言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹

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神罰が一回だけとは限らない

11 諦めたくないの

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 私の問い掛けに、ダラキューロ様は、沈んだ暗い表情を浮べ、重く口を開く。

「……そうですね。人質としてなら、生かすのが当然でしょう」

 あまりにも含みのある言い方に、私の表情は険しくなる。まるでもう、その侍女がこの世にいないかのような言い方だったから。

「……まるで、亡くなったかのような表現ですね」

 思わず、そう口にしていた。

「ミネリア王女殿下のご推察通り、侍女はすでにこの世にはいません」

 ダラキューロ様の言葉に、私は完全に言葉を失った。

 死にたくなくて必死で生きようとしている人を、私はこれまでその目で見てきた。そんな中で、簡単に扱われる命の軽さに、私の胸が鋭く痛む。思わず、胸を押さこむほどに。

 そんな私の肩を、イシリス様が優しく手を添え抱き寄せてくれた。

「犬、猫のように殺したのか?」

 ずっと黙って聞いていたイシリス様が尋ねる。寒くはないのに、その口元からは白い息が吐き出された。

 ダラキューロ様は小さく首を横に振る。

「正確に言えば、死に追いやったのです……直接的ではないにせよ、殺したのは間違いありません。ただ、国王ではありません。殺したのは、屑王子です」

「屑王子が?」

 私はイシリス様から体を離し、姿勢を正した。

「侍女には婚約者がいました。平民でしたが、愛し合っていたそうです。二年、侍女として城に上がった後婚姻する予定だったと聞いています。ですが、屑王子が嫌がらせか、それとも、ただたんに食種が動いたのか、無理矢理ーー」

 さすがのダラキューロ様も最後まで言えなかった。

 怒りで、私はギリギリと奥歯を噛み締める。

「侍女は自ら命を断ったのですね」

 わかりきっていたこととはいえ、どこまでも、自分たち王族以外を人としては見ていないのね。屑どもが!! 

「何度も関係を無理矢理強いられ、自分の婚約者、そしてリアスとの板挟み。追い詰められた侍女は、とうとう自ら命を断つまでに」

 その前に救えなかったの?

 そう口に出しそうになった。救えたのなら、救っていただろう。ダラキューロ様もリアス様も。

 それにしても、下半身が使えなくなっただけじゃあ、甘いわね。

「侍女がこの世を去り、リアス様はさぞかし己を責めたでしょうね。そしてそれは、今も続いているのね」

 リアス様の自己評価の低さは、心を虐げられ、自我を奪われたことからきたものだったのね。

 だって、あの屑たちが、リアス様に侍女の死を内緒にするわけないでしょ。あることないこと、面白おかしく吹聴して、リアス様を追い詰めるに違いないわ。自分が楽するためだけにね。

 その度に、侍女は死後も辱めにあう。

 人の皮を被った屑たちは、リアス様の苦痛に歪む顔を酒の肴にして楽しんでいたってわけね。

「はい……」

 とても心痛な様子で小さく頷くダラキューロ様。

「リアス様が自信を取り戻すのは時間が掛かりますね。でも私は、リアス様を専属侍女にすることを諦めていませんわ」

 心の傷を癒やすのは、体以上に時間が掛かる。

 しかし、リアス様の場合、その傷が癒えることは絶対ないわ。だからといって、その傷を気にして先に進めないのは悲しいと思う。だから私は、諦めたくないの。

「……ありがとうございます、ミネリア王女殿下」

 ダラキューロ様は深々と私に頭を下げ、部屋を出て行った。彼が出て行ってから、私は小さな声で呟く。

「下半身がなくなっただけじゃ甘いですわね、イシリス様。屑とはいえ人族だったので、人族としての最低限の扱いをしてきましたが、もはや、その必要はありませんね。……人の皮を被ったバケモノだもの、それなりの対応に変更しなくてはね」

 私はイシリス様にそう提案する。

「そうだな。バケモノに慈悲の心は必要ないからな」

 その言葉に私は頷いた。

 
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