今度こそ絶対逃げ切ってやる〜今世は婚約破棄されなくても逃げますけどね〜

井藤 美樹

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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです

まだ始まってもいないのよ

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「構わん」

 陛下の声と共に室内が薄暗くなる。

 そして照らし出されたのは、暗部が密かに撮っていた映像だった。口頭で報告しても信じてもらえないので、撮ったものを使用させてもらったのだ。

 そこに映っているのは、荒らされる前の離れの様子。

 映像を見ている貴族は一応に眉を顰めているものが多い。

 そりゃあそうよね。

 他の貴族から見れば、映っているのは、朽ち果てようとしている小屋だけだし。ましてや、その小屋の周囲は草が生え、手入れがされてないのは明らかだった。

 そんな映像を何の説明も無しに見せられてもね~~。ここに私が住んでたなんて誰が思う? 普通思わないわ。

「ここは、マリエールがつい先日まで暮らしていた部屋だ」

 殿下が語気荒く言い放つ。

 ざわめきがより一層大きくなった。もはや、生ゴミを見る目で屑一家を見下ろしている。

「マリア様が亡くなって一か月後、公爵はそこにいると連れ子を本宅に住まわせた。今まで使っていた部屋を追い出されたマリエールが押し込められたのが、この離れだ」

 殿下は今度、悲痛感を漂わせながら語り始める。中々の役者よね、殿下も。

 私も目元を潤ませながら応戦。

 応戦しながら、さり気なく私はパーティーの参加者たちの反応を確かめる。反応は皆大体同じだった。女性は口元に手を当て言葉を失い、パートナーである男性は女性を慰めながら、屑一家を蔑み切った目で睨み付けている。

 中には「自分の子を!! 恥を知れ!!」と怒鳴る者もいる。周囲は私たちの味方ね。

 思惑通り、屑一家は完全に孤立した。そんな中、

「こんなのは捏造だ!!!!」

 屑が叫んだ。

 ほんと阿呆ね。自分の手で自分の首を締めている。真綿で締めるようにゆっくりとね……

 気を付けないと笑みが零れそうになる。今私は悲劇の真ん中にいるんだから。笑顔は絶対駄目。

「捏造? それはない。この映像を提供してくれたのは、暗部で働く者たちだ。公爵、貴方は我が王族に仕える暗部が嘘を吐くと言いたたいのか」

 厳しい声で殿下は言い放つ。

「暗部……?」

 反対に、屑は半ば呆然としている。

「当然だろう。マリエールは私の婚約者だ。暗部が付いていてもおかしくないだろ。そんなことも気付かなかったのか。まぁ気付かないからこそ、こんな場所に平気で追いやることが出来たのだろうな」

 映像は更に続く。

 侍女が運んで来るのは、家畜でも食べないような食事。
 
 型落ちしたドレスが五着しか入っていない、クローゼットの中。

 そんなドレスを繕っている私の姿。

 薪割りをしている姿。

 雑草を調理している姿。

 薄い毛布に包まる姿。

 そして、ソフィアが暴言を吐き、部屋で暴れている様子。

 ソフィアが物を壊す姿。

 侍女や従者、執事が私を罵り陰口を叩く姿。

 私がコツコツと作った薪を持って行くよう指示をする執事。持って行く使用人。

 それを見て、笑っている屑一家。

 無音声で流れる映像の数々に、皆、涙する。新年のパーティーなのに。

「これでも、まだ虐待はしていないというのか。公爵? たった七歳の子供を、私の婚約者を、よくも、よくも、こんな場所に押し込めたな!!!! ましてや、あの食事は何だ!!!!」

 殿下が声を荒げる。私が止めないと、殴り掛かりそうな勢いだった。いや、別に殴ってもいいんだけど、ついうっかり殺しちゃったら困るからね。

 殿下を止めていたら、屑が吹き飛んだ。勢いよくね。飛んだね~~。殴ったのはお父様。貴族たちから悲鳴が上がる。

「この鬼畜が!!!!」

 周りの悲鳴を気にすることなく、更にボコボコにしようとしたら、騎士団長と師団長が止めた。

「さすがに、これ以上は駄目だ!!」

「そうだよ。僕が編集した映像、まだ続くんだから」

 私はお父様の側に寄り、殴った手をソッと握り締めた。

「私のせいで、お父様の手が、公爵なんかの血で汚れるのは嫌ですわ」

「そうだよ。手がけがれるよ。マリエールちゃんがそう言ってるんだから、少し落ち着こうよ」

 私と師団長の説得に、お父様は「チッ」と舌打ちすると、屑の襟足を掴み乱暴に引きずる。障害物関係なしだね。

 自慢の顔が腫れ上がってるわ。いい気味。糞女はソフィアを抱き締め震えている。今のお父様の顔って、悪鬼そのものだもの。免疫ないと恐怖で震えるわね。

「では、続きを流すか」

 皆戻って来たところで、何事もなかったかのように告げる陛下。

 糞女が何か言いたそうに陛下を見ているけど、陛下は完無視だ。元騎士団長のようにいくって思ってるなら、甘いわ。甘過ぎるわ。理解出来ない程にね。

 陛下の合図で、今から流されるのは、私がお父様と一緒に屑の屋敷に行った時のもの。それプラス、私の日記の一文。

 私はハンカチを屑に差し出しながら、吐息程の小さな声で屑に告げる。

「公爵様。そして、元義母様に元愚妹。ここからがメインですわよ。気をしっかりお持ち下さいね」と。

 この台詞で屑たちは気付いただろう。全てが仕組まれていたことに。自分たちがまんまと罠に嵌ったことに。

 覚悟しなさい。

 貴方たちの地獄はまだ始まってもいないのよ。

 

 
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