ヤンデレ狼の英雄様に無理矢理、番にされました。さて、それではデスゲームを始めましょうか

井藤 美樹

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初めての大喧嘩

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「三日でいいんだ……学園を休むことができないか?」

 馬車から降りた途端抱き締められ、そのまま部屋に運ばれた。よほど心配したんだろう、小刻みに身体が震えている。私はその背中をポンポンと叩く。

 しばらくして、落ち着いたカイナル様が言った台詞がこれ。

 つまり、ラメール侯爵夫妻へ突き付けた期日まで休めって言ってるの。私の身の安全のために。その気持ちは嬉しいよ。だけどね、私の答えは始めから決まっているの。すべてを聞いた後もね。

「……休むことはできません」

 あ~目が段々光が失い始めたわ。

「なぜだ? 俺はシアのことが心配なんだ。大丈夫、あの花畑たちは俺が排除するから、シアは大人しく待っているんだ、いいな」

 まだ声を荒らげてるうちはいいんだよね。でも、病んでる面が出でくると……静かな声になるんだよね。

「待つだけは嫌です。伯爵令嬢の件は私が気付かないうちにすませていましたが、今回は違います。ラメール侯爵令嬢様は、この私に正々堂々とカイナル様を奪うと宣言しました」

 そこまでは言ってないけど、似た台詞は言ってたよね。

「だから、なに?」

 さらに進むよ、病んでる状態が。

「カイナル様は、私がそこまで言われて、腹を立たないとは思わないのですか?」

 少しだけ、カイナル様の瞳に光が戻る。だけどすぐに、光は消えた。

「シアは、そんなことを考えなくていいよ。君は俺だけのことを考えていればいいんだ。友人を持つことは許そう。シアの味方になるから。でも、それ以外の者を想うのは許さない。それが、苛立ちや嫌悪だと――」

「離してください。私に触らないで!!」

 カッとした私は、カイナル様の台詞を最期まで聞かずに彼を突き飛ばした。といっても、その体格差でほとんど突き飛ばせていないけど。でも、彼の腕からは逃げ出すことはできた。

「シア」

 カイナル様が手を伸ばしてくる、私はその手を払い除け、彼から距離をとった。

 その行為がさらに、地雷を踏んだってわかってる。デスゲームのゴールに何駒も駒を進めたことも、だけど、私にも地雷があるの。カイナル様は私の地雷を踏んだ。

「カイナル様がほしいのは番じゃない。自分の言うことを聞くペットでしょ。カイナル様なんて大嫌い!!」

 そう叫ぶと、私は部屋を飛び出した。

 飛び出したのはいいけど、いくところなんてないんだよな……数年前は月一回程度で家族と会っていたけど、次第に会わないようになっていったし。帰りたいな……でも、帰れない。迷惑になるだけだから。平民と口にしていても、私の姿を見て平民という者はいない。それほど変わってしまった。髪の毛はサラサラで、嘗て豆やひび割れだらけの荒れた手は白いスベスベに。

 平民でもなく貴族でもない、中途半端なのが、今の私――

 私を変えたのはカイナル様だ。私もそれを受け入れて変わることに決めた。決めざるえなかったけど、受け入れたのに……姿形すがたかたちだけでなく、内面も。

 どうしようかな……

 陽が暮れ出した庭の木の下にポツンと座っていると、いきなり両脇の下に手を突っ込まれ、抱き上げられた。

「こんなところでどうしたんだい? ユリシア。カイナルと喧嘩でもしたのか?」

 なっ、なんと、私を抱き上げていたのは義お父様だった。そして、その隣には義お母様が。全然気付かなかったよ。

「あらあら、こんなに冷えてしまって、お母様とお風呂に入りましょう」

 あれよあれよという間に、私は義お父様に抱っこされ義お母様と一緒に連れていかれてしまった。途中、カイナル様がなにか言いたそうに、私に手を伸ばしてきたけど、無視したら、その場に崩れ落ちていた。

 義お父様も義お母様もとても優しい。私を本当の娘のように可愛がってくれる。時には過剰なほどに。

 流されるまま、義お母様と一緒にお風呂に入っていると、包み込むような優しい笑顔で提案してくれた。

「いつまでも、私たちの傍にいていいからね、ユリシアちゃん」

 カイナル様の所に戻らなくてすむのはありがたいけど……

「訊かないのですか? 喧嘩の理由」

 訊きたそうにもしていないので、私から切り出してしまった。誰かに聞いてもらいたいからだと思う。

「悪いのはカイナルでしょ。それに、喧嘩の原因になったのはあの馬鹿親子でしょ!! ほんと、親子二代で!!」

 当時のことを色々思い出したのかな、もの凄い剣幕で怒り出す義お母様。お湯が勢いよくはねてるよ。その姿を見てると、羨ましくなった。

「……義お母様はいいですね、素直に怒れて。私は否定されました。怒ることを、そんな感情を持つことも、駄目だって言われました」

 だから、つい吐き出してしまった。

「どういうこと?」

 真正面から訊かれて、私は身体の向きを変える。

「自分だけ見ていろって。ラメール侯爵令嬢様のことに対して怒る必要はないと言われました」

「そう……」

「ラメール侯爵令嬢様が、始めて私に喧嘩を売った時、私はカイナル様が私の番だと、運命だと言いました。だけど、それでも、彼女は私を批判し続けた。再度、喧嘩を売られたのです。なら、私は買いたい。怒りたい。伯爵令嬢の時は気付かないうちに終わっていたけど、今回は違います。この大陸で最強と言われているカイナル様の番として、私はこの手で完膚なきまでに叩きのめして勝ちたいのです。私が抱くこの感情は番が持ってはいけないのでしょうか? カイナル様は認めてくれません。だとしても――」

 そこまで言った時、義お母様が私の両手を強く掴んだ。

「誰がなんと言おうとも、私が応援するわ!! ユリシアちゃん」

 最強の味方が増えました。


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