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第一章 人生、まてしても超ハードモードから始まるようです
もう一つの断罪(執事視点)
しおりを挟むパーティー会場で屑一家の断罪が行われていた頃、この場所でも、もう一つの断罪が行われようとしていた。
門番は何をしてるんだ!!
突然、騎士を含め二十人を超える大人数で彼らはやって来た。
「貴方たちはいったい何者ですか!? いきなり押し掛けて来て!! ここはラング公爵家のお屋敷ですよ!!!!」
普段声を荒げることのないラング家の執事である私が、突然現れた侵入者に対し怒鳴る。
ソフィアお嬢様のお祝いの準備で忙しいのに。何の用だ。また、あの子憎らしい娘の仕業か。だが、もうあの娘はいない。伯爵家に養女に出された。あの庶子の家にな。あの娘にはお似合いだ。これで、ソフィア様の未来は約束されたも同然だ。
「我々は、グリード公爵家の者です」
無表情の青年が答える。
グリード公爵家? 公爵家にグリードはいない。伯爵家ならいるが。まさか、あの伯爵家か。
「いつから、伯爵家が公爵家になったのです?」
やはり、あの娘の仕業か。本当に、底意地の悪い娘だ。旦那様や奥方様、ソフィア様を、散々苦しめ続けた上、大事な日まで台無しにしようとしてるのか!?
不愉快を隠そうとせずに私は尋ねる。
しかし、目の前にいる青年は気にも留めずに平然としている。それが、却って不気味だ。
まさか、本当に公爵家に格上げになったのか……?
思案していると、青年がニヤリと笑みを浮かべた。
笑み……?
それは一瞬で、見間違いと思った程だ。嫌な予感がする。何故か背中がゾワッとする。
青年は無表情のままゆっくりと口を開いた。
「何の祝いがあるかは存じませんが、今この時をもって、ラング公爵家の取り潰しが決定しました。これから、この屋敷はグリード公爵家の管轄になります。これが、その旨が記された書状です。ご確認を」
……何を言ってる?
ラング公爵家が取り潰されただと……
私は青年が持って来た書状を乱暴に奪い取ると確認した。
確かにこの書状には、ラング公爵家の取り潰しと、屋敷の所有権がグリード公爵に渡ったことが記されていた。王印も捺されている。疑いようもない。間違いなく、国王陛下が下したものだった。
頭で理解するよりも早く、体が反応した。
目の前が真っ暗になった。体に力が入らない。膝から崩れ落ちる。
ほんとに……ラング公爵家は取り潰されたのか…………
呆然としている私を、青年はニヤリと嘲笑い見下ろしていた。
「そこに隠れている侍女。そう、貴女です。この屋敷で働く者全員をここに呼んで来なさい。早く」
柱に隠れていた侍女に青年は命令する。脱兎の如く、侍女はその場を後にした。
その場に残ったのは、グリード公爵の者たちと私だけ。
「…………旦那様……奥方様……ソフィア様は…………」
私の呟く声が聞こえたのだろう。青年は冷たい目で私を見下ろしながら答える。
「ラング元公爵は貴族籍を剥奪され、今は地下牢に投獄中。愛人である女もな。その連れ子も一緒だ」
「……愛人……連れ子……?」
そう呟くと、更に馬鹿にした口調で答える。
「罪状を読んでないのか? そこにちゃんと書かれているだろ? 議文書偽造ってな。婚姻届を偽造したんだ。お前たちが馬鹿みたいに心酔していた奥方様とお嬢様は平民だった訳だ」
奥方様とソフィア様が平民……そんな馬鹿な!? 私は……平民に仕えていたのか……
「ところで、私も貴方に訊きたいですね。……どうして、マリエール様をそこまで虐げた? 平民に意地悪をしたからか? 笑わせる。唯一の味方である母親が死に、一か月もしないうちに本宅に愛人を引き込み、母親の部屋を愛人仕様にした。ましてや、自分の居場所を奪われ、廃墟に追いやられた子供が、少し意地悪をしたからってそれが罪になるのか?」
「…………」
まるで、自分のことをゴミのように見下ろす青年に、私は何も言い返せなかった。
「お前たちにも訊きたいな。誰か教えてくれないか?」
集まった者を見渡し、青年は問いただす。誰も声をあげない。いや、あげれない。
「連れ子が泣いていたから、マリエール様が虐めた? お前らは阿呆か。実際、その目でマリエール様が虐めている場面を見たのか?」
そう訊かれて、始めて私たちは気付いた。誰一人、あの娘が、ソフィア様を虐めた場面を見た者がいないことに。
もしかして……虐めていない…………そんな……だとしたら、私は…………
「だけど、私は知っている。いや、王都に住む全員が知っている。一人を除き、この場にいる全員がマリエール様を虐げ、時には罵倒し、虐待をし続けたことを。中には、あろうことか剣を向けた者もいる。武器も持たない、十歳の子供に対してだ。成人した大人がよく出来たものだ。恥を知れ!! 心底、私は軽蔑する。この場にいる全員を。よって、一人を除き、全員をこの時をもって解雇する!! 全員、荷物を持って屋敷から出て行け!!!!」
静かだったホールが途端に喧騒に包まれた。全員が、青年に対し膝を折り嘆願する。
この場に残してくれと。
あの娘に謝らせてくれと。
それは全部、自分の保身のためだ。この場に追いやられても、誰一人、心から謝ろうとする者はいない。
その醜さに、青年は冷たい視線を更に冷たくする。まるで、汚物を見るような目で自分たちを見据えると、低い声で言い放った。
「これは主である、グリード公爵様の意向だ。紹介状も何もない。反対にお前たちを紹介した者、或いは家族に対し、正式な抗議文を既に送ってある。分かったらさっさと出て行け。ここにお前たちの居場所はない。素直に出て行かないのなら、騎士に引き渡す」
その声と同時に半ば叩き出される私たち。
グリード公爵家の侍女だろう。手際よく荷物が運び出されている。どれもが、元奥方様とソフィア様の物ばかりだ。
「これを全部売っても、マリエール様の賠償金の一部にもならないな」
その独り言に、私は頭に血がのぼった。反射的に殴り掛かる。だが、全く相手にならなかった。今度は、青年によって、床に叩き付けられる。
「騎士に引き渡しますか?」
グリード公爵家の一人が青年に尋ねる。だが、青年は「いや、いい」と断わった。
そのまま私は、男たちに引きずられ、門の外に物のように捨てられた。
目の前で閉まる、鉄門。
今、自分にあるのはただ、ただ、絶望だけだ。
紹介状もなく、抗議文を送られた私たちの未来はないだろう。
どこで、自分は間違った……
私はただ……旦那様を不幸せにする者を許せなかっただけだ。それだけだったんだ……
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