とする分野だった。

『レン。自分のことを優秀だと思っている人間たちを、絶望の底に叩き落とすのが、何よりも楽しいと思わぬか? ……ほんに、久々に楽しめそうじゃの』

 モニターを見ながら、麗は心底嬉しそうに楽しそうにニタリと笑った。反対に、レンと道化はゴクリと唾を飲み込み黙り込む。

 勇也がもしこの場に居れば、絶対「悪趣味」だと言いそうだが、あいにくここには、そんな命知らずなことを言う者はいなかった。

 皆知っているのだ。

 麗にとってどんな豪華な食事より、自分のことを優秀だと思っている人間、中でもプライドが高い奴が絶望に落とされた瞬間に浮かべる表情が、何よりもご馳走だということを。

 そして今、当の本人はとても機嫌がいい。

 久々に楽しめそうだからだ。ずっと口角が上がっている。

 最近の若者は軟弱過ぎてすぐに壊れてしまう。そのせいで、いまいち楽しめ切れなかった。脆過ぎて手を抜かなければならなかったからだ。だが今回は、手を抜かなくてすみそうだ。

(ほんに、久々よの……。早々に壊れぬなよ)

 麗はとても嬉しそうに微笑みながら、膝に抱えている人形の髪を優しく撫でた。

『フフ。嬉しいようじゃの? 我もよ。ほんに、よい魂の色をしておる。待っておれ。我がとびきりの宴をじっくり見せてやろうぞ』

 笑みが深くなる。

 途端に、モニター室は極度の緊張感に包まれた。

 圧倒的なプレッシャーに押し潰されそうになりながらも、平常心を保っているのは道化とレンだけだ。後のスタッフたちは、失敗しないように、震えながらキーボードを操作していた。中には倒れてしまったスタッフもいる。



 上手く誘導出来た。

 ここまではあくまで仕込み段階。不安を植え付けるだけ。殺すつもりは初めからない。

『さて。そろそろ、仕込みは終わりとするかの。……レン、道化。次の宴に移ろうか。特別ゲストも首を長くして待っておるわ。早速、招待しようかの』

 チラリと右端にあるモニターに麗は視線を向ける。

 そこに二つの影が映った。一つは鬼。もう一つは若い人間だった。

 必死な表情で、人形と対峙している村山と松井。彼らが映っている中央モニターに麗は視線を戻すと、心底楽しそうに告げたのだった。



 さぁ、第二ゲームの幕開けだーー。



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