上 下
17 / 354
第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

罠に嵌りました

しおりを挟む


 考えるよりも早く反射的に体が動いた。

 そりゃあそうよね。何度も何度も殺されたんだもの。魂が覚えてるわ。速攻ベッドから飛び降り、さっき開けた窓に向かう。そのままバルコニーに出て、柵に手を乗せた時だった。

 背後に人の気配がした。

 と同時に、腰を抱え込まれる。

「酷いな。俺に挨拶も無しに行こうとするなんて」

 耳元で殿下の声がした。言葉遣いが少し違うことなんて気付かなかった。必死で逃げようと足掻く。だが、がっしりと腰を抱え込まれていて動けない。そのまま室内に連れ戻される。

 だったらーー。

 反対に殿下の、いやアレクの腕をガシッと掴む。同時に指輪に仕込んでいた魔法が発動した……した…………?

 魔力耐性のある人でも、簡単に痺れさせ気を失わせる程の雷魔法を仕込んでいた。なのに、アレクの腕の力が少し緩んだ程度だった。

 それでも隙は出来た。思いっ切り爪先を踏み付ける。靴履いとけばよかったわ。でも、かなり痛かったよう。掴む力は全くない。アレクから離れると転移魔法を発動させたが掻き消される。

 魔法の無効化!? だから、魔法具が上手く発動しなかったのね。

 そしてこの術式は、この部屋全体に仕掛けられている。なら、物理的に出て行けばいいだけのこと。開いている窓に再度向かう。当然、アレクも窓に向かう。反射的な動きだった。

 だけど私はそう見せ掛けて、踵を返し、扉に向かった。さっきは靴履いとけばよかったと思ったけど、履いてなくて大正解。靴を履いてたら踏ん張れなかった。

「逃がすか!!!!」 

 追いつかれる!!

 扉に手を掛けた。開けようとしたが開かない。

 何で!?

 チッと舌打ちをすると、背後に忍び寄るアレクの手を躱す。そして、アレクとの距離をとった。

 アレクと対峙する。

 その表情は、さっきまでの殿下とは全く違うものだった。雰囲気も纏う魔力も違う。そもそも、殿下には魔力がなかった筈。なのに、目の前の殿下には魔力がある。それも莫大な。

 どういうことなの!?

「無駄だな。もう、この部屋から出られないぞ。残念だったな。魔法使っただろ。その時、この部屋の術式が発動したんだ。対暗殺者用の罠がな」

 話し方もまるで違った。いつもの殿下のおどおど感が全くない。

 完全に別人だーー。

 それにしても、暗殺者用の罠とはね。それも自分を餌しての罠だ。

 確かに今の殿下なら、暗殺者なんて余裕に対処出来るわね。元、英雄様だし。

 この罠は、自分自身が敵に対処するためのものだ。騎士や暗部の力を借りるものじゃない。相変わらず、人を信用しない奴ね。まぁ、気持ちは分かるけど。色々お互いにあったからね。

 にしても、最悪だわ。

 罠を解除するには、アレクが解除するか、私が倒れない限りむりだってこと。解除しようと思えば出来る。でも、目の前にいるアレクの対処をしながらは、まず不可能。

 だからといって、諦めるわけにはいかない。決してね。

 今度こそ、絶対天寿を全うするんだから!! 考えろ!! マリエール。同時に時間も稼がなきゃ。取り敢えず落ち着こう。

 ここで選択を間違ったら、全てが終わる。

 同じ肉体に全く違う人格。片方には魔力がなくて、片方には魔力がある。これって……まさか…………

「……アレク。殿下をどこにやったの?」

 間違ってるかもしれない。一か八かの賭けだ。だけど自分を信じて問い掛ける。心臓がバクバクしてる。

「変なことを言うね。マリエール」

 殿下と同じ姿形をした悪魔アレクはニヤリと笑う。とぼけるきか、こいつ。

「そう……じゃあ、言い直すわ。殿下を表に出して。私は殿下と話をしたい」

 そう言い放った瞬間、アレクの顔が大きく歪んだ。私は畳み掛ける。

「アレク。殿下を出して」とーー。

 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ヒロインのシスコンお兄様は、悪役令嬢を溺愛してはいけません!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,742pt お気に入り:1,119

婚約破棄させてください!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,470pt お気に入り:3,013

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,679pt お気に入り:307

処理中です...